大規模イベントでも「5Gをオンにしてほしい」 ドコモに聞く、ネットワーク対策の舞台裏

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2025年02月01日 11:01  ITmedia Mobile

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1月27日から2月2日にかけ、ドコモがトップパートナーになったLAPOSTAが開催されている。ドコモに、このイベントの関わり方やネットワーク対策を聞いた(写真提供:NTTドコモ)

 ドコモは、東京ドームシティ(東京・文京区)で開催中の「LAPOSTA 2025 Supported by docomo」に、トップパートナーとしてさまざまなサービスを提供している。同イベントは、LAPONEに所属するJO1、INI、ME:Iなどのアーティストが集う合同ライブ。これらのアーティストが登場するステージに加え、周辺施設でも、衣装の展示やグッズ、コラボフードの販売といったさまざまなイベントが1週間に渡って開催される。


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 トップパートナーに加わったドコモも、親子向けのダンスレッスンを「ドコモ未来フィールド」として開催。「つながる謎解きゲーム」と題したゲームを用意している他、ドコモショップの出張販売ブースも設けている。これらに加え、ドコモが実施したのがネットワーク対策だ。1カ所に多数の来場者が密集するイベントで、通信を活用することも多いだけに、イベント企画時からネットワーク部隊も交え、対応を検討してきたという。その舞台裏をドコモに聞いた。


●ネットワーク対策にも及んだトップパートナーとしての取り組み


 3回目の開催となるLAPOSTAにトップパートナーとして参画したドコモだが、これは、同社がエンタテイメント事業を強化している一環だ。JO1やINIといった人気グループがデビューした「Produce 101 Japan」という番組を、ドコモの動画配信サービス「Lemino」が独占配信したことが、そのきっかけだ。


 執行役員エンタテイメントプラットフォーム部長の櫻井稚子氏は、「ドコモが不得意だった20代の女性を中心に、新しい世代に価値を感じていただきたかったので、引き続き応援していくことになった」と語る。イベント会場でも、ドコモの持つサービスやリソースを生かした取り組みを実施している。


 例えば、dカードやd払いのキャンペーンでは、東京ドームシティ内の店舗やグッズ販売に500円以上利用した際に、抽選でノベルティを進呈。これらの決済を利用するユーザーに対して、専用レーンも用意した。また、事前の取り組みでは、dカードGOLD会員にチケットを先行販売している。


 これらの事例はどちらかといえば決済が中心だが、もう1つドコモが対策として取り入れたのが、ネットワークだ。櫻井氏は、「これだけ人が同時に集まるイベントを開催するので、通信でつながるところを見せていきたい」と語る。これは、同社の代表取締役社長 前田義晃氏が掲げた「つなごう。驚きを。幸せを。」というブランドスローガンに基づくものだという。


 イベント自体が「驚き」や「幸せ」とするなら、これらをつなぐには、Leminoのようなメディアや、d払い、dカードといった決済が必要だ。さらに、ネットワークは全体を支える足回りになる。会場では、「グッズの販売にd払いを使っている(のでネットワークが必要)。通信環境を気にする20代は、目の前で見たことも発信する」(同)。


 櫻井氏によると、LAPOSTSAでは「ライブを1曲撮影していい」ルールになっているという。「その瞬間みんなで撮り、その場で(SNSなどに)上げたり、退場してから上げたりする」(同)ため、トラフィックが集中しやすい。また、先に挙げたように、JO1やINIが今までに着用した衣装を展示したコーナーもSNSへの発信が許可されており、比較的大容量のデータ通信が発生しやすい。


●5G対応の可搬型基地局を導入、Massive MIMOも


 では、ドコモはどのようなネットワーク対策を実施したのか。同社の執行役員ネットワーク本部長を務める引馬章裕氏によると、「主催者から人流情報をいただき、ピンポイントで対策ができた」という。この場所に、可搬型の5G基地局を設置。帯域幅が広く、多くのユーザーを収容できる5Gは、「コミケ(コミックマーケット105)と同じように重点的に入れていった」(同)。


 この中で特に人が集まりやすい場所には、Massive MIMO対応の可搬型基地局を導入した。さらに、「重要なイベントなのでリアルタイムに設備保守を行い、トラフィックやSNSでつながりづらい声がないかどうかを設備側で監視している」(同)という。故障が起きる可能性も見越し、「会期中はしっかり対策を取っている」という。


