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2025年01月25日 12:31 ITmedia PC USER
デタッチャブル型2in1 PCの定番として定着した、日本マイクロソフトの「Surface Proシリーズ」。2024年6月に発売された個人向けの新モデル(第11世代)は、同社が「新しいAI PC」として推進する「Copilot+ PC」の初号機として登場した。
この最新モデルは、ボディーのデザインやサイズこそ同年4月にリリースされた先代と変わらないが、フレッシュなカラーバリエーションをそろえると共に内部構造を一新。システムの中核にはArmアーキテクチャベースのSoC「Qualcomm Snapdragon Xシリーズ」を採用し、Arm版Windows 11 Homeをプリインストールするという、アグレッシブに攻めた製品となっている。
直販サイトでは、ボディーカラーの他、画面や基本スペックの異なる複数の構成が用意されている。今回はSnapdragon X Eliteと有機ELディスプレイを搭載する上位構成の16GBメモリ/512GB SSDモデル(サファイア:直販価格29万5680円)を評価機として入手したので、レビューしていこう。
【更新:19時】一部内容について更新を行いました
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●安定の「キックスタンド搭載2in1タブレット」
Surface Pro(第11世代)は、タブレットスタイルの本体にキックスタンドを搭載しており、単体で自立できる構造だ。別売のデタッチャブルキーボードと組み合わせて使うことで、タブレットスタイルはもちろん、ノートPCスタイルでも活用できる。
このスタイルは初代から変わらず、11世代目に当たる本製品も踏襲している。ボディーのサイズは約287(幅)×209(高さ)×9.3(厚さ)mmで、先々代(第9世代)や先代(第10世代)と共通だ(純正キーボード類も共用可能)。本体の重量は若干ながら増えて約895gとなっている。
カラーは4種類で、定番の「プラチナ」に加えて、「サファイア」「デューン」「ブラック」の4色で展開される(後から追加された5G対応構成はプラチナのみ)。評価機はサファイアモデルだが、上品に輝く淡いメタリックブルーが好印象だ。所有欲を刺激する見た目に仕上がっている。
●USB4端子は2基装備 USB PDによる給電にも対応
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本体のポート類は、左側面にUSB4(USB Type-C)端子×2を、右側面にSurface独自の「Surface Connect」端子を備えている。USB4端子はUSB PD(Power Delivery)による電源入力と、DisplayPort Alternate Modeによる映像出力に対応する。有線のイヤフォン/ヘッドフォン/ヘッドセットを使う場合は、別途USB Audio規格に準拠したオーディオアダプター類を用意する必要がある。
バッテリー容量については、「公称バッテリー容量」が53Whで、「最小バッテリー容量」が51Whという表記となっている。恐らく、出荷時の容量に一定の個体差があるため、このようにしているのだろう。公称のバッテリー駆動時間は、ローカルな動画再生で最長約14時間、アクティブなWeb使用時間が最長約10時間とされている。
付属のACアダプターはSurface Connect端子に接続するタイプだ。最大出力は39Wで、実測サイズは90(幅)×50(奥行き)×22(厚さ)mm、重量は220g(ケーブル込み)だ。
●Snapdragon X Elite構成は「有機ELディスプレイ」搭載
Surface Pro(第11世代)は、大きく分けると下位の「Snapdragon X Plus+液晶ディスプレイモデル」と、上位の「Snapdragon X Elite+有機ELディスプレイモデル」に二分される。それぞれに内蔵メモリとストレージの容量のオプションがいくつかあり、5G対応モデルは事実上の固定構成となる。
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今回はSnapdragon X Elite+有機ELディスプレイモデルをレビューしているが、搭載している有機ELディスプレイはパネル解像度が2880×1920ピクセル(アスペクト比3:2/267ppi)で、sRGBの色域を100%カバーし、リフレッシュレートは最大120Hzに対応する。タッチ操作/ペン入力も可能で、表面は光沢(グレア)加工だ。
ディスプレイの上部には、WQHD(2560×1440ピクセル)撮影と顔認証に対応するWebカメラを搭載している。背面側にも約1000万画素のカメラを備えている。
