福田正博 フットボール原論
■2月14日に開幕する今季のJ1リーグで注目されるのが、大型補強を敢行した浦和レッズだ。どんな陣容が予想されるのか。飛躍のポイントは? OBの福田正博氏が解説する。
前編「福田正博が今季J1を展望 新監督を迎えたチームが楽しみ」>>
【ポイントはマテウス・サヴィオ】
今回は大型補強をした浦和レッズについて触れたい。今オフはMFマテウス・サヴィオ(柏レイソル)、MF松本泰志(サンフレッチェ広島)、MF金子拓郎(コルトレイク)、FW長倉幹樹(アルビレックス新潟)、DFダニーロ・ボザ(ECジュベントゥージ)などを獲得した。足りないポジションに的確に人材を補強し、優勝を狙えるメンバーは揃ったと言える。
浦和のサッカーは守備時に4−4−2、攻撃時には4−2−3−1に変化するが、ポイントはマテウス・サヴィオだろう。彼は攻守において貢献度が高く、ハードワークを厭わず、グループとしてサッカーができる選手。そのうえで2019年から柏でプレーしてきて、Jリーグを熟知している強みがある。
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浦和に移籍したからといって基本的に柏時代と変わるわけではないが、ポジションは左サイドだけではなく、トップ下での起用も想定される。左サイドには原口元気や松尾佑介もいるため、対戦相手やチーム状況に応じて柔軟なメンバー構成ができるだろう。
そのトップ下で期待されているのが松本泰志だ。広島では豊富な運動量で2列目でも3列目からでも存在感を示したが、浦和ではボランチとしてよりも、2列目のトップ下としての起用がメインになるのではと思う。
マチェイ・スコルジャ監督がキャンプでボランチの軸に考えていそうだったのが、渡邊凌磨だ。昨季はトップ下やボランチのほかにサイドバックでも起用されたが、このプレシーズンを見た限りだとボランチがもっともハマっていた。ただ、渡邊はゴール前でのラストパスの精度に秀でるので、トップ下での起用も想定される。シーズン序盤は渡邊を軸にしながら、安居海渡やサミュエル・グスタフソンを組み合わせながらバランスを取っていくのではないか。
【サイドからの攻撃は魅力】
右サイドには、左利きでドリブルを仕掛けてゴールに迫るという、タイプの似た選手が3人いる。ファーストチョイスは金子拓郎だろう。左にマテウス・サヴィオがいて、右に金子がいたら、対戦相手にとっては守りにくいことこの上ない。
この金子のほかに、昨年11月に右膝半月板損傷の怪我で手術をした影響で出遅れているものの、スコルジャ監督からの評価の高い大久保智明がいて、さらに昨季は17試合でスタメン出場した前田直輝もいる。
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これは右サイドに限ったことではないが、今季の浦和は攻撃的なポジションの選手が豊富にいる。選手層が厚いという見方ができる一方、シーズンが進むにつれて起用される選手が固まってくると、起用されない選手は不満を溜め込む。チームマネジメント面から考えれば、余剰戦力となった選手を整理することもスコルジャ監督には求められるだろう。その決断をいつ下すかも、今季の浦和にとってはテーマになる。
攻撃的なポジションの選手は豊富にいる一方、手薄な陣容なのがサイドバック(SB)だ。昨季左SBを務めた大畑歩夢(ルーヴェン)が移籍し、渡邊はボランチで起用されることになったなかで、浦和ユース出身で2024年頭にディナモ・ザグレブに移籍した荻原拓也の復帰が決まった。
右SBは昨夏にサガン鳥栖から獲得した長沼洋一が務めるだろう。長沼は右サイドでも左サイドでもMFでもSBでもプレーできるユーティリティさがある。バックアップが少ないのは不安だが、いざとなれば渡邊がプレーするという手もある。ポリバレントな選手が揃うだけにSBの選手層の薄さは不安視していない。
【センターフォワードの活躍は必須】
