MMD研究所が1月に発表した「シニアのスマートフォンの利用に関する調査」によれば、60〜79歳のモバイル端末所有率は95.9%に達し、そのうちスマートフォンをメインで利用している割合が93.5%を占めることが分かった。高齢層でもスマートフォンが“当たり前の通信手段”として根付いている様子がうかがえる。
●シニア層で際立つAndroid選好傾向
同調査では、シニア層におけるスマホOSの内訳は、Androidが64.8%、iPhoneが28.8%だった。これは同研究所が2024年9月に発表した「全年齢層(18〜69歳)でのOSシェア」と比べて大きな違いがある。18〜69歳ではiPhone 49.6%、Android 50.1%と拮抗していたのに対し、シニア層ではAndroidが約65%を占める。
シリーズ別では「AQUOS」が最も多く、「iPhone SE」「Xperia」「Galaxy」が上位に挙がった。従来よりも「国内メーカー重視」の傾向は薄まりつつあるようだ。
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●ソフトバンク/auよりもY!mobile/UQ mobileが人気
メイン利用の通信会社を尋ねたところ、「docomo(28.7%)」「Y!mobile(13.9%)」「UQ mobile(11.6%)」という順になった。MMD研究所が2024年9月に実施した全世代を対象にした調査では、3大キャリアのメインブランドが上位に入っていた。この調査ではサブブランドが上位に食い込んでいるのは注目に値する点だ。
MMD研究所の吉本浩司所長によると、「通信業界全体を見渡すと、メインブランドのシェアが低下する中、サブブランドは伸び続けている。Y!mobileやUQ mobileは店舗網が充実している上に、比較的安価な料金プランと高い認知度がシニア層のニーズに合致しているのではないか」という分析がある。今回の調査からは、実際にサブブランドの契約時に家電量販店を利用するケースが多いことも分かったという。
●データ容量は「月10GB以下」が約8割
データ利用量に関する設問では、「月10GB以下」を使っている人がシニア層の約8割を占めていた。高容量プランを必要としない人が多い一方、「家族でデータ容量を分け合う」契約形態を選ぶ例も目立つという。
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スマートフォンでよく利用する機能は、メッセージの送受信(73.2%)、インターネット検索(68.2%)、通話(66.1%)が上位に来ている。写真・動画撮影も64.2%と高く、ニュース閲覧(63.1%)、LINEアプリ内での通話(57.8%)、地図やナビゲーション(51.6%)も主要な機能として挙げられた。
吉本所長は、写真や動画の撮影機能について「シニア層はカメラの習得が早く、比較的スムーズに使いこなす人が多い。カメラに興味を持ちやすい傾向もある」という。また一方で、地図アプリなどの“たまにしか使わないアプリ”では操作を忘れがちになることがあり、画面の立体表示や回転に戸惑うケースが多いと指摘している。こうした「不定期にしか使わない機能」に対しては、別のサポート手段も必要になりそうだ。
●サポートは家族からのアドバイスや店頭での個別説明に頼る
調査では、契約や普段の利用で他者のサポートを受けたシニアが51.4%に上ることが分かった。そのうち契約時のみのサポートが59.3%を占める一方、40.7%は日常的な利用でもサポートを必要としている。
各キャリアが提供する「スマホ教室」や自治体のICT講習なども、シニア向けサポートの選択肢となっている。ただし、実際の利用は限定的で、多くは家族からの日常的なアドバイスや店頭での個別説明に頼っているのが実情だ。
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特に不安が強いのがセキュリティ面だ。ID・パスワード管理の難しさに加え、スマートフォンを介した詐欺被害への懸念も根強い。多くのシニアは家族や店舗スタッフに相談しながら、セキュリティ設定や不審なメッセージへの対処法を学んでいる。「周囲のサポートを上手に活用しながら使いこなす」というのが、シニアのスマホ利用における特徴的な姿勢といえる。
●60代前半の女性2人にインタビュー 端末やキャリアはどうやって選ぶ?
今回の調査結果発表に合わせて行われた勉強会では、60代前半の女性2人へのオンラインインタビューを実施した。
たぐちさんは、以前Y!mobileを使っていた時期があるが、今はソフトバンクに切り替えている。「2年で機種変更すると残りの端末代金が不要になる」というプランが魅力的だったそうで、今はiPhone 15を利用している。「息子の携帯が壊れたとき、一緒に店へ行ってカメラ機能などを聞いて決めました」と振り返る。
たぐちさんはInstagramやYouTube、クックパッドなどで料理動画を見ることが多く、最近は「TikTokもポイントがたまるからと、息子に紹介されて始めたらハマった」という。家族が教えてくれることが新しいアプリへの挑戦を後押ししているようだ。
ふかさくさんは長年ソフトバンクユーザーで、「今の支払い額に大きな不満がない」としてUQ mobileなどに乗り換える必要性を感じていない。「同時に機種変更した主人はProじゃないiPhoneにしたけれど、私はカメラがいいと聞いて13 Proにしました」と言うように、端末のカメラ性能へのこだわりが契約の大きな決め手だったらしい。
一方で、ふかさくさんは「あまりアプリを増やしすぎるとわけが分からなくなる」ため、スマホ決済アプリはPayPayだけに絞って続けているという。「LINE Payもあるけど、ポイントのこともあるし、こっち一本で混乱しないようにしている」と割り切った考え方をしており、必要以上にアプリを増やさず、自分のペースで使いこなすことを重視しているようだ。
2人とも家電量販店のスタッフの説明を重視し、契約の際には「店員さんが勧めるプランなら安心」という発想が見られる。決済アプリは利用しているものの、それ自体がキャリア選択に直結しているわけではない。むしろ「プラン内容を分かりやすく案内してもらう」「家族の都合やタイミングに合わせる」などがキャリア決定の主軸になっている様子がうかがえる。
●家族とのコミュニケーションがシニアのスマホ利用を後押し
MMD研究所の吉本所長は、この2人のようなインタビュー協力者が必ずしもシニア全体の平均像を示しているわけではないとしつつも、「60代になるとPCを使っていた世代でもあり、スマホを積極的に活用し始めるとSNSや動画アプリ、ポイントサービスなどに意外と柔軟に手を伸ばす人もいる」と分析する。総務省の調査では60代以上のInstagram利用率がわずか0.5%とされていた時期もあったが、インタビュー協力者の発言を踏まえると、シニア層でも口コミでInstagramのようなSNSが広まっている傾向がみてとれる。
2人が挙げていたように、家族とのコミュニケーションはシニア層のスマホ利用を大きく後押ししている。新しいアプリの導入や使い方の説明、さらには不定期に発生するトラブルへの対処など、家族の支援があると導入ハードルが一気に下がるというわけだ。店頭スタッフのアドバイスや対面サポートも同様に、キャリアや端末を選ぶ際に重要な役割を果たしている。最終的には「自身の好奇心」と「周囲の後押し」の相乗効果で使える機能が増えていき、結果的に「カメラ機能重視でiPhoneを選ぶ」といった行動に結び付くケースもある。
こうした動きは、サブブランドへの移行傾向ともリンクしている。調査結果でも、Y!mobileやUQ mobileの契約率が高い背景には、「低容量プランで十分なユーザー」「ショップ網があって説明を受けやすいこと」「月々の料金に納得すれば乗り換えに抵抗が少ないシニアの行動特性」などが作用しているようだ。
高齢化が進む中でシニア世代にもスマホ利用は当たり前のものとなりつつある。MMD研究所では追加調査や年齢階層をさらに拡張した追跡調査を検討しているという。
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