「試合後の選手のコメントとしては、珍しいほどにバッサリ」
ヘタフェ戦後、スペイン大手スポーツ紙『アス』は、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英の試合後インタビューを、そんな見出しをつけて紹介している。
久保は、本拠地レアル・アレーナで、0−3と不甲斐ない戦いで格下に敗れた自軍を「(チームが)ファンの声援を受けているけど、それに値しない」と猛批判した。「こういう時こそ、一体となるべき」と言いながらも、「何もうまくいかず、苦しんだ。ホームで0−3なんて、全然よくない」と、屈辱的なスコアでの敗戦に我慢がならないようだった。
思うように得点ができず、波の激しい試合を繰り返すチーム状況に不満を示していた。それは"怒っていた"という表現のほうが正しいだろう。そこには、かつての古巣ヘタフェ相手で、自分を手厚く扱わなかったホセ・ボルダラス監督に目にものを見せることができなかった悔しさも含まれていたのだろうか。
「VERGUENZA」
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久保は、スペイン語で「恥」という言葉を使っている。これはスペイン語のなかでも、かなり強い批判色を持っていて、公然と使うことを避ける選手も少なくない。汚い表現はもっと多くあるのだが、際どい表現なのだ。
1月26日(現地時間)のヘタフェ戦、久保はどのようなプレーだったのか。
久保はいつものとおり、右サイドを蹂躙した。もはや定番になったふたりがかりのマークを受けるが、少しも意に介することなく、仕掛け、崩し、ミケル・オヤルサバルやセルヒオ・ゴメスに決定機をお膳立てした。最後は3、4人が挑みかかってきたが、今度は引きつけて味方にアシスト。ひとつでもゴールが決まっていたら、状況は変わっていたはずだ。
この日、『アス』だけでなく、『マルカ』紙など多くのスポーツメディアが、ラ・レアルのなかで久保だけに星ふたつをつけていた。ひとり気を吐くプレーの連続。まさに別次元だった。
それでも、どうにもならなかったことに、久保本人は明らかに怒っていた。たとえば後半アディショナルタイム、試合の趨勢は決まっていたが、ひとり、あきらめていない。自ら攻めかかり、一度はボールを失うも、すぐに気迫をみなぎらせて取り返し、果敢に右足でシュート。わずかに外れたが、最後はたったひとりでも打開しようと、全力を尽くしていた。
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その姿は、怒りで燃えているようだった。
【スペイン人以上の勝負への厳しさ】
「RABIA」
それはスペインで、「激怒、憤怒」という意味だが、一流選手になるひとつの条件と言われる。怒りのエネルギーを、プレーに変換できるか。
アスリートの世界では、怒りはしばしば否定される。自制心、冷静さを失わせ、プレーレベルを下げることもあるからだろう。共闘するなかで、亀裂を生じさせることもある。しかし、コンタクトが基本にあるサッカーでは、しばしば怒りが感覚を研ぎ澄ませ、怒りを用いることができる者が最強を誇るところがあるのだ。
怒りは、特にアタッカーにとっては個性と言える。リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドは、敵側から「決して怒らせるな」と、まるで目覚めたら火を吹く竜のように恐れられていた。実際、彼らは劣勢で暴言を受けたあと、あるいは不遜なファウルを受けたあとには「辱められた」と感じるようで、手がつけられなくなった。そこで、スイッチが入るのだ。
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「スペイン人よりも、スペイン人らしい」
現地でそう言われる気性の激しさこそ、久保の特徴と言えるだろう。バルセロナの下部組織ラ・マシア時代から、チームメイトが面食らうほどの気の強さだった。プレーや勝負に厳しく、誰よりも要求していた(日本人はそれくらい戦う姿勢を見せないと、まだまだ侮られてしまうという側面もある。また現地では最近、スタジアムでの人種差別も問題になっているが、それに屈する選手は生き残れない)。
そして久保は、久保だけの基準を持っている。それに満たないことに関しては怒りを示すのだ。
何度も書いてきたことだが、過去2シーズン、ラ・レアルは補強に失敗している。英雄ダビド・シルバの引退による混乱は情状酌量の余地はあるにせよ、アレクサンデル・セルロートの代わり獲得したストライカー候補が、ウマル・サディク(バレンシアへ移籍)からオスカールソンまで今のところは全滅。オヤルサバルがゼロトップで健闘しているが、限界はある。今シーズン、決定力の低さが致命傷になっているのは必然だろう。
久保は、その現場でもがいているのだろう。
「RABIA」
それこそ、久保が日本人サッカー選手としてスペインで未踏の域に達することができた理由と言える。今後も、限界を打ち破ることができるのか。ただし、怒りは諸刃の剣でもあり、彼の厳しすぎる発言を毛嫌いする人もいないわけではない......。
次は中3日、ラ・レアルはヨーロッパリーグ、リーフフェーズ最終節で、ギリシャのPAOKサロニカと戦う。ノックアウトフェーズ(9−24位でラウンド・オブ16進出を争う)に進めるか。シーズンを占う、落とせない一戦だ。