箱根駅伝 渡辺康幸が語る青学大「初優勝から11回中8回総合優勝」の強さと史上最高レベルの2区

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2025年01月29日 07:20  webスポルティーバ

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前編:渡辺康幸が振り返る箱根駅伝

2016年から箱根駅伝の第1中継車のテレビ解説を務める渡辺康幸氏(住友電工陸上競技部監督)の目には、今年の第101回大会はどのように映ったのだろうか。

前編では青山学院大の強さの礎、史上最高レベルとなった2区を中心に、個人的に印象に残ったシーンや選手を挙げてもらった。

*本文は渡辺氏の一人称構成

【青学大の強さの礎となっている原晋監督の組織運営】

 今年の箱根駅伝は青学大が来るんじゃないかと予想している方も多かったように、比較的、予想どおりの結果でした。青学大はすべての区間で完璧というわけではなかったですが、エース区間の2区、山上り(5区)と下り(6区)をしっかり抑えたように、周到に準備してきたと思います。

 そもそもこの11年間で8回目の総合優勝。逆の見方をすれば3回しか負けていないわけですが、その3回も惨敗ではなく、ほとんどが往路で出遅れて復路で巻き返す内容でした。それだけ長い期間、非常に高いレベルの戦い方を維持しているのは、箱根駅伝で勝つための青学大のメソッドが確立されている証拠だと思います。

 2区や山の2区間の強さが目立つのは、大会への準備以前のスカウト段階での選手適性の見極めの鋭さ、入学後の練習を通してさらに各区間の適性を見極める部分も含めて成り立っていると推測します。

 何より圧倒的に選手層が厚い。ある程度、スカウト段階で適性を見ていても実際に入ってから向いてない場合もあるわけで、そういう場合は平地で生きるように育成するなどの方法論がある。それを2〜3年のスパンで繰り返すことで、強い世代が卒業しても、チームとしての強さを維持できると思います。

 しかも青学大の場合は、しっかり総合タイムを伸ばして勝っているので、偶然の勝利というものがない。駅伝ファンからすれば、青学大ばかり勝っておもしろくない、という方もいますが、われわれには見えない裏の部分で、われわれが思っている以上の厳しさ、組織運営がなされていることを忘れてはなりません。

 原晋監督のチームづくりにおいては、組織をコントロールする厳しさ、選手が守るべき規律やルールの徹底が強さの礎にあります。華々しくテレビに出演しているのは、原監督が気分転換をしている姿であって、チームづくりでは隙のないように徹底して鍛えています。選手たちが自分の自由時間がないほど縛りつけているわけではなく、練習に対する取り組む姿勢や日常生活での早寝早起き、寮の門限などは厳しいですし、学年ごとのミーティングを自主的に行なう文化など、もともと自主性のある選手が多く入学してくるので、新入生でも先輩を見て、青学大ってこういう組織なんだと日頃から学び、学年が上がることに成長して、チーム文化が醸成されてきたのです。

 それは原監督が奥様と一緒に作り上げてきたものであると思います。今も選手と同じ屋根の下で生活していることも、そうした組織力を維持できている要因と、私は見ています。

【2区でヴィンセント超え、1時間05分台3人は予想どおり】

 今回は4年前にイェゴン・ヴィンセント選手(東京国際大、現・Honda)が樹立した区間記録を3人が上回り、1時間5分台の走りを見せたのは、予想どおりでした。これだけ長距離界や駅伝で高速化が進んでいるわけですから、個人的に5分台が5人くらい出るのかなと思っていたくらいです。

 まず、区間賞(1時間05分31秒)のリチャード・エティーリ選手(東国大2年)は華々しい箱根デビューとなりましたが、彼が持っている力からすれば驚きはありませんでした。やっぱりこんなに走ってしまうんだな、と(笑)。加えて、意外に上りも強い点は新たな発見でした。

 彼はヴィンセント選手よりもトラックの持ちタイムが速く、ケニアのパリ五輪選考会では5000mで9位に入った選手なので、逆に、ここ2年の箱根予選会で力を発揮できなかったのは何だったのかなと。おそらく暑さにそれほど強くないのかもしれませんが、昨年の丸亀ハーフで日本学生記録を更新した時もそうでしたが、涼しければきちんと力を発揮できるんだなと感じました。

