スタバVS.コメダ 日米コーヒーチェーン徹底比較で見えてきた立ち位置

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2025年02月03日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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カフェ業界の中でトップを爆走するスタバ(提供:ゲッティイメージズ)

 突然だが、問題。外食チェーンで、国内店舗数第2位の店はどこか。


【画像】好調のスタバとコメダ、徹底比較してみた


 答えは、スターバックスである。1位のマクドナルド(国内2988店舗)に次いで、2番目に店舗数が多い。その数、1986店舗。当然、カフェ業界の中ではトップを走っている。


 来年の2026年は、スターバックスコーヒージャパン30周年という節目だ。海外発の飲食チェーンは、日本では馴染めずに撤退する例も多い。しかし、上陸から約30年が経ったスタバは、全く衰える気配がない。それどころか、米国のスターバックス事業が停滞しているにもかかわらず、日本のスタバは好調なのだ。


 一方、国内勢も手をこまねいているわけではない。特に勢いがあるのが、名古屋発祥のコーヒーチェーンであるコメダ珈琲店だ。


 フランチャイズを中心に急速に出店数を伸ばしており、現在の店舗数は1004店舗。長年、国内のカフェ業界の店舗数2位に位置するドトールが1075店舗であることを踏まえると、今年か来年あたりにはこのランキングも逆転するだろう。他のチェーンと比較して、営業利益が非常に高いことでも知られており、展開次第によってはスタバと肩を並べるかもしれない。


 スタバとコメダ、実はこの2つの店舗は、同じ日本でシェアを拡大しつつも、絶妙にターゲットや店の目的が異なる。両者の特徴を見ながら、日本のコーヒーチェーンの現在地と未来について考えてみよう。


●強烈なブランディングでインパクトを与えたスタバ


 スタバ一号店は1996年、銀座松屋の裏手に誕生した。当初は都心部を中心とする出店だったが徐々に地方や郊外、駅や空港、さらには役所のような公共施設にまで貪欲に出店を伸ばしてきた。


 スタバの特徴を一言でいえば「強烈なブランディング戦略」であり、「家庭でも職場でもない『サードプレイス』を目指す」という理念がそれをよく表している。本来、店舗が増えれば増えるほど、こうしたブランドは薄れるはずだが、スタバの場合はまだそのイメージが保たれている。


 こうしたブランディングを成立させる条件は何か。よく指摘されるのは、スタバは日本においてそのほぼ全店が「直営店」だということ。つまり、本部を中心としてその意向が比較的各店に浸透しやすくなる。


 ただ、筆者が考えるに、スタバが秀逸なのはオペレーションの問題もさることながら、その店舗の作り方の「そもそも」の部分で強烈なブランディングに成功していることだと思う。


●来る人を「静かに選ぶ」スタバの妙


 ここで改めてブランディングについて考えてみよう。ブランディングとは、「誰もが/誰でも使えるものにしない」と言い換えることができる。ブランドとは言い換えれば希少価値のことであるが、その価値を維持するためには商品の価格を高くしたり、ある程度顧客層を絞ったりする必要がある。その意味でスタバは、かなり「顧客の選択」に成功しているのだ。


 例えば価格。スタバでは基本的に安売りをしない。フラペチーノは1杯1000円近く、カフェとして考えれば決して安いわけではない。しかしそれによって、その価格設定に耐えうる人、あるいはその価格でも行きたい人を静かに選択することになる。


 もう1つの選択は、たびたびネタにもされる「スターバックス用語」だ。コーヒーのサイズはショート、トール、グランデ、ベンティと英語とイタリア語のミックス。トッピングが必要になると、そこにさらに複雑な片仮名が加わり、延々と続く「呪文」が誕生する。面白いのはこうした独特な用語によって、それを言える人のみが集まってくる。つまり、来店ハードルを上げているのだ。


