日立製作所が説く「AIエージェント活用の目的」とは? AI事業のキーパーソンに聞く

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2025年01月29日 07:21  ITmediaエンタープライズ

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日立製作所の吉田 順氏(編集部撮影)

●AIエージェントをいかに活用すべきか 国内ITサービスベンダー4社に聞く


日立製作所が説く「AIエージェント活用の目的」とは? AI事業のキーパーソンに聞く


「AIエージェント活用元年」になりそうな2025年。


AIエージェントをうまく活用できるかどうかの分かれ目になるのが、「AIマネジメント」だと筆者は考える。


いずれ複数ベンダーのAIエージェントが社内に混在する段階になったとき、データ管理をはじめとするマネジメント面で収拾がつかなくなる可能性があるからだ。


そこで、国内ITサービスベンダー大手のNTTデータや富士通、NEC、日立製作所のAI事業のキーパーソンに、AIエージェントをいかに活用すべきかについて、特にAIマネジメントの問題をどう解決すべきかという切り口で取材した。


既にAIエージェントのテスト段階にある企業だけでなく、これから導入を考える企業の参考になれば幸いだ。


 4社取材企画の2回目となる本稿では、日立製作所の吉田 順氏(Generative AIセンター センター長 兼 デジタルシステム&サービスセクター Chief AI Transformation Officer)に話を聞いた。


 同氏が説くAIマネジメント対策はどのようなものか。ユーザー企業の現時点におけるAIエージェントの利用状況や、今後発生しそうな課題、そして、そもそも企業として何のためにAIエージェントの活用に取り組むのか。


 AIエージェントを活用する上で重要になる、「人間とAIの関係」の考え方や、AIエージェント活用に当たってIT部門の役割が重要になる理由についても聞いた。


●日立製作所はどう見る? 「AIエージェントの可能性と課題」


 2024年後半から注目を集めるAIエージェントだが、企業での利用状況はどうなのか。吉田氏は次のように述べた。


 「現状では多くの企業が生成AIの活用を進めている段階で、その延長線上にあるAIエージェントの活用はまだこれからといったところだ。生成AIの活用が定着してきた企業では、AIエージェントの活用にも乗り出そうという意欲が強い。ただ、技術の進展が早すぎて戸惑っている企業も少なくない」


 吉田氏の話からするとAIマネジメントが問題となるのはまだ先のように感じる。ただし、AIエージェントは業務ごとに複数のものが同時に動き出す可能性が高いので、やはり今のタイミングで考えることは非常に大事だという印象を改めて抱いた。


 こうした現状を踏まえ、AIエージェントの可能性と課題について同氏はどのように見ているのか。まず、可能性については次のような見方を示した。


 「AIエージェントはオフィスワーカーをはじめ、さまざまな作業現場で働くフロントラインワーカーにとっても非常に高い生産性向上につながる技術だと捉えているので、ぜひ多くの方々および企業に使っていただきたい。AIエージェントが高い生産性を上げる可能性があるのは、生成AIは業務のタスクが対象なのに対し、AIエージェントは業務プロセスに向けて自律的に作用するので、効率化できる範囲が格段に広がるからだ。加えて、AIエージェントはオフィスワーカー向けの話題が中心になりがちだが、幅広い製造現場を持つ当社としてはフロントラインワーカーにも大きな効果が見込めることを強調したい」


 一方、課題については、「AIエージェントに学習させるデータとして、ドキュメント化されている“形式知”だけでなく、ドキュメント化されていない熟練者のノウハウのような“暗黙知”も取り込む必要がある。そうでないと、ワーカーの業務を代行するエージェント(代理人)にはなれない」という点を挙げた。


 オフィスワーカーだけでなくフロントラインワーカーにも着目した日立らしい課題提起だ。


 とはいえ、暗黙知もデジタルデータ化する必要がある。この点について同氏は、「手段は幾つかある。例えば、暗黙知を持つ熟練者に聞き取りしてテキストデータにする。また、言葉では言い表せない感覚的な暗黙知については、動画を撮ってその内容を生成AIでデータ化するといった具合だ」と説明した(図1)。


