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タイトル獲得を掲げる2025年のFC町田ゼルビアは、どんなプレーを見せるのか。補強に成功して2チーム分の戦力が揃ったと言われるなか、キャンプから密着取材したライターが、キーマンになる選手たちを挙げた。
前編「バージョンアップした今季のFC町田ゼルビアが意識するキーワード」>>
【町田のスタイルを支えるもの】
昨季終盤に4バックから3バックへシステム変更し、今季も継続。ただ、どんな形であれ、町田の基本的なコンセプトは変わらない。目指すのは黒田剛監督が築き上げてきた失点をゼロに抑え、少ないチャンスを決める"負けないサッカー"という町田スタイルの進化だ。
「キャンプを通じて強度やスピード、トランジションの意識づけも含めて、昨年よりもうひとつレベルの高いところに持っていきたい」
キャンプ初日に黒田監督はそう意気込んだ。全体的なトレーニングを通じて、とにかく寄せる強度、切り替えの速さ、連続性を強く要求され、常にアラートな状態でいることが求められた。
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そのなかでもっともよく聞かれたワードが「情報量」だ。これは攻守においてだが、「情報量が全然足りない」と黒田監督は何度も繰り返した。常に周りの状況を確認し、多くの情報をもとに正しい判断、選択をする。
育成年代でもやるような基本的なことではある。ただ、プロでできていないのであれば、それを徹底させるのが黒田監督だ。もちろん、求められるレベルは高い。こうしたことの積み重ねこそが、黒田サッカーを支えている。
【選手に伝わりやすい黒田節】
シュートブロックではどれだけ体を背けずに相手に対して大きく見せ、止まらず、飛ばず、寄せきるか。責任感をもってきちんとできるかどうかはスキルではなく「最後は性格だぞ」と、黒田監督らしい言い回しと、自身が何度も手本を見せて叩き込んだ。
また、ボールを失った瞬間に素早く戻るという、習慣づけの言葉も印象的だった。
相手のロングボールに対して戻るのが遅れ、ヘディングで3センチしか触れなければボールを後ろへそらせてしまい、5センチなら近くにこぼれる。でもしっかりと戻って10センチ当てられたら確実に跳ね返せる。"どれだけ戻れるか"のほんの少しの差で、大きな違いが生まれるという。
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選手に伝わりやすいフレーズは、まさに黒田節の真骨頂。クロス対応の練習でも町田のやり方を新加入選手に叩き込むと、岡村大八や前寛之は「これだけ細部にこだわった守備の指導は受けたことがない」と口を揃えた。
昨季苦しんだ時期に、黒田監督は「徹底してきたことが散漫になった」と嘆いた。ならばと、再び頭と体に、基本を刷り込む作業に余念がなかった。この徹底した守備の上にしか町田の進化はない。
【進化が求められる攻撃面】
今季、町田がより進化を求められるのは攻撃面だろう。選手たちが真っ先に挙げたのが"オ・セフン一辺倒"からの脱却である。
昨季のとくに前半戦、セフンの空中戦の勝率は圧倒的だった。しかし、後半戦になるにつれ、相手に対策を講じられると前半戦のような効果は発揮できなくなった。
今季は、相手がロングボールを警戒してラインが下がるならボールを繋いで運び、そこに相手が出てくるならDFの裏やオープンスペースの逆サイドへ大きく展開する。
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得意のロングボールと被カウンターリスクの小さい外回しのビルドアップというふたつの選択を相手に迫り、自分たちが主導権を握ってゲームを支配する。黒田監督の"町田のサッカーを前進させたい"という志向のひとつが、この攻撃の幅を広げることだ。
キャンプでもこれまでのような回数でセフンにロングボールを送る姿は見られず、その代わりに両ウイングバックを起点にした外回しでのビルドアップからサイドを攻略するチャレンジが多く見られた。
そのなかで中山雄太のクオリティは傑出していた。逆サイドへの展開、クサビのパス、周辺とのパスの出し入れ、パスを出したあとの動きまで中山は一段レベルが違う。相馬勇紀とも阿吽の呼吸があり、今季の攻撃の質を上げるキーマンのひとりは間違いなく中山である。
一方で岡村はこんな指摘をする。
「技術では前にいたクラブよりも劣っていると感じる部分もある。ただ、そこはこれから高めるところ。町田のサッカーに剥がせる技術がついたら、もっと強いチームになれる。その伸び代は非常に楽しみ」
ビルドアップはまだ発展途上だ。しかし、それを高い基準で指摘し、要求できる選手がいるのは大きなアドバンテージになるだろう。
【新戦力の融合は早い】
町田がアップデートするための重要な要素として、新戦力のスムーズな融合も欠かせない。
「町田のサッカー、または我々の日常に好感を持って、自分のスタイルとマッチしていると感じて選択してきた選手たちなので、何ら違和感なく、周りのチームメイトとも馴染みが早い」
黒田監督も新加入選手の順応の早さを評価している。違和感なく馴染んだひとりが西村拓真だ。もともと守備の評価は高いが、町田の生命線とも言える前線からのプレッシングの強度や連動は、すでに何年もプレーしているかのよう。
攻撃においても裏への動き出しの質が高く、ターゲットマンのセフンとの相性もいい。クロスに対しての入り方、打点の高さ、ヘディングのうまさも大きな武器である。獲得時に多くの人が感じた通り、町田のサッカーにぴたりとハマる選手だ。
ストッパーとして存在感を発揮するのが菊池流帆。3バックの中央で、持ち前の空中戦で攻撃を跳ね返すことに専念すると、水を得た魚のように生き生きとしている。
岡村の守備者としての能力は別格感がある。キャンプの練習試合では相手のレベルもあって6割程度でプレーしているように見えたが、それでも余裕を持って潰していた。声によって周りを動かすことも巧みで、周りを使ってうまく誘導しながら自分のところで仕留められる岡村の存在は大きい。
目立たないが、ボランチの相方や3バックの両脇が積極的に攻撃参加するなか、それをカバーし、機能させる前寛之のバランス感覚も利いている。
町田のサッカーという枠組みのなかで、各々が持ち味を発揮しながら求められることを理解し、速やかに順応してきている。
【質の高いターンオーバーができるか】
そして、黒田監督がキャンプからとりわけ強調し、何度も聞かれたワードが「ACL」である。
「今年はACLもあるなかで、2チーム分とか、誰が出ても同じサッカー、同じ強度でやれることが我々の目指すところ。ケガ人がひとり出たくらいでガタっと落ちるようでは話にならない」
補強に成功した今季は、まさに2チームを組める選手層を有している。キャンプ中はメンバーを固定せず、さまざまな組み合わせをシャッフルしながら各ポジションで激しい競争を促した。
「ひとつのプレー、ひとつのミスでポジションが変わってしまうこの激しい競争のなかでやれるのは、本当に幸せなことですね」
岡村がそう語るように、ゲーム形式のトレーニングでも選手の入れ替えやポジションチェンジは頻繁に行なわれる。また、連係のとれた特定のユニットもできつつあるように感じる。
そのなかで、誰がどのポジションで先発し、日程が過密になってきた時にどのようにメンバーを回していくのか。また、今季からベンチ入りがふたり増え、その枠をどう活用するのか。質の高いターンオーバーとベンチワークも今季の町田のポイントである。
複数のリーダーの発掘、セフン一辺倒からの脱却、新戦力の融合、そして充実した選手層を生かしたターンオーバー。昨季3位の結果に満足せず、確実にアップデートされている。
手が届きそうだったリーグタイトルを今季は獲得できるのか。2年目のJ1に挑戦する町田に注目だ。