日銀による利上げが行われ、日本の政策金利が17年ぶりに0.5%台になった。本格的な「利上げ時代」に突入した今、最も気になるのは「住宅ローン金利はどうなるのか?」という点だろう。住宅ローンを組んでいる人の多くが「変動金利」を選択しているだけに、金利が上がれば返済額も増え家計負担は増すばかり。
果たして、今後の住宅ローン戦略をどう考えるべきか。FPの深野康彦氏と、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営する塩澤崇氏が語り合った。
◆日銀の追加利上げが決定!住宅ローン、どうする!?
深野:まず塩澤さん、住宅ローンは変動金利と固定金利のどちらがいいと思いますか?
塩澤:断然、金利は変動金利だと思います。そもそも、今変動金利が0.3%台なのに対して、固定金利は1.8%ほど。差が1.5%あります。政策金利を0.25%ずつ上げていったとしても逆転するためには“あと5回”の利上げをしなければいけない。日銀が年2回金利を上げていったとしても、3〜4年はかかるはずですが、そこまで金利が上がるかは未知数です。
◆金利の上昇局面は 「長く続いても2年」
深野:私も同じ考えです。住宅ローン金利において変動が固定を逆転するまでにはまだまだ大きな差があります。そもそも日銀が政策金利を1.5%以上に引き上げられるのか?という問題もありますし、仮に金利が逆転したとしても金利が高い状態はさほど長続きしません。
塩澤:おっしゃる通り。金利の高いピーク期間は2年ほどですよね。アメリカを見てもコロナ禍からのインフレで金利を5.25%まで上げましたが、高い時期は1年〜2年弱でまた利下げに傾いています。あれだけ移民を受け入れて、人口増かつ好景気でも、高金利の時期は限られている。人口減少社会で内需が弱っている日本で金利を上げ続けられるほど経済が過熱するのは、ちょっと考えづらいシナリオだと思っています。
深野:仮に日本も1.5%まで金利を上げられる状況だとしたら……。そのときは笑っちゃうくらい景気がよくなり、金利上昇に伴うローン返済額の負担増を嘆くよりも、みなさん儲け話に躍起になっていると思います(笑)。ですから、住宅ローンは変動で組み続けて問題ないと思っています。ちなみに、塩澤さんは日本の金利はどこまで上がると思いますか?
塩澤:なかなか予測をするのは難しいですが、正直1%前後かなと。IMFのリポートでは「日本の政策金利は1.5%へ引き上げるのが適切」とも指摘されていました。とはいえ、多くの人にとって政策金利0.5%以上は未知の領域ですよね。
深野:実際、バブル崩壊以降で政策金利が0.5%以上だったのは’95年9月以前です。もう30年ほど金利が高い状態からは遠ざかっていますからね。昨年12月に利上げが予測されていたにもかかわらず「もうワンノッチ(一段階)」というよくわからない理由で利上げが見送られ、そのうえで1月に利上げを実行した。なので、今後はかなり読みづらい状況になっています。ただ、さらに金利を上げるとしても、3月の春闘でしっかり賃上げがあることを確認して、なおかつ年4回行われる日銀短観や支店長会議で物価上昇も踏まえていくと思います。
塩澤:アメリカもトランプ大統領就任でどのような経済政策を行ってくるか未知数ですからね。ただ、いつか来る景気後退の局面に備えて、日銀は金利を上げておきたいのだと思います。利上げをしても支障がない状況になれば適宜利上げを行うのでは、と感じますね。
深野:’25年の7月には参議院選挙も控えています。選挙時に利上げは与党にとってはマイナスです。夏前後に上げるのは難しいのではと個人的には考えています。利上げのタイミングは本当に状況に応じて変わるでしょうね。個人的には上半期に1回利上げがあれば、さらにその半年後の下半期に1回というシナリオを考えています。雇用や消費者物価指数など各種の指標を見て判断していくと思います。ただ、金利があることによって、銀行預金や生命保険の商品ラインナップは本当に変化してきましたね。ネット銀行の預貯金でも1年物で0.85%が出てきましたから、早ければ今年中に預金金利で1%が実現するかと思っています。
◆住宅ローンを組むならどの銀行を選ぶべき?
深野:ちなみに、住宅ローンを選ぶとしたら、なるべく金利が低い銀行を選ぶのが鉄則ですが。昨今ではどんな銀行がオススメですか?
塩澤:これだけ「金利が上がる」と言われていても、ネット銀行の変動金利の住宅ローンでは0.3%台も珍しくありません。ただ、単純な金利の低さだけでなくて団体信用保険の中身にも注目すべき。auじぶん銀行の住宅ローンの場合には、ベースの金利に上乗せせず5大疾病への保障がつきローンが50%減になる変動タイプもあります。無料付帯する団信価値を金利から差し引いた実質金利は0.169%で非常にお得です。PayPay銀行もがんと診断されたらローンが50%減になる団信があります。
深野:変動金利が低い状態が続いていますから、各行も団体信用生命保険で差別化を図っていますね。
塩澤:もう一つ、深野さんに伺ってみたいのですが、繰り上げ返済はすべきだと思いますか? 私は繰り上げ返済はしなくていいと思う派です。これだけローン金利が低いのですから、返済期間はできる限り延ばして負担を軽くして、その期間に株や投資信託などで運用を行い資産を築けばいいと考えるのですが……。
深野:若い方であれば、確かにそれも当てはまると思います。ただ、私自身ももう60代で、同世代を見ていて実感しますが、繰り上げ返済は「65歳時点でのローン残債の有無」によると思います。定年以降はどうしても給与が減るし、それまでの暮らしをダウンサイズするのも難しい。現役時代と同額の住宅ローンを返済するのはかなり負担だと思います。ですから、自分自身のライフプラン上の節目で余裕資金を使って65歳時点での完済を目指して帳尻を合わせるのがいいと思います。
塩澤:視点をどこに置くかによっても、住宅ローンをどうすべきかも変わりますね。
◆塩澤氏が推薦! 住宅ローンTOP3
■1位 auじぶん銀行
表面金利0.345%/実質金利0.245%……表面金利は安いものの、無料付帯分の団体信用保険は0.1%で死亡時・高度障害時のみ
■3位 三菱UFJ銀行
表面金利0.42%/実質金利0.17%……上乗せ金利なしで、がん50%保障の団体信用生命保険が付いているのが強み。自然災害保障も
■2位 PayPay銀行
表面金利0.479%/実質金利0.169%……がん、脳梗塞、心疾患、など5 大疾病で60日以上の入院だと50%になる団信が無料で付帯
【住宅ローンアナリスト・塩澤 崇氏】
MFSの取締役COO。住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営。住宅ローン事情に詳しい。著書『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』
構成/上野 智(まてい社) 図版/ミューズグラフィック
―[短期集中連載 知らないと損する「金利」最新事情]―
【深野康彦】
ファイナンシャルリサーチ代表。大学卒業後、クレジット会社を経て独立系FP会社に入社。その後、1996年に独立し、現在の有限会社ファイナンシャルリサーチは2社目の起業。FP業界歴35年(2024年10月現在)を誇り、そのキャリアを通じて日本経済の浮沈を見守ってきた。メディア出演やセミナーを通じて、資産運用や住宅ローン、生命保険、税金、年金など幅広く「お金の知識」を発信している。著書『金利で損しない方法、教えてください!人気FPが教える金利上昇時代の「お金の新ルール」』