 課題についてはもう一つ、「生成AIの活用はアプリケーションとして捉えてもよかったが、AIエージェントは業務プロセスにおいてさまざまな動きをするのでシステムとして捉える必要がある。複数のAIエージェントが連携して業務を動かすことになるので、それらのデータの管理や活用も含めて事業部門あるいは企業全体の業務形態を見据えて、AIエージェントを活用するシステムの設計から構築、運用の仕方についてあらかじめ考えて臨むことが望ましい」とも述べた。


 「AIエージェントはシステムとして捉えるべき」という同氏の指摘は重要だ。現実的には一部の業務からAIエージェントを活用するケースが多くなるだろうが、そこからその事業部門、さらには企業全体の業務プロセスに広げるつもりならば、早い段階でAIエージェント活用のグランドデザインを描くべきだろう。


●日立製作所が説くAIマネジメント対策


 AIマネジメント対策について、吉田氏は次のように語った。


 「まず改めて強調したいのは、多くの企業で活用されるようになってきた生成AIに比べて、AIエージェントが企業のあらゆる業務にもたらす効率化、さらには自動化へのインパクトは格段に大きいということだ。AIエージェントの活用をマネジメントする上ではさまざまな観点があるが、大きな効果を期待できるので、ぜひアグレッシブに取り組んでいただきたい」


 その上で、こう続けた。


 「AIエージェントの活用をマネジメントする上では、その根本的なところで“人間とAIの関係”について注視し続ける必要がある。つまり『自分の代理人には相手をはじめ関係する人たちの気持ちに寄り添った存在であってほしい』ということだ。その意味では、AIエージェントの活用は“人間の働き方”の問題でもある。この点をしっかり認識して適用していくことが、AIエージェントの活用として見逃しがちな重要ポイントだと、当社は捉えている」


 人の気持ちに寄り添ったAIエージェントの必要性について、吉田氏はコンタクトセンターの事例としてAIが引き起こす課題について図2を示した。


 同氏はこれを「人間とAIの関係」と言ったが、人間関係において大事な人それぞれの心理や気持ちをAIエージェントにも配慮させようということだ。すなわち、人間関係にAIをどう組み入れていくかが、これから大きなテーマになっていくかもしれない。


 こうしたAIマネジメント対策に向けて、日立としては先に述べたオフィスワーカーにもフロントラインワーカーにも役立つAIエージェントのソリューションを順次提供していく構えだ。さらに同氏は、「当社のAIエージェントソリューションは、すでに当社内で実証済みで、お客さまにすぐに活用していただけるものを提供していく。それができるのは、当社がITベンダーでもあり幅広い分野の製造業者でもあるからだ」とも述べた。


 また、競合他社ではAIエージェントサービスのフレームワークをブランド商品化して打ち出しているところもあるが、同氏は「今後、必要があれば当社でも用意するが、基本的に生成AIを業務に活用する取り組みとして、さまざまなサービスを提供するパートナー企業と幅広く連携し、お客さまにとって最適なソリューションを提供することに注力したい」との立ち位置を強調した。


 最後に、AIマネジメント対策として、改めて訴求したい点を聞いたところ、吉田氏は「2つ述べたい」として次のように答えた。


 「一つは、先にAIエージェントはシステムとして捉えるべきだと話したが、これからまさしくAIマネジメントの問題が現実的になる中で、企業においては改めてIT部門の役割が重要になるのではないか。かつてエンタープライズアーキテクチャ(EA)という概念が注目されたが、AIエージェントの活用に向けては同様の考え方が求められるようになるのではないか」


 「もう一つは、企業としてAIエージェントを活用する目的は何なのかを考えていただきたい。先にも述べたように、業務の効率化、自動化による生産性向上が挙げられるが、見方を少し変えると『AIエージェントを活用して業務改革を推し進めよう』との捉え方もある。目的に業務改革を掲げれば、その活動は人間が主導するものとなる。その上で、AIエージェントには大いに働いてもらえばよい。AIマネジメント対策もそんな思いで臨みたいところだ」


 AIエージェントを活用して業務改革を推し進める――。筆者はAIエージェントをテーマに取材を重ねてきているが、この目的の表現は新鮮に感じた。「人間主導」なのがいい。そう捉えて取り組む企業が増えることを期待したい。


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。



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