●Bluetooth接続も可能な「フレックスキーボード」
先述の通り、Surface Pro(第11世代)はキーボードとペンが別売だ。販路によっては本体とセット販売されることもあるが、基本的には必要に応じて準備する必要がある。
キーボードについてはSurface Pro 8/X以降との共通オプションで、既存の「Surface Pro キーボード」「ペンストレージ付き Surface Pro キーボード」に加えて、本製品に合わせて登場した新製品「Surface Pro フレックスキーボード」も利用できる。
今回の評価機は、Surface Pro フレックスキーボードの「Surface スリム ペン」付きが付属してきた。フレックスキーボードにはスリム ペン(直販価格2万2270円)が別売のパッケージ(直販価格6万2480円)と付属するパッケージ(8万80円)の2種類がある。Surface対応ペンを既に持っている場合は別売パッケージを買うとよいのだが、その場合はカラーがブラックのみとなる。
このキーボードはポゴピンによる接続に加えて、Bluetoothによる無線接続にも対応している(※2)。公称サイズは約221(幅)×28(奥行き)×5.25(厚さ)mm、重量は約340gで、Bluetooth接続用のバッテリーも内蔵されている。奥側には充電機能付きのペン収納部も備える。カバー外側やパームレストは、スエード調の人工皮革「アルカンターラ」を使用し、手になじむ感触に仕上げられている。
(※2)Windows 10がプリインストールされている対応モデルにおいてBluetooth接続で利用する場合は、OSをWindows 11にバージョンアップする必要があります
●SoCはSnapdragon Xシリーズ OSはArm版Windows 11 Home
冒頭でも触れた通り、Surface Pro(第11世代)は、Qualcomm製のSoC「Snapdragon Xシリーズ」を採用する。液晶ディスプレイモデルはCPUコア10基の「Snapdragon X Plus」を、有機ELディスプレイモデルはCPUコア12基の「Snapdragon X Elite(12コア)」を搭載している。
Snapdragon X EliteにはCPU/GPUの動作クロックが異なる4モデルがある。同SoCを採用するCopilot+ PCでは、シリーズのエントリーモデルである「Snapdragon X Elite X1E-78-100」を採用することが多いのだが、Surface Pro(第11世代)のSnapdragon X Eliteモデルにはその上位に当たる「Snapdragon X Elite X1E-80-100」が搭載されている。
X1E-80-100には、12基あるCPUコアのうち最大2基に対して「DualCore Boost」を適用できる。そのため、CPUコアは通常最大3.4GHzで駆動するが、最大2コアまで4GHzまでブースト可能だ。
メモリはLPDDR5X-8448規格で、評価機は16GBを備える(最大32GBで増設/換装不可)。ストレージはPCI Express 4.0 x4接続のM.2 SSD(Type 2230)で、評価機は512GBのモジュールを搭載していた(最大1TBで条件付きで換装可)。
●NPUを使って快適なオンデバイスAI体験を味わえる、が……
Snapdragon XシリーズのCPUコアは、Armアーキテクチャがベースだ。ゆえに、Surface Pro(第11世代)にプリインストールされているのも、Arm版のWindows 11 Homeとなる。
Arm版Windows 11を搭載するCopilot+ PCには、x64版に先駆けてNPUを活用する新しいAI機能が複数導入された(Intel/AMD製SoCを搭載するCopilot+ PCでは「Windows 11 Insider Preview」一部チャネルでテスト提供中)。
例えばペンでのスケッチから画像を生成できる「コクリエイター」機能は、Surface Proのような2in1タブレットとの相性は抜群に良い。また、AIを使ってWebカメラの映像に複数の効果を加える「Windows Studio Effects」では、高速なNPUを備えるCopilot+ PCならではの追加機能も用意されている。
Copilot+ PCにおける目玉機能となる「リコール」機能では、PC上で見たもの/操作したものを過去にさかのぼって探し出すことができる……のだが、現時点ではWindows Insider PreviewのDeveloperチャネルに参加している人向けにテスト提供中という段階で、一般のCopilot+ PCへの提供にはもう少し時間がかかりそうだ。
