現代の最強王者・井上尚弥(大橋)の2025年初戦は期待どおりの圧勝だった。"モンスター"は1月24日、有明アリーナで行なわれた世界スーパーバンタム級4団体統一王座の防衛戦でWBO同級11位のキム・イェジュン(韓国)に4回KO勝ち。2週間前に急遽決まった代役挑戦者を寄せつけず、最後はニュートラルコーナー付近で強烈なダウンを奪って貫禄を見せつけた。31歳になっても衰えを感じさせない井上は、まだまだしばらく世界ボクシング界の中心であり続けそうだ。
今後の対戦相手候補としては無敗ランカーのアラン・ピカソ(メキシコ)、WBA暫定王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)といった名前が挙がっているが、海外のボクシング関係者が望んでいるのはどんなカードなのか。5月に予定されるアメリカ再進出戦は、どんなイベントになるのか。軽量級に精通する3人の在米ベテラン記者にふたつの質問をぶつけ、井上の近未来を占ってみた。
【パネリスト】
◆ダン・カノービオ(ニューヨーク在住。人気ポッドキャスト「Inside Boxing Live」のホストを務める X: @DanCanobbio)
◆ロン・グッダル(ラスベガス在住。FightHype.comのリード・マネージング・エディター X : @FightHypeRonG)
◆カーラン・バティア(ニュージャージー在住。ESPNなどでインタビュアー、ホスト、実況を務める X : @CurranBhatia)
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カノービオ : フェザー級に上げるか、さもなければ中谷潤人(WBC世界バンタム級王者/27歳)と戦ってほしい。中谷戦は疑いもなく日本では特大のイベントになるに違いない。もしも井上vs.中谷戦が実現するのであれば、私はこれまで一度も訪れたことのない日本に渡るために最善を尽くすだろう。今の井上がスーパーバンタム級にとどまり続ける理由は、バンタム級で戦う中谷が上がってくるのを待つことだけだ。井上がサウジアラビアのリヤドシーズンと結んだスポンサー契約がどう影響してくるのかはわかりかねるが、中谷戦はぜひとも成立させてほしいと、心底から願う。
グッダル : 中谷との戦いだ。中谷はサイズ、パワーがあり、知性的な戦いもできるオールラウンダー。パウンド・フォー・パウンドでもトップ10に入ってしかるべきだし、バンタム級では彼に匹敵する選手は見当たらない。ひとつ下のスーパーフライ級で戦うジェシー・"バム"・ロドリゲスは才能のある選手だが、まだ若さが残っているように思う。中谷こそが井上にとって最大の脅威になるボクサーであり、そんな選手との対戦はプライドをかけた戦いになるだろう。
以前、中谷に「まず、私の弟を倒せ」とメッセージを送っていた井上の姿からは、自分のほうが上位だという誇りが感じられた。プライドはボクサーのベストを引き出す場合があれば、その逆もある。中谷と戦えば日本のファンの意見、予想も少なからず割れそうであり、実現すればすごいイベントになるだろう。その戦い以外、井上には今の階級にやり残しがあるとは考えられず、中谷戦の成立が難しいのであればフェザー級に上げてほしいと願う。
バティア : 楽しみな対戦相手を挙げるとすれば、井上同様に特別なボクサーであるように思える中谷だ。現状でひとつしか階級が離れていないのであれば、このカードを組まない手はないし、もちろん日本で興行してほしいスーパーファイトだ。ほかには"バム"・ロドリゲスの名前も挙がっており、そのように自分自身を試すことができる相手が周辺階級に、今後も現れ続けることを願ってやまない。
2.4〜5月に噂される井上のアメリカ再進出は楽しみなイベントになると感じているか?
カノービオ : 井上のラスベガス再進出戦が組まれるというなら、もちろん私はベガスに飛ぶ。今の井上はボクシング関係者を興奮させるだけのオーラをまとっている。私は昨年6月、全米ボクシング記者協会の年間賞セレモニーで彼に対面できたが、それはワクワクするような経験だった。アメリカではなかなか会えない選手だから、私と同じように感じる関係者、ファンは多いに違いない。
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今春、本当にアメリカで試合を組むのであれば、大注目のステージになるはずだ。サウジアラビアの少なめの観客の前で試合をこなすよりも、やはりアメリカの大アリーナで戦ってほしい。
グッダル : もちろんエキサイティングなイベントになる。アメリカのボクシング関係者のなかには、アメリカで頻繁に戦う姿が見られていないという理由で井上の真価に懐疑的な者が、いまだに存在する。もちろん井上の強さはもう誰もが認識しているが、上質なアトラクションであることはアメリカのリングで証明されなければいけないと考えられているからだろう。
個人的にも、知名度が大きく上がった段階で行なわれる今回の再渡米戦で井上がどう受け取られるかが楽しみだ。ハードコアなボクシングファン、アジア人のコミュニティは熱狂的に迎えるだろうし、その実現性はともかく、井上とジャーボンテ・デービス、"バム"・ロドリゲスとの階級を超えたスーパーファイトの待望論がこれまで以上に出てくるかもしれない。ひとつ希望を言えば、セミファイナルには中谷潤人の試合も組み込んで、日本人同士のスーパーファイトへの期待感を煽ってほしいとも思う。
バティア : 井上は常に新しいチャレンジを求めているように感じる。またアメリカで戦うとなれば、彼にとってそれはまた新たな挑戦になるのだろう。舞台は長くボクシングの聖地であり続けてきたラスベガスになるのだろうが、ロサンゼルス、ニューヨークでも今なら大観衆の動員は可能なはずだ。
軽量級最大級のビッグネームになった井上はもうアメリカのリングを必要とはしていないが、あくまで彼自身が望むのであれば、それは興味深い動きになる。再度のアメリカ進出によって、井上はさらにファンベースの層を広げることができるに違いない。
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