トランプ大統領再登板、進む社会の分断「熱狂」と「抗い」と… アメリカに生まれた二つの異なる世界【報道特集】

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2025年02月01日 06:33  TBS NEWS DIG

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トランプ政権誕生から5日が経ちました。議会襲撃事件の被告の恩赦や不法移民の強制退去など、早くもトランプ流社会の実現に向けて、強大な大統領権限がふるわれています。アメリカに来て感じることは、二つの全く異なる世界観があるということです。トランプ再登板に熱狂する人、一方でそれに抗う人を取材しました。

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政策大転換 トランプ氏復活の日

1月20日、村瀬キャスターが向かったのは、首都・ワシントンDCの中心部にある大型の競技施設。大統領就任式のパブリックビューイングが予定されている場所だ。

村瀬健介キャスター
「就任式まで、まだ4時間以上ありますが、列の先がどこまで続いているのか分からないぐらい、ずっと向こうまで列が続いています」

列に並ぶ支持者
「朝5時半から並んでいます。1時間以上います」

この日の朝の気温はマイナス6度。寒さをしのぐため、毛布に包まりながら列に並ぶ人たちの姿もある。

Q.歴史的な瞬間ですね
母親「本当にね。アメリカを再び偉大にするわよ」
父親「ホワイトハウスに常識が戻って来る」

Q.何に一番、期待しますか?
子ども「ガソリンの値下げ」
母親「治安の確保です。全ての人たちにとっての」
父親「国境の安全。犯罪対策。あとは減税ですね」

歩くこと10分。番組の取材チームも列に加わり会場を目指す。

2時間半後…

村瀬キャスター
「会場の入口まで来ましたが、会場内にはバッグを持ち込めないため皆さんカバンを捨てて、会場の中に入っていきます」

厳重なセキュリティを通過し、会場内に入ると、2万人を収容する観客席はすでに大勢の支持者たちで埋め尽くされていた。

大統領への返り咲きを果たしたトランプ氏の姿を、特別な思いで見つめる男性がいた。

ジョエル・プリティキンさん(19)。ワシントンDCの名門校・アメリカン大学に通う学生だ。

ジョエル・プリティキンさん
「卵1パックで6ドル(約900円)。これがバイデンのアメリカだよ」

大統領選挙直前の2024年10月。番組の取材に「物価高で生活が苦しくなった」と訴えていたプリティキンさん。経済を立て直してほしいという思いで、トランプ氏に一票を投じた。

待ちわびた瞬間を前に、プリティキンさんは…

ジョエル・プリティキンさん
「最高です。(トランプ氏の就任で)経済は格段に良くなるでしょう。1、2か月で変化が出てくると思いますよ」

Q.物価も下がる?
ジョエル・プリティキンさん
「卵の値段も下がるでしょうね、ひき肉も。生活必需品すべての値段が下がると思います」

そして…

トランプ大統領
「アメリカの黄金時代が、いま始まる。トランプ政権下で日々、私は非常に単純にアメリカファーストを掲げる」

8年前の就任式で宣言した“アメリカ第一主義”を再び高らかに掲げたトランプ氏。就任直後から、着手する政策を次々と打ち出した。

トランプ大統領
「我が国への壊滅的な侵略を撃退するために、軍隊を南部国境に派遣する」

就任式を終えると、パブリックビューイングが行われていた会場に姿を現し、次々と大統領令に署名するパフォーマンスを見せた。

司会者
「次は気候変動のパリ協定からの離脱です」

トランプ大統領
「バイデンがこんなことをやると思える?思えないでしょう」 

さらに、今回注目される大統領令がある。

議会襲撃事件 それぞれの実像

トランプ氏(2021年1月)
「我々は決して諦めない、決して敗北を認めない。連邦議会まで歩いて行くぞ」

2021年1月6日に起きた連邦議会襲撃事件。バイデン氏が勝利した前回の大統領選挙で不正があったとして、トランプ氏の支持者が議会に乱入。トランプ大統領の要求に従わなかったペンス元副大統領も標的だった。

この事件を扇動した罪などで、極右団体「プラウドボーイズ」の元代表の男らが逮捕、刑務所に収監されている。

就任式のパブリックビューイング会場の外には、その仲間たちが集まっていた。

プラウドボーイズのメンバー
「侵入罪で4年の刑の仲間に恩赦を求めたい。武器も何も持ってなかったのに4年だよ」

この事件で有罪になった1500人に対し、今回の大統領令で恩赦を与えたのだ。

村瀬キャスター
「こちらに見えているのがワシントン郊外にある刑務所です。この刑務所の中には、議会襲撃で有罪判決を受けた受刑者たちが今も入っています。今日にも出てくるかもしれないということで、家族たちが出てくる受刑者たちを待っています」

