FMVがモバイルノートPC市場でシェアNo.1となる――FCCL大隈社長が目指す新たな頂

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2025年02月13日 12:11  ITmedia PC USER

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お話を伺った富士通クライアントコンピューティング 代表取締役社長の大隈健史氏

ポストコロナ時代に入ったが、世界情勢の不安定化や続く円安など業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。前編の記事はこちら。


【その他の画像】


 FMVのブランドリニューアルにおいて、象徴的存在と位置付けているのがモバイルノートPC「FMV Note C」だ。20歳代を中心とした若手社員によって構成された「FMV From Zero Project」によって開発されたFMV Note Cは、これまでとは全く違うアプローチでモノ作りが進められ、新たなコンセプトのPCが誕生した。


 どのようなプロセスを通じてFMV Note Cが誕生したのか。そしてFMV Note Cは、日本のモバイルノートPC市場にどんなインパクトを与えることになるのか。富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の大隈健史社長へのインタビューの後編では、FMV Note Cの誕生秘話とその狙いについて聞いた。


●「世界観の守り神」となる若手のブランドマネージャーを新設


―― FMVのブランドリニューアルを象徴的する製品と位置付けているのがFMV Note Cです。これはどんな狙いから製品化したのですか。


大隈 この製品は、若年層の価値観にフォーカスし、デザインやアプリケーション、ユーザーエクスペリエンスを見直した新しいFMVの象徴となります。


 私がFCCLの社長に就任する以前は、9年ほど海外で仕事をしていました。そして、日本に帰ってきて街中で使われているノートPCを見て、FMVのコンセプトとは全く違ったコンセプトのPCが数多く使われていることを、とても残念に思いました。しかも、そのPCをかなり満足して使っている様子が見えてしまったのです。


 なぜ、FMVはここに入れないのか、というのが最初の課題認識でした。分析してみると、製品とユーザー体験という2つの課題があることが分かりました。しかし、この課題を解決するにはどうしたらいいのか。解答はすぐには導き出せませんでした。


 そこで先に触れたように、大学生にFMVの駄目出しをしてもらうなど、いくつかの行動を開始しました。会議室で40代〜50代の社員が議論をしていても、解決策なんて出てきませんし(笑)、若年層向け製品であれば、若年層が考えて行動を起こした方が適しています。


 私は、若い感性でモノ作りをリードすべきと考え、2022年にFMV From Zero Projectを発足し、企画/開発をスタートしました。各部門から11人の20代社員を集めて、かなり長い期間に渡って議論をしてもらい、製品コンセプトの原型といえるものを固めてもらいました。


 2年ぐらいかかってしまったのですが、議論を重ねる課程で、その姿がしっかりと固まりました。そこで、メンバーの中から、3人の若手社員をブランドマネージャーに任命し、プロジェクトを加速することにしました。


―― ブランドマネージャーという役職は、FCCLの中でこれまで聞いたことがありません。


大隈 新たに作った役職です。これまでにもプロダクトマネージャーという役職はありましたが、エンジニアが就き、開発プロセスを中心にモノ作りを進めるのが仕事でした。


 これに対して今回のブランドマネージャーは、モノ作りのコーディネートだけでなくWebサイトのデザインリニューアルや店頭での販売方法の提案、品質保証、大学とのコラボレーションといったところまでをカバーする役割を担っています。


 FMV Note Cが実現する世界観を、製品だけでなく周辺環境までを含めてコーディネートする役割を担っています。いわば、「世界観の守り神」といえる存在です。


 概念としては、ブランドマネージャーの下に、プロダクトマネージャーが付くという形になりますが、ブランドマネージャーは20代の社員です。真剣な議論になると、ベテラン開発者や百戦錬磨の販売担当者の声に押し切られてしまうといったことが起こらないとも限りません。


 もちろん、ターゲット層に近いからといって、ブランドマネージャーの意見が全て正しいとも限りません。ただ、社内力学によって、正しいことが埋もれないようにすることは大切です。それを防ぐために、FMV From Zero Projectを社長直下プロジェクトとしました。私自身も、現場の人たちとずいぶん戦いましたし、かなり嫌われたと思いますよ(笑)。


―― プロジェクトチームでの議論では、どんなやり取りがあったのですか。


大隈 例えば、ブランドマネージャーからマニュアルを無くしたいという意見がでました。スマートフォンの扱いに慣れている若い人たちはマニュアルは読まないし、捨ててしまう人もいる。それに対して、FMVでは多くの労力と多くの紙を使って、しっかりとしたマニュアルを作っているのです。


 これは、これまでのさまざまな経験の積み重ねがあって、マニュアルは必要であり、クレームを減らすことにもつながり、安心感を与えるといったいろいろな理由から付属していたわけです。当然、議論をすれば蓄積された経験を元に、これまでのやり方を踏襲することになります。


 しかし、今回の製品では、これまでとは違ってシンプルで、時代の価値観に合わせたものを作っていくわけです。私も参加して、かんかんがくがくの議論を行った結果、FMV Note Cでは紙のマニュアルを無くしました。


●一過性のものではなく継続的にキャンパスライフを応援したい


―― こういった議論において結論を出す際に、立ち返る考え方のようなものはあったのですか。


大隈 FMV Note Cで当初から打ち出していたのが、「Noiseless Design」「ComfortableSilence」「Original Apps」へのこだわりです。


 例を挙げると、Noiseless Designというのは、製品のデザインだけでなく体験も含まれます。分厚いマニュアルが残ってしまっては、ノイズレスにはなりません。全ての議論において、ここに立ち返るんだということを言語化し、それを共通認識としてプロジェクトを進めていきました。最初に、ここに時間をかけて立ち返るものを作れたことが良かった思います。