 エティーリ選手に次ぐ1時間05分43秒で日本人歴代トップとなった吉田響選手(創価大4年)は過去に実績を残した5区ではなく2区で走りましたが、吉田選手に1秒差の黒田朝日選手(青学大3年)とともに、2区のセンスがある走りでした。前半10kmまでは抑えて走り、それ以降でしっかりペースを上げていきました。

 山口智規選手(早稲田大3年)は、僕の早大記録を前回破っているので(1時間06分31秒)2区の適性はあるのですが、今回は前半から突っ込んで後半粘れませんでした(1時間07分01秒の区間12位)。年々レベルが上がるなかでは、前半突っ込んだ場合は後半にしっかり粘らないとなかなか上位にはこれない。おそらく山口選手は、性格的に「前半を抑えろ」と言われても突っ込んでしまう選手なのではないかと思います。

 1区や3区では突っ込んでいくことが好記録につながるケースが多いと言えますが、2区はコース全体をどのようなペースで走るのか、それをうまくコントロールして最大限の力を発揮できるマネジメント力が他の平地区間に比べても問われる区間なのです。

【青学大・野村は"空を飛んでいた"】

 その意味では1区でスタート直後から飛び出した吉居駿恭選手(中央大3年)は、3年前のお兄さん・大和選手(中大OB、現・トヨタ自動車)を思い出させてくれる走りで、吉居兄弟は本当に非凡なセンス、天才肌だなと思いながら、解説をしていました。しかもスタジオのゲスト解説に大和選手がいるという、巡り合わせも面白い展開だったと思います。

 青学大が5区まで先頭に出られなかったのは吉居選手の飛び出しがあったからで、それがなければ前半区間から青学大が独走に入る展開になっていたので、その意味では中大が往路を盛り上げてくれたと言えます。

 個人的に印象に残っているのは、まずはシード権争いです。8位から13位前後までが終盤まで粘り強い戦いを見せていました。いつもは早い段階でシード校の情勢が見えてきますが、途中で順位を落としてシード圏外に落ちた帝京大、東国大、日本体育大などが最後まであきらめずに前向きに走っていた。普通なら前が見えなくなるとあきらめてしまう傾向が強くなりますが、「あきらめの悪いチーム」が帝京大だけではなかった(笑)。

 この展開は戦っている監督からしたらたまったものではないのですが、見ている視聴者の方からすれば、面白いレースだったと思います。

 選手で言えば、6区で56分台の走りを見せた野村昭夢選手(青学大4年)はすごかったですね。まるで地面に足を着いていないような、ピーターパンのように空を飛んでいるのではないかという走りでした(笑)。(1kmのペースが)2分30秒を切っていたので、56分台とはこういう走りになるのか、と。中継車に乗って解説していても、ぶつかるのではないかという怖さを感じるくらいの走りでした。

 あとは大会前から注目していた関東学連の8区・秋吉拓真選手(東京大3年)から9区・古川大晃選手(東京大大学院4年)の東大リレー、それに9区の給水をした八田秀雄教授先生。復路の個人的ハイライトはここでした。秋吉選手は、指導してみたいと思わせる魅力のあるランナーです。

つづく

⚫︎プロフィール
渡辺康幸(わたなべ・やすゆき)/1973年6月8日生まれ、千葉県出身。市立船橋高−早稲田大−エスビー食品。大学時代は箱根駅伝をはじめ学生三大駅伝、トラックのトップレベルのランナーとして活躍。大学4年時の1995年イェーテボリ世界選手権1万m出場、実業団1年目の96年にはアトランタ五輪10000m代表に選ばれた。現役引退後、2004年に早大駅伝監督に就任すると、2010年度には史上3校目となる大学駅伝三冠を達成。15年4月からは住友電工陸上競技部監督を務める。学生駅伝のテレビ解説、箱根駅伝の中継車解説では、幅広い人脈を生かした情報力、わかりやすく的確な表現力に定評がある。

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