 米国のスターバックスについて分析し、『お望みなのは、コーヒーですか?』(岩波書店)を書いたブライアン・サイモンはこう語っている。


 『スターバックス用語は特定の人々を店から遠ざける役割を果たしている。(中略)顧客はあらかじめスターバックスに通う誰かから、そうした言葉の使い方を学んでおかなければならない。その誰かとは、もともと高級で白人が多勢を占める場所を選んで出店していたスターバックスと縁が深いような知り合いなのだ。』


 本場の米国でさえこうなのだ。であれば、英語もイタリア語もなじみのない日本人にとって、メニューの複雑さでスタバを遠ざける人がいるのは確かだろう。随所に「来る人を選ぶ」仕掛けがしてあることが、スタバの秀逸さなのである。


●日本だけスタバが好調の理由は?


 前述の通り、グローバル市場で見ると、スタバの調子が良いのは日本だけである。同社の米国事業や中国事業は大きく落ち込んでおり2024年10〜12月期決算の既存店売上高は全世界で前年同期比4%減となった。米国では4%減、中国では6%減である。どうして日本だけここまで好調が続くのだろうか。さまざまな要因があるだろうが、おそらく、ここにも先ほど書いた「ブランディング」の問題が潜んでいると思う。


 特に米国で問題になっているのは、モバイルオーダー注文での不備の多さだという。モバイルオーダーが殺到しすぎて、店舗でさばききれなくなった結果、注文から商品の受け取りまでに10分以上かかるケースもあるのだという。


 これは推測だが、モバイルオーダーによって注文プロセスが「民主化」された可能性がある。口頭での注文で「呪文」に煩わされることなく注文ができるために、逆にスタバに行くハードルが下がった可能性が高い。それが結果として店のクオリティーを下げ、ブランディングも下げてしまい減益に……という流れが想像できる。


 また、米国ではスタバのライバルは「ファストフード」だともされており、マクドナルドなどとの価格競争も起こっている。そうなるとやはりスタバが目指していたような「ブランディング」とは程遠い世界になってしまう。日本の場合、モバイルオーダーがまだそれほど浸透していないこと、さらに値下げなどは一部を除きほぼ行っていないことが結果的に「ブランドの維持」に寄与したのかもしれない。


 このようにしてみると、日本でのスタバは、むしろ本国である米国以上にブランディングの強化に務めているといえる。日本はよく「マニュアル文化」だといわれることが多いが、本国のスタバが守ってきたことを日本なりに解釈し、忠実に守ってきているからこそ、ここまで堅実だといえるのかもしれない。


 また、日本ではいまだに「外国文化への憧れ」が根強い部分もある。それはスタバがブランディングとする「カッコよさ」に表れているが、スタバに行くこと自体がまだ個人のアイデンティティーを形成する1つの要因になっている。


 ひところまことしやかに語られた「スタバでMacBookポチポチドヤァ問題」は、まさにそれを表しているだろう。スタバでMacBookを開きドヤ顔で仕事をすることが、その人の印象を決めるのである。なお、現在ではそこまでドヤってる人はいないが、それでもこのイメージがいまだ強いことにも、日本におけるスタバのブランディングの強さがうかがえるのだ。


●「かっこつけない」コメダ珈琲店


 一方、コメダ珈琲は、あらゆる点でスタバとは異なる特徴を持っている。まず、コメダはその店舗の多くはフランチャイズである。つまり、それぞれの店舗ごとにオーナーが違う。その意味で、スタバのような全店で敷居を高くするブランディングが施されているわけではない。


 カフェ業界での取材が長い高井尚之氏は著書『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)で、スタバと比較したときコメダは「かっこつけないところ」が特徴だと書いている。こうした運営形態の在り方も、その雰囲気に影響を及ぼしているかもしれない。


 面白いのは、同書では「なぜ、コメダには『舌をかみそうなメニューがない』のか?」と題して、同社のメニューがシンプルであることに触れつつ「子どもからお年寄りまで、世代を問わず来店される店にするためには、利用客の抵抗感を和らげる工夫も必要だ。それが、メニューのネーミングにも表れている」と述べる。あらゆる来店ハードルを下げることで、スタバと好対照を成していることがお分かりいただけるだろう。


