フジ新社長はアニメ畑出身 「異色だが期待大」な、決定的な理由

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2025年02月01日 19:01  ITmedia ビジネスオンライン

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フジテレビジョンの清水賢治新社長(撮影:河嶌太郎)

 フジ・メディア・ホールディングス(FMH)は1月27日、10時間23分に及ぶ異例の「やり直し」会見を開いた。フジテレビジョンの港浩一社長、嘉納修治会長は辞任。後任社長にはFMH専務の清水賢治氏が就任した。


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 清水氏は、1983年に入社。『Dr.スランプ アラレちゃん』『ドラゴンボール』『ドラゴンクエスト』『ちびまる子ちゃん』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『HUNTER×HUNTER』『ONE PIECE』など国民的なメガヒットアニメを企画・プロデュースしてきた。


 これまでフジテレビの社長は、ディレクターなど制作現場出身者や経営企画系出身、新聞社や省庁出身者の外部登用など、さまざまな経歴の人物が就任してきた。清水新社長は同社を代表するアニメプロデューサーであり、その経歴は他のキー局の歴代社長を見てもあまり例がない。


 同じプロデューサーという職務でも、テレビ局が制作にも積極的に携わるバラエティーやドラマと、制作を外部に全面委託し、さまざまな業界が出資するアニメとでは、実はその役割が違う。アニメプロデューサー出身の清水新社長就任で、今後のフジテレビの経営はどう変わるのだろうか。これまでの社長との比較と、アニメ業界のビジネスモデルからひも解いてみたい。


●調整能力が問われるアニメプロデューサー 港前社長との“決定的な違い”は?


 午後4時から始まった会見にはまず、フジテレビの港社長、嘉納会長、遠藤龍之介副会長、FMHの金光修社長の4氏が登壇した。会見直後に一連の問題への対応の責任をとる形で、港社長と嘉納会長の辞任を27日付けで発表。後任社長にFMH専務の清水賢治氏が就いた。


 その後、この5氏によって、10時間超の会見を続けることに。会見には191媒体、437人が参加。筆者も最初から最後まで参加した。途中、フリーランスの記者を中心に、怒号が飛び交う展開もあったのは周知の通りだ。


 会見で清水新社長は左端の席に座り、10時間超も終始丁寧な語調で対応した。対する港前社長は「○○かな」や「なので」など、ところどころカジュアルな話し方が目立ち、XなどのSNS上でも、その話し方の拙さを指摘する声もある。港前社長は『FNS27時間テレビ』『とんねるずのみなさんのおかげです』などのバラエティー番組を多く手掛けてきており、「制作現場たたき上げだから仕方がない」という見方もあった。


 特にバラエティーをはじめ、ドラマなどの実写コンテンツは、テレビ局自ら制作に携わる場合が少なくない。全番組がそこで収録されるわけではないものの、キー局ではスタジオも本社内にある。そこでプロデューサー以下のスタッフが番組制作に立ち会い、芸能人とリアルタイムで接しながら、番組作りを進めていく。


 今ではコスト削減意識の高まりから、バラエティーやドラマの制作を外部に委託する形も珍しくなくなっている。だが港前社長が現場で活躍した1980年代から1990年代のテレビ黄金期は、今よりも自社制作の番組が多かった。


 バラエティーの収録では、放送作家を中心に番組の構成を立てるものの、あくまでそれはたたき台であることが多く、芸人のアドリブや、収録に立ち会うディレクターやプロデューサーなどのアイデアなどによって最終的な演出は変わってくる。港前社長は第二制作部部長やバラエティ制作センター室長、バラエティ制作センター担当局長などを歴任しており、まさに番組作りたたき上げの「職人」といえるキャリアだ。


 一流の職人が「大企業の社長」として適格だったかどうかには、議論の余地が大いにあるだろう。だが、あらためて港前社長のキャリアを考慮すると「本当に経営層のビジネスパーソンだったのか」と問われてしまうような言葉遣いが目立ったのも、ある程度は仕方がない面もあると考えられる。


●テレビ局が「手を出せない」アニメ制作


 一方で後任の清水新社長が主に歩んできたアニメの場合、バラエティーとは決定的な違いがある。アニメはテレビ局が制作できない点だ。


 テレビ局の子会社となっているアニメ制作会社自体は、例えば日本テレビ子会社のスタジオジブリやタツノコプロなどが著名だ。フジテレビも、デイヴィッドプロダクションというアニメ制作会社を子会社にしている。


 だが、アニメ制作会社がテレビ局と資本関係にあったとしても、アニメプロデューサーは番組作りに対して、バラエティーのようには大きく口を出すことができない。アニメプロデューサーはテレビ局の一人だけでなく、アニメ制作会社にもいて、著名な例でいうと、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが当てはまるだろう。


 アニメ作りにおいては、テレビ局などの「製作」プロデューサーと、制作会社の「制作」プロデューサーは、明確に区別されている。口頭で伝える際にも「衣」付きなどと表現されるほどだ。


 実際のアニメ作りの現場は、この制作会社の制作プロデューサーが取り仕切る。アニメ作りにおいては、テレビ局は基本的にアイデアとお金を出すことが主で、バラエティーなどのように、番組作りに直接「手」を出すことはできない。


 「口」は出せるものの、出せるのは基本的に「プリプロダクション」と呼ばれる、企画立案からシリーズ構成、脚本、設定・デザイン、絵コンテまでの段階でだ。絵コンテが完成し、それを元に制作会社が中心となって原画やアニメーターなどが動き出す段階になってしまうと、現場の陣頭指揮は制作プロデューサーが担い、製作プロデューサーは基本的に進捗確認や品質管理などにしか携われない。


