アメリカのトランプ大統領の就任式が行われ、2期目の政権がスタートした。アメリカ第一主義を掲げるトランプ2.0に日本企業はどう向き合えばよいのか。
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第2次トランプ政権始動 前政権を批判し政策転換トランプ大統領:
アメリカの黄金時代が、いま始まる。ただシンプルにアメリカを第一に考える。
アメリカ第一主義をかかげ、大統領に返り咲いたトランプ氏。就任演説ではバイデン氏の目の前で前政権を批判し政策転換を宣言した。
トランプ大統領:
今日、国家エネルギー非常事態を宣言する。掘って、掘って、掘りまくれ
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各国が懸念している関税政策については、大統領就任初日からの発動はなかった。2月1日からカナダとメキシコに25%の関税を検討していることを明らかに。さらに…
トランプ大統領:
(合成麻薬の)フェンタニルをメキシコやカナダに送っているという事実に基づき、中国に対して10%の関税を課すことを検討している。(開始時期は)おそらく2月1日になる。
アメリカ第一主義をかかげ、突き進むトランプ大統領。こうした中、ホワイトハウスに日本の企業のトップが。「ソフトバンクグループCEOの孫正義氏だ。」トランプ大統領は1月21日、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長らと並んでホワイトハウスで記者会見し、アメリカでAI=人工知能開発を進める民間企業の共同事業「スターゲート」を立ち上げると発表した。
ソフトバンクグループ 孫正義 会長兼社長:
アメリカの黄金時代の始まりだ。これは素晴らしい一例だ。
ソフトバンクグループのほか、ChatGPTを展開するオープンAI、ソフトウェア大手のオラクルが参加し、今後、アメリカ国内でのデータセンターの建設などに5000億ドル、日本円で78兆円あまりを投資するとしていて、アメリカ国内で10万人以上の雇用を生み出すとしている。
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一方、トランプ大統領の要求は、とどまるところを知らない。1月23日、世界の政財界のリーダーが集まる「ダボス会議」で行われたリモート演説では…
トランプ大統領:
サウジアラビアとOPEC(石油輸出国機構)に原油価格の引き下げを要請するつもりだ。
トランプ大統領は、エネルギー輸出に依存するロシア経済に打撃を与え、ウクライナとの早期の停戦に応じるよう圧力をかける狙いだと説明。さらに…
トランプ大統領:
原油価格が下がれば、政策金利を直ちに引き下げるよう求めるつもりだ。世界中で金利は下がるべきだ。
原油価格が下がれば、アメリカ国内のインフレは解消されるとして、FRB(連邦準備制度理事会)に政策金利の引き下げを求める考えを示した。
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トランプ氏の言動で、日本とアメリカの経済関係の先行きが不透明な中、重要な役割を果たすのが財界のトップらによって作られた「日米経済協議会」。会長は、NTTの澤田純会長が務め、毎年10月には日米財界人会議を開催。日本とアメリカの経済発展のため両政府への提言となる共同声明をまとめている。
トランプ大統領就任 2期目始動…印象は!?トランプ2.0に日本企業はどう向き合い、対応すればよいのか。日米経済協議会の澤田会長に話を聞く。
――トランプ大統領就任1週間で、どういう印象か?
NTT会長 澤田純氏:
力強い。「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」。G1を目指していると。(G1というのは)一強。かなり自信を持って動き始めているという印象。
実際に現地ではどうなのか。ワシントン支局の涌井記者に今の状況を聞いてみる。
――最初の1週間。トランプは何を重視し、何を優先しているのか。
ワシントン支局 涌井文晶記者:
就任からまだ5日目だが、バイデン政権からガラリと変わったということを内外に強く印象づけようと、強烈なスピード感で政策転換を進めていると見える。就任初日にバイデン政権下で出された大統領令78本を撤回。さらにこれまでに30本を超える新たな大統領令を出した。第1次政権と違って入念に準備をしていたということが伺える。
また自らの支持者である議会乱入事件の受刑者に恩赦を出したほか、不法移民対策で軍用機を活用した強制送還を始めていて、支持者へのアピールにも余念がないというのが現状だ。
――関税に関して、目新しいものないが理由は?