 東京ドームのようなスタジアムは「野球の開催に合わせた設備対策はやり終えている」一方で、「グラウンドを開放してやるコンサートや今回のようなイベントは難しい」(同)。野球の試合中、グラウンドにいるのは選手のみ。しかもスマホは使わないため、LAPOSTAのようなライブイベントとは人流が大きく変わってくる。「普段の感覚で1万人を下(グラウンド)に入れると、かなり厳しい」(同)のが実情だ。


 そこで、LAPOSTAでは、ステージ脇に可搬型基地局を2台設置。アリーナ前方のユーザーの通信品質が上がるよう、フルスペックで周波数を活用した。引馬氏によると、「野球でいう観客席のところに設備を置かせてもらった。アリーナとの距離がかなり近いので、バチっと(ユーザーがいる場所を)狙える」メリットがあるという。これができたのは、ドコモがトップパートナーだったからこそ。「最後の最後でここに置いていいという許可をいただけた」(同)。


 LAPOSTAは1月27日から実施中だが、引馬氏によると、講演終了後の一番混み合う時間帯でも、5Gに接続していれば200Mbps程度の速度が出るという。5Gに接続するユーザーが増えることで4G側にも余裕ができ、「LTEでも快適なスループットが出ている」という。また、今回も引馬氏が挙げたコミケの時と同様、可搬型基地局に5G SA(スタンドアロン)を導入した。


 5G SAはNSA(ノン・スタンドアロン)方式とは異なり、接続する際に4Gをいったんつかむ必要がなくなる。万が一4Gが混み合っていても、5G SAを有効にしていればその影響を回避でき、直接空いている5Gに接続可能。コミケのネットワーク対策で導入され、その有効性が証明できた。引馬氏は、「(5G側は)帯域も広く取っていて、増強もしている。設定できるお客さまはぜひ設定してほしい」と語る。


●ユーザーへの呼びかけも実施、重要性が増すスタジアム対応


 一方で、5G SAは別途契約が必要。申し込みを済ませ、かつ対応端末を持っていなければならず、ややハードルが高い。コミケとはユーザー層も異なる。「コミケには“お詳しい方”がいるが、こちらは若年層が中心」(同)のため、まずはSA、NSA問わずに5Gで通信することが有効だと訴求していくという。引馬氏は、「一番いいのは5Gをオンにすることで、詳しい方がいればSAまでやっていただければ」と語る。


 ドコモは、5G導入期にエリアの端で通信がしづらくなる事象が発生したため、ユーザーに設定変更で5Gをオフにするよう呼び掛けていた。その後の基地局チューニングや5Gエリアの拡大によって、かつてのようにエリアの端に起因するパケ詰まりは起こりづらくなったが、このノウハウはネットでも広がっており、現在でもその有効性がまことしやかに語られている。5Gを切ったままだと、広い帯域幅を利用できないデメリットの方が際立つようになってきたというわけだ。


 コミケやLAPOSTAなどで導入されている臨時のネットワーク対策も、中心は5Gになりつつある。かつてのアナウンスがどこまで尾を引いているかは「加入者ごとに個別の情報まで見ていかないと分からないので把握はできないが、ユーザーのお声としてあることは認識している」(同)。そこで、ドコモは、LAPOSTAの来場者に対し、5Gをオンにすることを謎解きのリーフレットやX(旧Twitter)のドコモ公式アカウントで呼びかけているという。


 今回のネットワーク対策で注目したいのは、ネットワーク部門だけでなく、エンタメ部門ともしっかり連携し、可搬型の基地局を増設したところにある。引馬氏は、「ケーブルの準備や免許もあるので準備に半年はかかるが、ここまで櫻井と一緒にやることで、早くから情報をいただけた」とその成果を強調する。


 実際、先に挙げた東京ドーム内の対策も、「ライブを見ているときより、帰るときの方が大変と櫻井に言われた。終わった後の混雑する時間にご不便をかける」(同)というアドバイスを受け、ネットワーク設計に反映させた。先に挙げたように、人流情報を主催者から事前に入手できたり、東京ドーム内の観客席に可搬型基地局を置けたりといった点も、エンタメ部門との協力があってできたことといえる。


 5G SAをイベント対応に活用し始めたドコモだが、海外ではスタジアムにネットワークスライシングを導入し、決済端末に専用スライスを割り当てて通信が止まらないような工夫を施しているキャリアもある。LAPOSTAでは通常のトラフィック対策が中心だったが、ドコモ自身が運営に関わることになった国立競技場や愛知IGアリーナ、ジーライオンアリーナ神戸などでは、より進んだ取り組みも期待できるかもしれない。こうした施設に適用できるノウハウを積み上げていく上で、LAPOSTAのように部門をまたがった連携の重要性が高まっているといえそうだ。



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