ArmアーキテクチャのCPU(SoC)とArm版Windows 11は、Intel/AMD製のCPUを前提とするx64版とは異なり、アプリや周辺機器との互換性に無視できない課題を抱えている。
一応、x64アプリをエミュレーションで動かす機能が備わっており、意外と多くのアプリが問題なく動作するCPUアーキテクチャに強く依存するアプリは動かない。また、エミュレーションで動くx64アプリとArmネイティブアプリとの相互運用ができないという問題も抱えている(「ARM64EC」でコンパイルされたアプリを除く)。例えば、日本語IMEである「ATOK」はエミュレーションで動作するものの、「Microsoft Edge」を始めとするArmネイティブアプリでは文字入力に使えない。
●900g以下のタブレットとは思えないパワフルなパフォーマンス
ここからは、評価機でいくつかのベンチマークテストを実行してみよう。特に言及がない限り、Windows 11の電源設定は「最も高いパフォーマンス」で測定している。
「CINEBENCH 2024」(最低実行時間10分)のマルチコアテストのスコアは849ポイントだった。過去にテストした「Vivobook S 15 S5507QA」や「Yoga Slim 7x Gen 9」と比べると劣りはするものの、Core Ultra 7 155Hを搭載する「Swift Go」は上回っており、タブレットというフォームファクターを考えると大健闘している。「約895gのタブレット」だと考えると、かなりパワフルともいえる。
さらに、CPUコアのシングルスレッド性能は、さらに“強力”だ。評価機ではシングルコアテストのスコアが124ポイントと、過去にテストした全てのSnapdragon X Elite X1E-78-100搭載機よりも高いスコアをマークした。評価機がワングレード上のX1E-80-100を搭載しており、2コアだけでも最大4GHzまでブーストできるメリットが奏功しているのかもしれない。
「Geekbench 6」のスコアはさらに良好で、CPUテストに関してはシングル/マルチコアいずれにおいてもSnapdragon X Elite搭載機でトップだ。DualCore Boostの恩恵にあずかれるシングルコアテストは、その差が歴然としている。
Microsoft Officeを利用してテストする「PCMark 10 Applications」もシングルスレッドの比重が大きいテストだが、こちらのスコアも良好だ。
キーボードが別ユニットになっているデタッチャブル式のため、これだけのパワフルな性能を発揮しながら、高負荷時でもキーボードに不快な熱が伝わってこない点も強みといえる。
なお、バッテリーの駆動時間については、画面の輝度を50%、Windows 11の電源設定を「推奨」に設定してから「YouTube」の動画を連続再生してバッテリー残量をチェックするという方法でチェックした。すると約1時間経過した段階で11%減っており、計算上は9時間程度の視聴ができることが分かった。公称値が「ローカル動画再生時で13時間」としていることを考えると妥当といえる。
●パフォーマンス的な意味で可能性が広がったパワフルな2in1 PC
Surface Pro(第11世代)の直販価格は、最小構成で20万7680円だ。先述の通り、今回の評価機の直販価格は29万5680円で、SSDを1TBに増量すると32万8680円となる。
この状態でもSnapdragon X Elite搭載機としてはトップクラスに“高価”なのだが、別売のキーボードとペンまでそろえると、選択肢によっては40万円程度になってしまう可能性もある。Armアーキテクチャゆえの互換性問題を踏まえると、(現状で)互換性に小さくない課題を抱えるPCにこの金額をポンと支払える人はかなり限られるのではないだろうか。
「新しいAI体験ができるCopilot+ PC」をいち早くアピールすべく、Arm版Windows 11で機能を先行開発することまでしてSnapdragon Xシリーズを採用したPCを出す――そんなMicrosoftの“アグレッシブさ”には驚かされたが、それとは裏腹に価格設定は“保守的”ともいえる。Windows on Arm(Arm版Windows)のエコシステムをもっと“本気で”育てたいのなら、もっと戦略的な価格にしても良かったようにも思う。
とはいえ、本機はパワフルなパフォーマンスと電力効率を兼ね備えた、Snapdragon X EliteというSoCの特徴をフルに引き出せている。Bluetoothでも接続できるフレックスキーボードの導入により、2in1デバイスとしての可能性は大きく広がった。洗練された外観や品質の高さも強みだ。
ローカルAIアプリを含めたArm対応アプリの動向次第では、グッと魅力が増してくる可能性がある。
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