ワシントン支局 涌井文晶記者:
トランプ大統領にとっては第1次政権のときもそうだったが、関税というのは貿易の不均衡を正すための政策というより、他国と取引ディールをするための交渉の道具という側面が強いと考えている。名指ししている中国やメキシコといった国々の反応を見ながら、今後徐々に関税のカードを切ってくるのではないかと見ている。
また選挙戦の中で述べていた全ての国からの輸入品に対する一律の関税について導入すればアメリカの物価上昇に繋がることは確実で、政権内にも慎重論・異論があるようだ。ただトランプ大統領は「予測不能」が持ち味なので、導入しないとも言い切れないのが現状だ。
――トランプ政権の当面の焦点・見どころはどこか。
ワシントン支局 涌井文晶記者:
就任100日など短期間で成果を出そうとするということで、いろいろ動いてくると見ている。内政の面では、不法移民対策を大規模に展開するということはもちろんだが、外交面でも中国訪問が取り沙汰されており、ロシアのプーチン大統領、あるいは北朝鮮の金正恩総書記との直接会談にも意欲を示している。目立つ成果を短期間で上げるということを模索していて、政権の勢いをつけたいという考えだと見られる。
なぜ成果を急ぐかという背景だが、トランプ氏の公約の中に「トランプ減税」の恒久化、あるいは法人税率の更なる引き下げなど、実現には議会との調整、法案成立が欠かせないことが含まれている。大統領職と上院会員これを全て共和党で押さえる「トリプルレッド」という状態ではあるが、上院・下院とも議席のリードはわずか。法案を通すには民主党も含めた調整が必要になってくると見られている。具体的な議会での攻防は、今年2025年の秋以降になると見られるが、トランプ大統領としてはそこまでにできるだけ自らの求心力を高めておきたいという状況だ。
第2次トランプ政権始動 1期目との違いは?――かなり「スタートダッシュ」で来ると見てよいか?
NTT会長 澤田純氏:
かなり前のめりな印象を受ける。
――トランプ政権のスタート。1期目と2期目、何が違うか。
NTT会長 澤田純氏:
自信を持っている。例えば全国投票率もトランプ政権が勝った。「トリプルレッド」もある。激戦7州でも勝っている。かなり自信を持って進めている印象は強い。
――懸念・警戒と期待はどちらが強いか。
NTT会長 澤田純氏:
両方あるが、私の中では「期待」がある。いろんなことが変わっていくので、それはチャンスでもあるし、もう一度「MAGA」でアメリカを強くしていくという意味で、かなり昔のアメリカにも戻る部分もある印象だ。
日本企業の中では、関税に対する心配がすごく強い。ジェトロがアンケートをとったところ、「トランプ政権の政策が自社に与える影響」として「プラスの影響がある」と答えたのは10.8%。「プラスとマイナスの影響が同じ程度」としたのが14.2%。「マイナスの影響がある」と答えたのは25%に及んでいる。
――プラスと勘案している企業もたくさんいる。世論からいうと意外な感じがする。
NTT会長 澤田純氏:
半分(48.1%)は「現時点ではわからない」というのもよくわかる。
では「どの政策が」という内訳見ていく。「関税政策」と「移民・外国人・就労ビザ政策」についてはマイナスの影響があると答えた企業が多く、「エネルギー政策」「インフラ整備」「法人税など税制改革」についてはプラスの影響があるとなっている。
――関税政策に懸念があるのはわかるが、他はどうか。
NTT会長 澤田純氏:
「移民・外国人政策」。アメリカで事業をやる場合に、人に来てもらうのがスムーズになるかどうかが関係してくる。
――一方で、「エネルギー政策」「インフラ整備」「税制改革」は期待が高い。
NTT会長 澤田純氏:
かなり政策的にも強く出てくるので、優遇措置が来るんじゃないかと。今までバイデン政権の時に、入っていたところに入らないという懸念もある。
――エネルギーや金融は、セクターとしては期待が高いか?
NTT会長 澤田純氏:
期待が高い。EVとか環境はどうかという感じになるかもしれない。
関税について、トランプ大統領は、不法移民対策としてメキシコとカナダに対しては2月1日から25%の関税をかける。また中国に対しては合成麻薬フェンタニルの原料を輸出しているとして、10%の追加関税を検討している。初日から日本相手にも発動してくるのではないかという話もあったが、実際にはなかった。
――貿易の話ではなく、不法移民対策ということか。
NTT会長 澤田純氏:
おそらくそういうブラフ(自分が強いカードを持っていると見せて、相手を勝負から降ろさせる行為)が入ってメキシコ、カナダ側がアメリカに有利な(不法移民対策)案、あるいは(中国が)麻薬対策案を出してくれるかどうか。コラテラルダメージ、いわゆる付随的に日本の企業がメキシコ、カナダでたくさん自動車を作っているので、関税が上がると、かなり厳しい。
日本の自動車メーカーの状況。トヨタ・ホンダ・日産・マツダの4社がメキシコに製造工場を持っている。生産台数合計131万台。そのうちアメリカに輸出されたのは87万台。カナダではトヨタとホンダが合わせて90万台を生産して、これも一定数はアメリカに入っている。そこに15%の関税がかかれば大変で、当然、自動車部品の会社もたくさんある。メキシコからアメリカの工場に出しているところもある。
――隣国からの物に、全部25%関税かけたら、実はアメリカが日本以上に大変ではないか。
NTT会長 澤田純氏:
そのままだと、インフレにもなり、大変だと思う。おそらくいろんなディールがあり、2月1日とまずおくというのもあるのかもしれない。段階的にいろいろなことが起こるのかもしれない。
――中国のフェンタニル対策で10%。これはまだ序の口と見た方がよいか。
NTT会長 澤田純氏:
これはもう、戦略的に「低めから」ということではないか。前は60%とか言っていた。(何かあれば)また乗っけやすいようにしている。かなり多層的な取り組みが出てくる気配。
――トランプ政権には「3つのグループ」がある。この権力構造は?
