「睡眠中枢」の活動は、深部体温で変わる
より良い睡眠のために、寝室の環境は大切です。特に「温度」は、眠りの質を左右する重要な因子です。脳科学的に見ると、睡眠のスイッチを入れる役割を持つ「睡眠中枢」は、脳の視床下部の「腹外側視索前野(VLPO)」にあります。VLPOの神経細胞には、温度感受性があり、「深部体温が低くなったときに活動が高まる」という特性を持っています。したがって、よく眠るためには、「深部体温を下げる」ことがポイントになるのです。
「深部体温」とは、体の内部の温度のこと。意外に思われるかもしれませんが、手足などの皮膚表面の温度とは逆の変化をすることが多いです。手足がポカポカと温かいからといって、深部体温も温かいわけではありません。
私たちの体は体温を一定に保つために、自律神経系や内分泌系など、さまざまなしくみを働かせています。「皮膚血管の収縮・拡張反応」は、自律神経系による調節の1つです。外気が暖かいときは、体温が上がり過ぎないようにするため、皮膚の血管は拡張し、体の中にたまった熱を外に放散することで、深部体温を下げようとします。
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「ずっと暖かい寝室」は逆効果! 冬に快眠するための温度調整のコツ
特に冬は、寒くてなかなか寝つけない方も多いでしょう。気持ちよくすっと眠るためのコツがあります。皮膚血管が拡張し、深部体温が下がるようなことをすればいいのです。例えば、寝る前にお風呂に入って少しぬるめの湯船につかると、皮膚血管が拡張するので、眠りやすくなります。エアコンやヒーターを使って部屋の温度を少し高めにしたり、ホットカーペットや電気毛布などを使って布団を温めるのもいいでしょう。
ただし、エアコンをつけっぱなしにして眠ってはいけません。すっと眠れても、途中で目が覚めてしまいます。必要以上に暖かい状態が長時間続くと、自律神経系や内分泌系による調節がきかなくなり、深部体温が上がってしまうためです。就寝時にせっかく下がった深部体温が上がってしまうことで、眠りが妨げられます。
ですから、エアコンやホットカーペットなどの暖房機器を利用するときは、短時間のタイマーをセットしておくのがポイントです。眠る前は暖かく、そして就寝後は自然な寒さに戻るように設定しておけば、朝までぐっすり眠れます。脳機能のしくみを利用すれば、ちょっとしたコツで、快適な睡眠環境が作れるのです。
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阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))