●バラエティーとアニメ 同じプロデューサーでも全く異なる役割


 清水新社長が歩んできたプロデューサー業も、まさしく“製作”プロデューサーのほうであり、港前社長とは異なる。


 アニメ作りの場合は、テレビ局だけの一社出資という形態はほとんどなく、制作会社を含めた複数社が出資して製作するのが一般的だ。そうなると、出資者の数だけ製作プロデューサーがいることになり、製作プロデューサーの権限はそれだけ分散する。


 それでも「テレビ局のプロデューサーは別格なのでは」と考える人がいるかもしれない。だが、アニメ番組は1話ごとに独立して販売できるようになっており、特に現代の動画配信の時代では、ビジネスにおいて必ずしもテレビ局を必要としない。特に昨今ではテレビ局であっても出資者の一人という扱いであり、その権限も出資配分に応じた扱いになる。


 テレビ局の子会社の制作会社であっても、テレビ局の影響は限定的だ。フジテレビ傘下のデイヴィッドプロダクションが制作するテレビアニメがフジテレビ系列だけで放送されているかといえば全くそうではなく、むしろ親会社であるフジテレビ系列で放送されないケースさえ珍しくない。


 例えば同社の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズを見ても、在京局で放送したのはフジテレビではなく、TOKYO MXだ。バラエティーなどの実写コンテンツと比較すると、アニメの場合は制作会社の独立性が高いのだ。さらにアニメ作品の場合、その大半に原作が存在する。その場合は、出版社の編集者や原作者との折衝が不可欠だ。これは今も清水新社長が活躍した1980年代から1990年代も変わらない。


 このように、アニメプロデューサーに問われる資質は、職人的な企画立案能力というよりも、他の出資者や権利元である出版社、制作会社などとの折衝といった調整能力のほうが主になる。特に21世紀に入り、アニメ作りの中で「製作委員会方式」という、複数社による出資体制が常態化すると、アニメ作品の権利関係が複雑化してきた。出資者も音楽業界からグッズメーカー、ゲームなどに加え、近年はパチンコ業界など多様化しており、複雑化に歯止めがかからない。


 清水新社長は作品数は減っているものの、21世紀以降もアニメプロデューサーであり続けていて、高い調整能力があると考えられる。日刊ゲンダイDIGITALによると「制作現場と経営の双方に通じており、バランス感覚にもたけた人物」と、社内からも評価する声があるという 。アニメプロデューサーだけでなく、編成や経営企画の経験もあり、FMHの専務なども歴任している。FMHの金光社長は、会見の中で専任理由について以下のように説明した。


 「清水新社長は、番組を企画する編成に長くいました。スカパー(・ウェルシンク)というところにも行って、外部の人とも仕事をしたことがあります。さらに経営企画ということで、会社の経営も見ることができる。さらに今FMHの専務という形で、フジテレビも、その持ち株会社のFMHも経験してるということで、オールラウンドでテレビ業界のことにも詳しいです。今の状況においてふさわしいと判断して、それはあの誰がということじゃないですけれども、取締役会で選任しました」 (金光社長)


●動画配信ビジネスをどう強化していくか


 港前社長と対照的に、会見後のSNSなどで清水新社長を評価する声は少なくない。もちろん賛否はあるものの、全体的にはフジテレビの再建と信頼回復に向けた人事として、高い期待が集まっているといえるだろう。


 会見中、フリーの記者を中心に「会見は失敗」などのやじも飛び交った。他にも「失敗」と分析する見方は少なくない。だが、会見翌日の1月28日のFMHの株価は、1960円の始値から2035円の終値をつけた。前日比60円、3.04%の上昇だ。株価上昇にはさまざまな原因があるものの、指標という面では、27日の記者会見と清水新社長の就任は「成功」だと評価できる見方もあるのではないだろうか。


 2023年のアニメ産業市場は3兆3465億円を記録し、前年比114.3%の成長を遂げた。このうち海外市場が51.5%を占め、国内市場を上回っている 。この高成長を実現しているのが、動画配信ビジネスにおけるアニメの好調ぶりだ。


 動画配信による視聴が一般化したことによって、テレビアニメの海外展開時に、現地の放送局などとの交渉が不要になった。これにより以前より海外展開がはるかにやりやすくなっている。帝国データバンクによれば、アニメの動画配信市場は2012年から2022年の10年間で、10倍に拡大したという。


 清水新社長就任は、この急成長を遂げるアニメ動画配信ビジネスにどう影響するのか。清水新社長が担当した作品でも『Dr.スランプ アラレちゃん』など、2025年1月末現在、動画配信サービスで配信されていない作品も少なくない。


 他にも、2006年9月24日放送の『ONE PIECE』を最後になくなっている、午後7時から午後10時までのゴールデンタイムでのアニメ枠復活を期待する声が、アニメファンや業界から上がっている。イレギュラー枠でのゴールデンタイムのアニメ放送は2021年9月の『鬼滅の刃』があり、ビデオリサーチ社によれば、その視聴率は軒並み13%以上となった。


 清水新社長は会見で「テレビが1番、(方向として)向いているのは視聴者の皆さま。信頼回復に向け、たった1つの魔法の薬はない。やはり日々1つずつ着実に策を実行し、日々信頼を少しずつ地道に取り戻していくしかない」と述べている。


 その「策」として、今や国民的な一大産業であるアニメが、どこまで活用されるのか。混乱を経てどのような道筋を経るのか注目に値するだろう。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



このニュースに関するつぶやき

  • メディアの外国人規制がザルなのもあるんだが、フジはチョンコ支配を脱却できるのかねw?
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