マイナス10度を下回る寒さの中、歌を歌いながらそのときを待つ家族たち。

受刑者たちは暴徒ではなく“人質”だと、プラカードを掲げる女性の姿も。

「聞こえなかった人たちのために言います。ダニエル・ボウルとドミニク・ボックスの恩赦が決定しました」

恩赦が決まったダニエルさんの父親は…

ダニエル・ボウルさんの父親 エリックさん
「これが息子です。みんなから愛されてますよ。もしトランプが2期連続で(大統領を)務めていたらこんなことにはならなかった」

母親は…

母親 バーバラさん
「思いっきり抱きしめてあげたい。面会では短いハグしか許されなかったから」

そして、約1時間後。ホワイトハウスの関係者が現れた。

ホワイトハウス関係者
「今夜、彼らは釈放されました。トランプ大統領が恩赦に署名した後、釈放されました」

襲撃に加わり、3か月前に刑務所を出てきたというロニー・サンドリンさん。連邦議会の前で当時の様子を聞いた。

ロニー・サンドリンさん
「最初はとても平和的でした。自由に声をあげられるのがアメリカのいいところです。しかし、それはすぐに混沌と暴力に変わりました。なぜあんなことになったのかわかりませんが、暴力は彼ら(警察)の方から始まったんです」

これはロニーさんが議会に突入した時の映像だ。感極まって、こう叫んでいる。

ロニー・サンドリンさん
「歴史を作ったぞ。ありがとう、愛国者たち。ここは俺たちの家だ」

その後、傷害の罪で逮捕されたロニーさんは、4年近く刑務所に収容された。

ロニー・サンドリンさん
「あの日はすでに議員たちが選挙結果に抗議していました。私たちはその議員たちを応援するために行ったのです。家族に迷惑をかけてしまったことは残念ですが、後悔はしていません」

一方、現場で対応にあたっていた議会警察のトップに話を聞くと…

スティーブン・サンド元議会警察長官
「群衆と警察官の比率は58対1と言われていますが、警察官はもっと少なかったと思います。群衆は暴力的で、私の部下は激しく殴られました。一人は脳出血を起こし、翌日亡くなりました」

さらに事件のあと、警察官の自殺が相次いだという。

スティーブン・サンド元議会警察長官
「最初の自殺は1月9日の土曜日、部下のリーベングッドでした。彼らの体験は想像を絶します。私にとってもトラウマでしたが、警察官全員にとってもトラウマです」

今回、トランプ大統領はおよそ1500人に恩赦を与えたが、中には警察官を暴行した人物も含まれている。

村瀬キャスター
「今回、多くの犯罪者が恩赦されていますが?」

スティーブン・サンド元議会警察長官
「個別のケースごとに取り扱うべきだったと思う。私たちが直面している分断を悪化させるだけです。そうあってほしくありません。暴力がさらに増えないことを願います」

進む社会の分断「熱狂」と「抗い」と

二期目のトランプ政権発足で、アメリカ社会のあり方も大きく変わろうとしている。

一期目のトランプ政権が誕生した、8年前。女性蔑視や人種差別的な発言を繰り返すトランプ氏に歌手のマドンナさんら大勢の女性たちが抗議の声をあげ、ホワイトハウス前の通りを埋め尽くした。

しかし今回、就任式の当日に行われたデモでは…

村瀬レポート
「トランプ氏の就任に反対する人たちのデモ行進ですが、集まっているのは数百人程度でしょうか。それほど大きな広がりを見せていない感じがします」

デモ参加者
「多くの人たちは、がっかりしたのだと思います。以前は“抗議の声をあげる”という思いが溢れていました。でも、何も変わらない現実を見て、意味がないと思ったのでしょう。だから、8年前に参加した人たちは、今日は来なかった。デモに参加するリスクを怖いと感じる人もいると思います」

8年前のデモにも参加していたという女性。名前を尋ねると…

デモ参加者
「遠慮しておきます。トランプ政権は私たちのような人を攻撃対象にしています。名前が知れ渡るのは避けたいのです」

トランプ大統領
「人種とジェンダーを生活のあらゆる場面に社会的に持ち込もうとする政府の政策を終わらせる。アメリカ政府の公式方針として、きょうから性別は二つのみとする。男性と女性だ」