今季の浦和を「優勝争いができるチーム」と評価しているが、「優勝候補」に挙げられないのが、センターフォワードの迫力不足にある。
1トップの柱はチアゴ・サンタナだろう。昨季先発21試合(出場36試合)で12ゴールは、数字としては及第点だが、勝負への貢献度という部分では物足りなさが残った。今季から同じブラジル人のマテウス・サヴィオが加入してプレーしやすくなり、得点力が高まることを期待しているが、昨季と代わり映えしないパフォーマンスだと、勝ちきれない試合が増えるかもしれない。
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サンタナのほかの1トップ候補は、興梠慎三が引退したこともあり、新たにアルビレックス新潟で昨季30試合5得点をマークした長倉幹樹を獲得した。ポストプレーなどでは浦和に足りない部分を補える貴重な選手だが、ゴール前の勝負を決める仕事というところでは、まだまだ迫力十分とは言い難い。
なぜ1トップに高い要求をするかと言えば、仕事場が勝負を決める場所だからだ。スコルジャ監督のサッカーは守備をベースに堅く守り、左右両サイドからチャンスをつくりだしていく。ただ、その先のゴールを奪う精度に問題があって、勝ち点をなかなか伸ばせなかった。だからこそ、ゴール前で勝負を決める仕事を1トップがどれだけできるかが重要なのだ。
リーグ戦は、負けないことも大事だが、引き分けで得られる勝ち点は「1」。優勝するためには、勝ち点「3」が求められる。それだけにチアゴ・サンタナや長倉など1トップをつとめるFWが、どれだけ得点を稼げるか。現状のメンバーで1トップがハマらないようだと補強も考えなければいけないかもしれない。逆にここがしっかり働けば、チームはおのずと上位を争えるということだ。
とはいうものの、浦和の今季開幕戦は、アウェーでヴィッセル神戸との戦い。J1で2連覇中の王者で、開幕戦の前にスーパーカップ、ACLと2試合を戦う神戸に対し、浦和はこの試合がシーズン最初の公式戦となる。選手のコンディション面でも差があって、厳しい戦いが予想される。
その点で言えば、浦和にとっての神戸戦は、「引き分けなら御の字」くらいの気持ちで臨むことも大切だろう。もちろん、スタートダッシュを決められればいいが、開幕直後は選手のコンディションにバラツキがあり、チーム戦術の浸透具合などでも差が生じやすい。無理に勝ち点3を狙って攻守のバランスを欠いた結果、勝ち点1さえも取り逃がす場合もあるので、状況を見極めながら戦うことも大事だ。
どれだけ大型補強をしたと言っても、昨季の浦和の順位はJリーグ13位。チャレンジャーであることを自覚し、相手をリスペクトしながら勝ち点奪取に挑んでもらいたい。それを真摯に積み重ねていけた時に、浦和にとって2度目のリーグ優勝が見えてくるのではないだろうか。
【メディア露出が少ないJリーグ】
ところで、Jリーグ各クラブはシーズン開幕に向けてトレーニングキャンプを張ったが、その取材をするなかで疑問に感じたのは、情報公開に制限を設けていたことだ。
トレーニングの見学は一般の人にも許可をしているのに、メディアには発信していい内容に制限をかけているところがある。理由を想像するに、他クラブに自チームの情報が伝わらないようにしたいのだろう。
Jリーグが取材に制限をかけるのは昔からあるが、コロナ禍以降は制限のハードルが高まっている印象だ。メディアが経費をかけてキャンプを取材するのは、少しでもJリーグという存在に注目が集まるようにといった思いがあるからだろう。そして、その発信を目にすることでJリーグのシーズン開幕が迫っているのを知る人もいるだろうし、話題だって普段のサッカーファンを越えて広がる可能性がある。
それにもかかわらず、メディア露出を制限する閉鎖的なスタンスでは、そもそも圧倒的な人気があるわけではないJリーグの魅力を新たな層に届けるのは難しい。何のために練習を公開しているのか。何のためにメディアが取材しているのか。そこをもう一度考えてほしいと思う。