スウェーデンのチャルマース工科大学や米国立標準技術研究所(NIST)、米メリーランド大学などに所属する研究者らが発表した論文「Thermally driven quantum refrigerator autonomously resets a superconducting qubit」は、量子コンピュータの重要な課題である量子ビット(キュービット)のリセットを超電導回路から作られた自律的に動作する冷却装置で実行した研究報告である。
量子コンピュータの実用化における最大の課題の一つは、エラーの発生頻度が高いことである。特に量子ビットが偶発的に加熱され、エネルギー状態が上昇すると、計算開始前の段階で既にエラー状態に陥ってしまう。この問題に対する解決策として、量子ビットを冷却して正しい状態にリセットする方法が注目されていた。
研究チームは超電導回路を使って量子冷却器を作り、これを使って量子ビットを極めて低い温度まで冷やすことに成功した。特筆すべきは、この装置が外部からの制御を必要とせず、自律的に動作する点である。
従来の量子ビットのリセット方法では、45〜70ミリケルビン(mk)という温度限界があり、また数百マイクロ秒という時間がかかっていた。新しい冷却器は量子ビットを22mkまで冷やすことができ、しかも約1マイクロ秒(最短で970ナノ秒)という短時間で処理できる。
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この装置の仕組みは、3つの量子系の相互作用を利用している。まず、目的の量子ビットと2つの補助的な量子系(キュディットと呼ばれる多準位の量子系)を用意する。そして2つの補助系をそれぞれ異なる温度の熱浴(温かい場所と冷たい場所)に接続する。この温度差をエネルギーの源として利用し、3つの量子系の相互作用を通じて、目的の量子ビットから熱を効率的に取り除くことで、より低温な状態を実現できる。
このように3つの要素間の量子力学的な相互作用を精密に設計することで、目標量子ビットの過剰なエネルギーが自動的に除去される仕組みを実現した。具体的には、温度差を駆動力として、高温側の量子系から低温側の量子系へ、目標量子ビットから低温側の量子系へと熱が流れる経路が形成される。この自律的なプロセスにより、外部からの制御なしで量子ビットを基底状態へとリセットすることが可能となった。
この研究結果において、特に外部からの制御を必要としない自律的な動作は、実用化に向けて重要な利点となる。また、この技術は既存の超電導量子コンピュータの設計と互換性があり、実際のシステムへの組み込みも可能である。
Source and Image Credits: Aamir, M.A., Jamet Suria, P., Marin Guzman, J.A. et al. Thermally driven quantum refrigerator autonomously resets a superconducting qubit. Nat. Phys.(2025). https://doi.org/10.1038/s41567-024-02708-5
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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