NTT会長 澤田純氏:
大統領の演説でもあったが、「MAGA」を定本のように、みんなビジョン的に使っている。そこにおいて横通しはできるが、どこが(権力を)取るのかについては、権力抗争が出ると思う。
――貿易赤字不均衡。トランプ氏は、日本にはまだ触れていない。このまま逃げ切れるか。
NTT会長 澤田純氏:
いや、駄目だと思う。貿易赤字不均衡というのが、強いアメリカのためにはよろしくない事象なので、1週目ではないが、2週目に日本に対して「これだけの赤字がある」「なんとかしてくれ」と。「エネルギー、石油や天然ガスを買え」あるいは「兵器を買え」とか、そういう「アメリカのものを買ってくれ」という議論が強くなると思う。
――一期目のときは、TPPから脱退したアメリカが不利益を得ているということで、農産物の市場開放を求めてきた。今回はどこに行くか?
NTT会長 澤田純氏:
関税的な要素では、どこかの産業に「特に」というのはないかもしれない。
――昔、NTTは「もっとアメリカ製品化を買え」と言われていたが。
NTT会長 澤田純氏:
今はアメリカ製品ばかり買っていて、むしろデジタル赤字が5兆円ある。そこはちゃんとアピールをした方がよいと思う。
――防衛費については?
NTT会長 澤田純氏:
防衛兵器は、他国への状況を見てると、まず在日米軍のコスト、さらには防衛費のGDP比を上げてくれと来る可能性が高いような気がする。
――日本がアメリカに貢献していることを理解してもらわないといけない。
NTT会長 澤田純氏:
今までもそうだし、これからもそうだということを、数字できちんと話をしていくべきだ。
例えば、アメリカの中における雇用が日本の投資によって100万人も作っている。そういうところをアピールする。もう一つは不可欠性。日本でないとできないような…例えば半導体の材料とかは、日本がかなり強い。そういうものをアメリカと一緒にやろうというようなアピールが大事だ。
アメリカへの投資額を強調すべきだという点。その数字を具体的に見ていく。2014年は3731億ドル。2023年には7833億ドル。日本円にすると約122兆円ということで、この9年間で倍以上伸びている。
――日本企業は国内に投資しないで、アメリカには投資している。
NTT会長 澤田純氏:
市場の伸びと大きさがすごいというのがある。同盟国で、日本の延長として見ているところがあると思う。
そして対米投資額。国別に見てみても、日本が最も多くて、全体の15%を占めている。
――日本はアメリカへの最大投資国だ。
NTT会長 澤田純氏:
非常に各地アメリカの方からの認識も上がっている状況。我々自身も、実は州政府にまで連携を強めている。すると彼らはやはりそれがありがたいという構造にもなる。
――日本製鉄がUSスチールを買収しようとしたことをアメリカ拒否した件は懸念材料か。
NTT会長 澤田純氏:
懸念材料の一つだとは思う。感情論的な話は入ってるとは思うが、もう一度議論するという事で延長された。アメリカのためにも日本のためにもいいんだということをもう一度きちんと説明していくことが大事だ。実は日米経済協議会も経団連も向こうの商工会と一緒に「ルールに基づいてちゃんとやりましょう」と2度も3度も声明を出している。アメリカ産業界も理解をしてくれているところだ。
――トランプ政権の誕生は、日本が中国と向き合っていく意味ではプラスかマイナスか。
NTT会長 澤田純氏:
両方あるが、今の時点ではプラス。バイデン氏のとき以上に強硬に接していくという構造はあると思う。そういう意味で言うと、日米の構造を強くしうる部分が出てくるので、両方あるが、プラスかなと。
――中国に対して、技術流出が懸念されたり、日本の経済安全保障を脅かしたりという要素があるので、きちんと対応していかなくてはという問題意識があるのか。
NTT会長 澤田純氏:
おっしゃる通り。産業界として、当然市場は大きいが、そういういろんな背景条件もあるので、そういう意味でいう中国、アメリカをはかりにかけるのではなく、まずは親米で対応していくのが基本ではないか。
――トランプ政権誕生で、中国は融和的なことを言うが、あんまり乗らない方がよいか。
NTT会長 澤田純氏:
今乗ると危ないのではないか。中国の経済も悪いという状況もあり、最終的に数年先にトランプ政権が中国とディールをしてしまうと、日本の立ち位置がはっきりしていないと浮いてしまうので、むしろ綱引きと一緒でどちらについておくかというのははっきりした方がいいようには感じている。どちらからも見放されるという構造になりかねない。
