
昨年12月、サガン鳥栖のGK朴一圭(35歳)が横浜F・マリノスに移籍することが発表された。2020年まで在籍していた古巣に4年ぶりのカムバック。2019年には横浜FMでJリーグ優勝GKになったが、AFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)では外国人枠との兼ね合いで登録メンバーを外れざるを得ず、鳥栖に新天地を求めたという経緯があった。
「戻る時は、絶対的な存在になって......」
朴はそう心に誓っていた。4シーズン、鳥栖では全試合に先発出場し、その地力はついた。
「ACLに外国人枠で外れたのはしょうがない、とも言われましたが......それさえもはねのけ、ポジションを勝ち取れる選手になれるように、と思ってやってきました。だから、今回のオファーは本当にうれしかったです。昨シーズンは失点数が多く責任を感じていますが、数字だけでなくGKの力を見てもらったんだなって。自分自身を信じてやってきてよかった、と思いました」
成長を遂げて戻ってきた朴は、横浜FMで何を見せてくれるのか?
「シンプルに、自分の力不足だったと思っています」
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2024年を、朴はそう振り返る。チームが低迷し、J2に降格した責任を自らに背負った。
「やっぱり、失点数が多かったのは間違いないです。問題はわかっていましたが、そこのマネジメントに全力を使うと、自分自身の精度が落ちてしまって......。ジレンマですが、やりきれなかったな、とは思います。たとえば、(西川)周作さん、ゴンちゃん(権田修一)、(川島)永嗣さんという日本代表GKだったら、立て直せたんじゃないかって。それが、自分が日本代表に選ばれない、個人賞が取れない理由なんじゃないか、とも思いました」
自負心が強いだけに、そう言って己を責めるが、4シーズン、J1リーグをレギュラーでプレーできた経験は限りなく大きい。かつては感情量の多さで、自分のコントロールを失うところがあったが、最近はそうした浮き沈みがなくなった。チームに錨を下ろすような落ち着きが出てきた、不動のGKだ。
【「お帰り」と言われて...】
「コンスタントに試合を重ねることで、動じなくなってきましたね。味方がミスしてもイライラせず、すぐ切り替えられるようになりました。自分自身も、もっとプレーを見せたい、という余計な気持ちがなくなって。無茶もしなくなったことで、冷静な判断ができるようになりましたね。おかげで、ケガも少なくなりました」
鳥栖で培ったすべてを、横浜FMで投入する準備はできている。リベロGKとして広い範囲をカバーし、攻守一体のプレーを展開する。本人が理想とする「絶対的守護神」のイメージにどこまで近づけるか。それは4年越しの決意で、彼にとっても未知の領域だ。
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「だからこそ、ワクワクしていますね! 自分がどれだけ成長できたのか、それも確かめたい。あと、悔しさを晴らしたいです」
朴は過去を睨むように言う。
2019年、優勝に王手をかけ、引き分けでもよかったFC東京戦だった。朴は先発し、2−0でリードしており、優勝GKとしてピッチに立つ栄誉が迫っていた。その時、味方のバックパスはミスと言えるほどではなかったが、球足がやや遅く、そこを相手の快速FW永井謙佑にかっさらわれる。たまらず、足を引っ掛けてしまった。FKが与えられたのと同時に、朴は決定機阻止で退場処分を受けた。
シャーレを掲げるセレモニーには加わることができた。チームも無事に勝った。しかし、釈然としないモヤモヤが残った。
「集中していたつもりでしたが、魔が差したというか。相手FWの速さを考えたら、自分から向かいに行く選択肢もあったなって。それは"隙"だったと思っています。このままいけば優勝で、大量失点さえしなければよくて......最後までやりきれていなかったですね。だから、鳥栖に来てからも『ホイッスルが鳴るまでやろう』というのはうるさく言ってきました」
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その"隙"を削り取るような作業を、彼は鳥栖で4年間、してきたのだ。
2019年優勝メンバーは、まだ少なからず残っていたという。喜田拓也、水沼宏太(ニューカッスル・ジェッツに移籍)のふたりにはすぐに連絡を入れた。
「お帰り」
そう言われて、自分が復帰するんだと実感した。
「離れてみて、エンブレムの重みを強く感じましたね。強いF・マリノスを作るのに出し惜しみはしません!」
そう意気込む朴の肝は据わっている。
「シゲさん(松永成立GKコーチ)の存在も、(移籍の)決め手のひとつでしたね。(松永コーチのGK練習は)やっぱり、空気が違います。ピリッとしているし、ワンプレーへのこだわりがすごい。たとえばキャッチングひとつでも、『そこでこぼすの?』って(言われる)。セカンドは必ず狙われるわけで、そういう厳しい姿勢が試合でしっかりと出ますよね」
彼はGKとして違うフェーズに入る。
「タイトルがほしい。Jリーグで優勝したいです!」
新たな挑戦のスタートだ。