2024年12月、日産とホンダが経営統合に向けて動き出すと発表した。2026年8月に持ち株会社を設立し、傘下に2社が入る予定だ。統合により、車台の共通化や研究開発機能の統合、サプライチェーンの最適化など7つのメリットがあると発表している。
【画像】「世界初」だったリーフを発売するなど、息を吹き返したように見えた日産だった
業績を見れば、ホンダが好調な一方で日産は車が売れなくなっており、事実上はホンダによる救済ともいえる構図だ。今回の統合について、一部では台湾の鴻海精密工業による日産買収を防ぎたい経産省が主導したとの憶測も出ている。経営統合後の道筋を考えてみると、統合によるメリットは小さいようにみえるが、どのように進展するのか。
●果たしてゴーン氏だけの責任なのか
日産といえば、カルロス・ゴーン氏による“国外脱出劇”を思い浮かべる人も多いだろう。金融商品取引法違反などの容疑で逮捕されたゴーン氏は、2019年4月に保釈された。その後、同年12月に自家用機を使って密出国した。
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犯罪者といえばそれまでだが、日産におけるゴーン氏の功績は大きい。振り返れば1990年代は、日産にとって苦悩の時代だった。当時は国内で新車販売台数が減少し、軽自動車の比率が上昇し続けた時代だ。日産は国内で「売れる車」を作れなくなり、1999年には実質的な有利子負債が2兆円を超えた。同年、ルノー傘下に入ったことでゴーン氏が派遣され、以降同氏が日産の舵(かじ)を取ってきた。
ゴーン氏は国内5工場を閉鎖したほか、車両プラットフォームの削減、下請け企業の保有株式売却など、身を切る改革を進めた。一方で、北米市場や中国市場を強化した。しばらく名車を生み出せていなかった日産だが「エクストレイル」や3代目の「マーチ」「ノート」などを発売。2010年には「世界初」の量産電気自動車として「リーフ」も発売した。
こうした輝かしい時期から一転、近年は再び車が売れなくなった。グローバル販売台数は2017年度の577万台をピークに減少し、国内のみならず北米や中国でも悪化。2023年度は販売台数が344万台で、EV化が進む中国で低価格をウリに勢いを増す中国勢に勝てず、規模を縮小している。
北米では電気自動車に代わってハイブリッド車が人気だが、主力の「ローグ」にハイブリッド車種がなく、伸び悩んでいる。ハイブリッド車を軽視したゴーン氏の影響もさることながら、彼が日産を去ってから5年以上がたっていることを考えると、社内全体の問題といえるだろう。
●長らく好調が続くホンダ
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対照的にホンダは好調が続く。1990年代には低迷する日産をよそに「オデッセイ」や「CR-V」「ステップワゴン」などのヒット作を生み出してきた。その後、長らく開発してきた小型ビジネスジェット機「HondaJet」のリリースは、高い技術力を知らしめた。
何よりホンダは二輪で世界をけん引している。世界で年間6000万台近くが売れる二輪市場において、ホンダは台数シェアで3分の1を占める。国内は縮小傾向だが、特に中国やインドを筆頭とする新興国で生産・販売網を拡充してきており盤石だ。
円安・値上げも相まって売上高増加が続く。2024年3月期は過去最高で20兆円を超える。まとめると、近年のホンダは、世界トップシェアの二輪を維持するとともに、四輪もハイブリッド車が好調で、日産との明暗がきれいに分かれている。
●統合による7つのメリット
経営統合に関して、日産の内田誠社長は「どちらが上、どちらが下ではなく」とアピールするが、ホンダが救済する構図なのは明らかだ。会計基準が異なるものの、2024年3月期の売上高と営業利益はホンダが20.4兆円・1.3兆円、日産が12.6兆円・5687億円で、ホンダの方が企業規模は大きい。時価総額もホンダが圧倒している。
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なお、両社は統合に関して統合には次の7つのメリットがあると発表している。
(1)車両プラットフォームの共通化によるスケールメリットの獲得
(2)研究開発機能の統合による開発力向上とコストシナジーの実現
(3)生産体制・拠点の最適化
(4)購買機能の統合によるサプライチェーン全体での競争力強化
(5)業務効率化によるコストシナジーの実現
(6)販売金融機能の統合に伴うスケールメリットの獲得
(7)知能化・電動化に向けた人財基盤の確立
まとめると、車両生産や調達を共通化し、両者の研究開発機能を統合して技術力向上を狙うということだろう。米中勢が台頭する中、電気自動車や自動運転技術の開発に双方の人材と資金力を注ぎ込んで戦っていく考えだと推察する。
企業規模が異なるとはいえ「対等な統合」を強調している以上、生産や開発で徹底した効率化を進められるかは疑問だ。効率化にはリストラや商品数の絞り込みなどの“痛み”を伴う。ホンダが主導権を握り、工場や車両プラットフォームを共通化できれば良いが、持ち株会社に両者がぶら下がる構図だと難しいだろう。
●トヨタとスバル、鴻海とシャープのような「強引さ」が必要だ
例えば、トヨタはスバルの株式を21%握り、EV生産では共通化を進めてきた。トヨタの「bZ4X」とスバルの「ソルテラ」などは、基本的に同じ車である。筆者が取材したスバルの担当者は「将来的にトヨタの生産工場になってしまう」と嘆いているほどだが、効率化を進めるにはこのように片方が主導権を握らなければならない。
急な統合計画で驚かせた日産とホンダだが、その裏には鴻海の影があったともいわれている。公式にはノーコメントとしているが、鴻海は日産株を3割以上握る仏・ルノーに接触しており、日産取得に向けて動いていた。iPhoneへの依存体質から脱却したい鴻海は、2020年頃から台湾や中国で電気自動車事業を強化してきた。これに焦った経産省が、ホンダとの経営統合を指示したとされる。
鴻海はシャープを再建した実績がある。2016年にシャープを買収した後、徹底したコスト削減策を実施し、2017年3月期から2022年3月期までの間、営業黒字を維持した。数千人規模のリストラを行ったほか、細かい部分では「工場内のエスカレーターを停止」したといい、日産とホンダの経営統合後、このような思い切った施策ができるか疑問だ。
経産省は当然「日の丸企業」を守ることに専念する。しかし、ただ守りの姿勢をとるだけでは、電気自動車や自動運転で台頭する米中勢に勝てないだろう。ホンダは今のところ好調だが、近年は画期的な電気自動車を開発できていない。スマホやPCの受託生産で技術力を伸ばしてきた鴻海と手を組んだ方が、日産は面白い車を作れるかもしれない、と思うのは筆者だけだろうか。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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