 さらにこうした「かっこつけないところ」は、店舗に長居できることにも表れている。コメダ珈琲店では一部店舗を除き、基本的には利用時間の制限がない。肩肘張らないで、長くいることができるのだ。電源付きのテーブルも多く、テーブルもゆったりしている。さらに各テーブルの横には少し高めの間仕切りがあって、そこまで周りの目を気にすることなくおしゃべりや作業ができる。地元民の憩いの場所になっているコメダも多い。


 そういえばかつて、ある記者の人と話していたとき「その地域の飾り気のない姿を見たければ、そこのコメダに行け」と言われた。コメダでダベる近所の人たちの会話が、もっともその地域の姿を表すというのだ。


 ちなみにコメダ珈琲店ではその分、営業時間を他のカフェチェーンよりも長く取り、モーニング、ランチ、ディナーで違うお客を入れて利益を上げている。また、長居する客の多くがコーヒーや食事のお替わりをすることもあって、客単価の向上に成功。長居できる裏側にはこうしたビジネス上のカラクリがあるのだ。


 いずれにしても、スタバが直営店をメインに「かっこよさ」を重視したブランディングを意識し続けているのに対し、コメダはむしろ「かっこつけない」空間作りを意識している。それぞれのチェーンの特徴はかなり際立っており、その点で両者とも「選ばれる」チェーンになっているのではないだろうか。


●人口減少時代に求められるチェーンの「個性」


 ここまで見てきたように、スタバとコメダはあらゆる点で対照的だ。そのため、しばらくの間は、この2つは完全な競合にはならないと思う。それは出店立地と顧客層にも表れている。


 スタバは若い女性を中心とする顧客層が多く、出店で見ると東京に全店舗の約20%が集中している。その他は大阪、愛知、神奈川と大都市を有する街への出店が多い。一方、コメダ珈琲は地方や郊外を中心とする出店が多い。2020年のデータではあるが、顧客の平均年齢は46歳と日本の平均年齢と同等、つまりは高齢者が多めである。その意味でも、この2つはうまいこと直接対決を避ける構造になっている。


 逆に今回取り上げなかったドトールはどうか。現在、カフェの数は飽和状態にあり、店舗数でもほぼ横ばいの状態が続いている。中でも店舗数を増やしているのがスタバとコメダであるが、逆にドトールは店舗数が減少している。言われてみれば、スタバやコメダに比べるとドトールはそのポジションが曖昧になりがちで、ターゲット層が分かりづらい。個性でいえば少し劣っているといえるかもしれない。


 ただ、スタバとコメダが完全禁煙であるのに対し、ドトールは多くの店舗に喫煙ブースが付いている。そのため喫煙層の支持は厚い。ただ、ご存じのように喫煙者の数は年々減少している。さらに喫煙率と低所得者率は相関関係にあることが分かっており、客単価も上げづらい。ドトールはより明確な個性を出していかないと厳しい状態が続くかもしれない。


 コーヒーチェーンに限らないが、さまざまな業態で飽和状態が起き、人口減少が進む現在、各店舗はその方向性を明確にしなければ厳しい時代が来ている。スタバとコメダの在り方は、そんな時代のコーヒーチェーンの姿を顕著に表しているのではないだろうか。


著者プロフィール・谷頭和希(たにがしら かずき)


都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。チェーンストアやテーマパーク、都市再開発などの「現在の都市」をテーマとした記事・取材などを精力的に行う。「いま」からのアプローチだけでなく、「むかし」も踏まえた都市の考察・批評に定評がある。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』他。現在、東洋経済オンラインや現代ビジネスなど、さまざまなメディア・雑誌にて記事・取材を手掛ける。講演やメディア露出も多く、メディア出演に「めざまし8」(フジテレビ)や「Abema Prime」(Abema TV)、「STEP ONE」(J-WAVE)がある。また、文芸評論家の三宅香帆とのポッドキャスト「こんな本、どうですか?」はMBSラジオポッドキャストにて配信されている。



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