こんにちは。これまで1000人以上の男女の相談に乗ってきた、恋愛・婚活コンサルタントの菊乃です。近年、婚活に踏み出すこと自体が“ぜいたく品”になりつつあると感じることがあります。
少し古い調査になるのですが、旭化成ホームズの研究機関である共働き家族研究所・二世帯住宅研究所の「共働き家族とサポートする親・そのくらしと意識調査」(2016年)によると、子どもがいるフルタイム共働き夫婦の64.5%が、親から子育てや家事の何かしらのサポートを受けていると回答しています。
ですが親と良い関係を築けていない場合、結婚・出産後の生活はどうなるのでしょう。
今回、親からのDVに苦しんだ経験を持ち、「結婚したくないわけではないけれど、絶対に子どもは産みたくない」と語る女性・茜さん(仮名・31歳/関東在住)を取材しました。
◆警察や役所への相談・手続きを経て、実の親から逃れた
茜さんは昨年からひとり暮らしをスタートしています。実家を出るときには、警察に親からのドメスティック・バイオレンス(DV)について相談し、市役所への「住民基本台帳事務における支援措置申出書」の提出も行いました。
支援措置とはDVや虐待等の被害者を保護するための制度で、申出にあたっては警察や相談機関への相談を経ての厳格な審査があります。手続きを行うことで、加害者による住民基本台帳の閲覧・住民票の写し等の交付・戸籍の附票の写しの交付を市区町村側で制限できます。茜さんの場合は、実家の家族にこれらを調べられ現住所を特定されてしまうことがなくなります。
こうしてやっと、実の親から離れることができたのです。茜さんにはお姉さんが1人いますが、同じ手続きを踏んで実家から離れています。
「姉と仲が悪いわけではないのですが、姉も私経由で勤務先などが親に知られることを危惧しているので、姉の仕事や勤務先は私も知らないんです」
◆勉強ができないと、家中を引きずり回された
茜さんの父親は医療事務、母親はたまにパートで働く専業主婦です。前述のお姉さんとは年が離れているため、子どもの頃に一緒に遊ぶことはなく、父親は仕事ばかりで育児に関わることが少なかったそうです。
茜さんは常に母親から監視され、勉強を強要されていました。お話を聞くと、ただの教育熱心な親とは明らかに異なるエピソードがたくさんありました。
小学校時代に茜さんが、紙に数式を書いて解こうとしたり、指を使って数を数えると「こんな簡単なことも暗算でできないのか!」「集中力が足りない! なぜこんなことも分からないの!」といった言葉で叱責され続けました。あるときは「こんなことも分からないのは病気だから病院に行く」と、腕を引っ張って家中を引きずり回されます。
◆朝起こされるときには、母親から性器を触られる
学校に行く準備も監視対象でした。母親の中で、教科書、ノート、ドリル、文具などをランドセルに入れる順番すら決まっており、順序を間違えただけで怒られます。
子どもは友達がもっている流行りの文具や服など欲しがります。茜さんも欲しがったことがあったそうですが、「お母さんが嫌いだからダメ」という理由で買ってもらったことはありませんでした。
幼いころ、茜さんはアトピー体質でかゆくて搔きむしってしまうことがあったそうです。それを見て「汚い」「学校でアトピーを見られたら友達から嫌われるよ」と酷いことを言われ、顔立ちについても「もうちょっと可愛ければ」と心無いことを言われ続けました。
さらに小学校3年から6年生ごろまで、母親は朝茜さんを起こす際に下着に手を入れて、性器を直接触ってきたそうです。おねしょのチェックなら布団に触れれば良いだけなのに。この行為の理由は不明です。
◆否定や制限ばかりされ、何にも興味を持てなくなった
中学に進学すると携帯電話を持つ生徒も増えます。茜さんも携帯電話を持つことは許されましたが、母親から1時間に1回ぐらい電話やメールが来ます。
茜さんは絵を描くことが好きだったそうですが、子ども時代から絵でたくさん賞状をもらっていた姉と比較され、「上手じゃない」と否定されました。
電車で出かけて良い範囲を決められるなどのルールも多く、行動を制限され続けた茜さん。やがて、何に対しても興味を持てなくなりました。
その後、母親と同じ私立の女子高に進学します。
◆18時の門限を過ぎたら、母親から100件超の着信