性別や人種、性的マイノリティに配慮し、多様性や公平性などを尊重する社会を目指す「DEI」について、こう宣言したトランプ氏。

バイデン政権が重視したこの政策を終わらせるとした上で、女性で初めて就任した沿岸警備隊の司令官を「DEIを過度に重視した」として解任した。

また、各省庁に対し、民間企業にDEIを推進する取り組みの停止を促すよう命じる大統領令に署名。すでに『マクドナルド』や『メタ』など、大手企業が取り組みを見直す方針に転じている。

“反DEI”の急先鋒に立ち、議論をリードしてきた人物がいる。活動家のロビー・スターバックさん(36)。

ロビー・スターバックさん
「反DEI運動は、DEIが新しい形の差別だということを経験した人たちから生まれたものです。私たちはキャンペーンを通じて、消費者がDEIを推進する企業の商品にお金を使いたくないということを示してきました」

大企業の取り組みに反対し、スターバックさんは「少数派が優遇されるのは不公平だ」として、SNSで不買運動を呼びかけてきた。

攻撃対象には日産やトヨタなど、日本企業も含まれているという。

ロビー・スターバックさん
「ある企業がDEIから撤退したと私が発表した48時間後に、株価が上昇した例もあります」

Q.DEIを根絶やしにするまで続けるんですか? 

ロビー・スターバックさん
「このイデオロギーを排除するために、私はどんな手段も講じます」

アメリカ社会の間で急速に広がるこの動きに抗おうとする人もいる。ペンシルベニア州・フィラデルフィアに住む、レズリー・マーラントさん(57)。

2024年まで、フィラデルフィア警察でDEIを推進する担当官を務めていた。

レズリー・マーラントさん
「残念ながら、保守的な人たちにとってDEIは“Did not Earn It =自分の力で勝ち取らなかった”という意味になります。白人男性以外は“DEI雇用”と言われてしまう事があるんです。その意味は明確で、実績が無いにも関わらず、DEIの恩恵を受けているとみなされるのです」

現在はコンサルタントとして民間企業にDEIの推進を提唱しているマーラントさん。多様な発想を生み、ビジネスチャンスを増やすという観点から、今後も旗振り役を担っていきたいと話す。

レズリー・マーラントさん
「アメリカは偉大なる人種のるつぼです。均質な社会ではありません。圧力に屈するということは、人種差別がまかり通っていたかつてのアメリカに戻るということ。不正義の時代に逆戻りするということです」

トランプ氏支持拡大 民主主義は?

国際政治学者・市原麻衣子教授は、第1次政権から大きく変わったものに規範のあり方を挙げる。

一橋大学大学院法学研究科 市原麻衣子 教授
「以前は、トランプを支持していてもそれを言いにくい環境があった。隠れトランプ現象なんて言われていましたが、それが時間を経て、トランプの排斥的な言葉を良しとする、トランプを支持する立場を明らかにすることを厭わなくなったという人が圧倒的に拡大しました。これはつまり、規範の在り方として、LGBTQや女性、移民といった弱者に対する排斥をすることが問題ではない、悪くはないというような社会の雰囲気を作ってしまっている」

そんなトランプ氏支持の底流にあるものをこう考える。

一橋大学大学院法学研究科 市原麻衣子 教授
「自分たちに経済的な利益をもたらしてくれて、自分たちの尊厳を回復してくれる。わかりやすく敵を作って、敵と我々というふうに分けてくれる。そういうような政治家がどうしても望まれてしまう、惹きつけてしまうというところがありますね」

そして、議会襲撃事件の受刑者に恩赦を与えたことが及ぼす影響を憂慮した。

一橋大学大学院法学研究科 市原麻衣子 教授
「法律をものともしない政治家がいる、大統領がいるというような状態は、もうすでにそれは法の支配と呼ばれませんので、これは典型的なポピュリズムの症状なんですね。民主制に対しての信念も弱体化させますし、法律に対して、社会のガバナンスというものの在り方に対して、人々が政府を信頼できなくなっていくので、本当に深刻だと思います」

戦後の世界秩序や価値観をリードしたアメリカの民主主義を取り戻すことはできるのだろうか。

一橋大学大学院法学研究科 市原麻衣子 教授
「やるべきことは、やっぱり分断の架橋だと思うんです。例えば、経済的に恵まれなくて、あるいは教育がなくて不満を抱いている、自分たちの尊厳が失われていると考える人たちがいる中で、その人たちとどれだけ対人関係をきちんと作って、信頼関係を社会の中で構築していくかということがやはり重要だと思います」

このニュースに関するつぶやき

  • 少数派なのに少数派を優遇して差別化する社会を作るから、そうなる。別に少数派でもその意味を無視して生活するのが普通。少数派は居ても大丈夫だが、それを踏まえてはならない。
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