――もう一つ大事なのは、自由貿易、安全保障、IPEF、TPP…いろんな多国間の枠組みを日本がリードして作ってきたが、トランプ政権になると止めてアメリカと向き合うことが必要なのか。
NTT会長 澤田純氏:
いや、これは考え方を変えて、今までのように日本はどうしても自由貿易が大事だが、アメリカがG1を目指した場合、一緒に歩みながら、かつ他国とも多元的に付き合うという、そういうハイブリッドなやり方が求められてくる。矛盾しているようだが、その状況に応じて貿易のやり方を2つ用意する。多国間をやりながら、2国間、対アメリカもやる。
――第一期トランプ政権のときにアメリカは「TPP嫌だ」と出ていった。しかし日本は他の国とは自由貿易案を作り、まとめ上げた。こういうことはこれからも続けるべきか。
NTT会長 澤田純氏:
これからも自信を持ってやっていくべき。BRICSを見たらそうだが、特にグローバルサウスと言われるようなインドやアフリカの国がアメリカ流に動くかどうかもわからない。むしろ日本が連携を深めながら、場合によっては、条件によってはアメリカに来てもらう。そういうリーダーシップをとっていくべきだと思う。
――対アメリカで言うと、我々はどうしても対トランプ政権と見てしまうが、他の相手みたいなものとの連携も大事か。
NTT会長 澤田純氏:
それももちろんあると思う。ただ連邦政府とトランプ政権ではあると思うが、アメリカは州でできている国なので、半分はまだ民主党の知事がいたりする。この方々がまたそれぞれの権能を持っているから、そこともやはり付き合ってうまく連携していく。産業界的には連携がキーワード。こういうグローバルサウスとも州とも連携していく。そういう多元的な営みが大事。
――民間企業であっても、州政府、地方政府、企業、あるいはアメリカ以外のその他の国とも話すという複眼的な外交のセンスが経営者に問われるということか。
NTT会長 澤田純氏:
二元論的に、AかBかみたいな世界ではなくなっていくだろう。
――NTTは「IOWN」を積極的に進めているが、技術協力でトランプ政権が障害にならないか。
NTT会長 澤田純氏:
第1次政権の時に、世界中で一番最初に「クリーンネットワーク」と指定してくれたのがNTT。5G関係での技術やIWONのグローバルフォーラムも実はアメリカに作っている。超党派的に連携の流れができているので、継続して深めていきたい。おそらく問題にならないと思っている。ラピダスがIBMと組んだり、NTTもインテルと組んでいる。
――日本のアメリカ通はアメリカがどうしてこんなに変わったのかと嘆くが、そればかりでは仕方がない。
NTT会長 澤田純氏:
今までと違いリベラルな感じではないが「もう一度強いアメリカを」=「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」と声明で言っていた。もう一度「アメリカンドリーム」「我々が憧れているようなアメリカ」が来るのかもしれない。
――「戦後の経済秩序が終わりを告げた」「グローバル時代が終わった」と言われ転換期にあると思うが、ここから先の国際秩序はどんな姿になるのか。
NTT会長 澤田純氏:
いろんな価値を認め合うような多元的なモデルになっていくと思う。そういう構造になると、自分中心だけでは駄目。もちろん「自国ファースト」は大事にしながら、他ともちゃんと付き合う利他がある世界が求められていくのではないか。
――アメリカのような大国が「自分の国が第一」と公言してはばからない。大国ではなくなってきた日本は、どういう国であるべきか。
NTT会長 澤田純氏:
スイスはいい例だが、自立的なポジションを明確にしながら「自国ファースト」「ジャパンファースト」をちゃんと言っていくことが大事。それは「アメリカファースト」と言っている人は認めざるを得ない構造になる。ただ、その上で「我々は世界のために何をするか」日本がリーダーシップを取って議論していくような場をどんどん広げていくことが大事になってくると思う。
――そのことが、国際社会からの日本の信頼を得るということか。
NTT会長 澤田純氏:
今ある信頼をより広げる。そのためには経営者をかなり厳しい時代に入っていく。かなりハードルは高くなるが、夢もある。
(BS-TBS『Bizスクエア』 1月25日放送より)