「高校時代はおそらく、私はうつだったと思います。学校に行きたくないときもありましたが、母は『あなたの心が弱いから。お母さんはなったことがないから意味が分からない』『世の中にはもっとつらい人がいるのに、学校に行きたくないとか理解できない』と言いました。
遅刻が多かったものの、家にいたくないので高校は行ってました」
家に友達を連れて来れば、「あの子は服装がだらしないし可愛くない」「あの子の親はどんな仕事をしているの?」と言われて不快な思いをさせられます。そのため友達を家に呼ぶこともなくなりました。
あるとき先輩と遊びに出かけて、家の門限の18時を過ぎてしまったことがありました。携帯には母親から、100件以上の着信。その時に先輩から「おかしいよ」と言われ、初めて自分の親がおかしいのかもしれないと思ったそうです。
とはいえ、よその家の事情はよく分かりません。ほかの子の親たちも程度の差はあれ、同じように子どもに干渉しているのではないかという思いも当時はあったそうです。
◆アルバイト先まで指定「制服が可愛いところにして」
「いまの時代は大学に行かないとダメ」というのが母親の方針でした。高校時代、周りがオープンキャンパスに行っているときも、やりたいことがなかった茜さんは進路を調べることもなく、お姉さんと同じ芸術大学に進学します。
大学生になれば高校までの厳しい校則から解放され、好きな服や髪型にしたくなる人も多いでしょう。ですがそれらの自由も茜さんにはありませんでした。18歳といえば、今ならもう「成人」の年齢だというのに。
母親の趣味はフラワーアレンジメントで、“お花モチーフなどのロマンティックで甘い雰囲気のアイテムが似合う娘”が理想だったようです。
「私が興味を持った雑貨屋でのバイトは、母親にダメだと言われました。バイト先を探す上では『コンビニはやめて』『総菜屋はダメ』『制服が可愛いところにして』という条件を課されたので、ケーキ屋でバイトをしました」
バイトで貯めたお金で美容室に行きショートカットにしたところ、「その髪型、みっともない。女の子なのに短くて周りから笑われるよ」と言われます。
◆外からは気づかれにくい、異常な過干渉というDV
茜さんの母親は外から見れば、ガーデニング好きで少し教育熱心なだけのお母さんにも見えます。異常な過干渉であり、性的虐待であり、明らかにDVなのですが、こうしたケースは虐待として気づかれにくいのかもしれません。そのために、茜さんは大学に進学しても成人しても母親から逃れることができず、やっと自由を手に入れたのは30代になってからでした。茜さんが「絶対に子どもは産みたくない」と思うのも無理はありません。
※個人が特定されないよう一部脚色してあります。
◆「もしかして」と思った周りの大人ができること
もし周りのお子さんについて、「様子がおかしい」「あの子は親から虐待を受けているかもしれない」と思った場合は、各自治体の相談窓口、または以下の全国共通の電話窓口で相談できます。当事者はもちろん、目撃者などの第三者の相談も受け付けています。
●こども家庭庁「児童相談所虐待対応ダイヤル」
「虐待かも」と思った時にかけると管轄の児童相談所に電話を転送、すぐに通告・相談できる。
電話番号:189(いちはやく/全国共通・通話料無料)
受付時間:24時間受付
●法務省「こどもの人権110番」
いじめや虐待を含む、子どもの人権に関する問題について相談ができる専用相談電話。
電話番号:0120−007−110(全国共通・通話料無料)
受付時間:平日8時30分〜17時15分
(メール相談「こどもの人権SOS-eメール」、LINEでの相談「法務局LINEじんけん相談」も)
●文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」
いじめなど子どものSOS全般について相談できる。都道府県及び指定都市教育委員会などが運営。
電話番号:0120−0−78310(なやみいおう/全国共通・通話料無料)
受付時間:24時間受付(年中無休)
<取材・文/菊乃>
【菊乃】
恋愛・婚活コンサルタント、コラムニスト。29歳まで手抜きと個性を取り違えていたダメ女。低レベルからの女磨き、婚活を綴ったブログが「分かりやすい」と人気になり独立。ご相談にくる方の約4割は一度も交際経験がない女性。著書「あなたの『そこ』がもったいない。」他4冊。Twitter:@koakumamt