―― FMV Note Cの開発で採用した若手中心のモノ作りへのアプローチは、何か参考にしたものはあるのですか。


大隈 私は、コンサルティング時代に製品企画や製品開発の現場でアプローチ方法を提案し、一緒にプロジェクトを進めた経験があります。動きが速いコンシューマー製品の場合には、製品やブランドが目指すべき方向性や姿を、強い権限と経験を持って引っ張っていくリーダーが必要であることを体験的に知っていました。


 今回のFMV Note Cは、これと同じアプローチを取った方がいいと判断しました。違うのは経験を持った人がリードするのではなく、ブランドマネージャーに若手を抜擢し、足りないところや意思決定は私がカバーする形にした点です。


 世界最軽量の「FMV Note U(旧LIFEBOOK UH)」であれば、経験がある人をブランドマネージャーに据えるのがいいのですが、FMV Note Cだからこそ、若手の感性を生かし、それをベテランエンジニアが実現し、若手の力では足りないところを私がカバーする体制がいいと思いました。


―― 経営トップの立場から、気を付けていたことはありますか。


大隈 この製品がビジネスとして成り立つように、ちゃんと仕上げることを一番に考えていました。ブランドマネージャーには、自由に無邪気に、やりたいことを突き詰めてもらい、どうしたら利益を確保できるかという点については私が責任を持ちました。


 事業としての収益性と、ブランドマネージャーが目指すコンセプトを両立させるための最適なポイントを実現すべく、価格や仕様のバランスについては毎日のように議論し、判断していきました。


 実は、パソコン少年だった私の立場で本音を言うと、ついつい口を出したくなってしまうんですよ(笑)。色一つを取っても、これがいいと私が言ってしまうと、それに決まってしまいますし、細かいところまで口をはさむと、自然と忖度(そんたく)する動きが出てきてしまいます。言いたいけれど、言ってはいけないという点で、モヤモヤしたり、モゾモゾしたり。そこは、苦しかったですね(笑)。


―― FMV Note Cの仕上がりは、合格点ですか。


大隈 FMV Note Cは、全く新しいことに全く新しい体制で挑戦したものです。思いっ切り振り切った開発方法を取り、新たなことを始めたため、想定外のことが起きて紆余曲折はありましたが、自信を持って、お客さまに届けられる製品に仕上がったといえます。


 現時点で見れば、100点満点中100点の製品になったと思っています。将来に向けて、120点、150点と加点できるように進化させたいですね。よくなる余地はまだまだありますし、そこは、お客さまからのフィードバックを得て、進化させていきます。


―― 若年層に向けての訴求はどんなことを考えていますか。


大隈 FMV Note Cの発売に合わせて、全9話のTikTokミュージックドラマ「うぇいだけが青春ですか?」を制作し、主演には、俳優の八木莉可子さんを起用しました。店頭展示もシンプルに伝えられるようにこだわりました。


 プロモーション企画をお願いしている代理店も、20代の若い人たちが参加しており、FMV From Zero Projectのチームと同じ言語で会話をし、同じ感性で考えてもらっています。


―― 新たに「GOOD CAMPUS LIFE Project」をスタートしました。これはどんな狙いから始めたものですか。


大隈 大学生がパソコンを購入するのは3月〜4月に集中し、その後は関係が切れてしまいがちになります。もっと継続的に、学生の暮らしやキャンパスライフを応援したいと考え、その取り組みとして、GOOD CAMPUS LIFE Projectを開始しました。


 継続的なエンゲーシメントを通じて醸成されたFMVのイメージが大学生の間に広がり、親しみやすいブランドとして浸透を図ることを狙いとしています。


―― 第一弾として、早稲田大学繊維研究会と連携して、「CUSHION JUMPER」を発表しています。背中と腕にクッションが入り、収納式フードはネックピローになり、長時間のパソコン作業をサポートするというユニークなものですが、これは販売することが目的ですか。


大隈 CUSHION JUMPERは販売することが目的ではなく、FCCLで販売することはありません。GOOD CAMPUS LIFE Projectの狙いは、大学生たちの活動をサポートすることで、キャンパスライフを元気にすることです。


 また、こういった活動を通じて、その感性をFMVの商品開発や活動に生かしたいとも思っています。見えるアウトプットを求めたり、直接ビジネスにつなげたりするというのではなく、キャンパスライフを豊かにすることを支援したり、FCCLの企業文化のアップデートにつながったりすればいいと思っています。


 CUSHION JUMPERのような大きな企画は、年に2回ぐらいやりたいですね。ここでは、数値的な成果は求めておらず、学生たちの活動を支援し、少しでもハッピーになってもらえるように支援したいと思っています。


●2つのFMVでモバイルノートPC市場のシェアNo.1を目指す


―― いよいよローンチしたFMV Note Cですが、どんなゴールを目指しますか。


大隈 若年層の市場において、一足飛びにトップシェアになれるとは思っていません。まずは大学生が、パソコンを選ぶ際の最終検討候補の1つになることを目指します。


 これまでは、検討されるところにさえ入っていませんでしたからね。「大学生が選ぶWindows PCといったらFMVだよね」といってもらえるような状況になるといいですね。


 また、これまでは「FMVって格好いいよね」と言ってくれる人はほとんどいませんでした。FMV Note Cは「格好いいね」とか、「スタイリッシュだね」と言ってもらえるPCになると思っています。


 家電量販店の経営トップに見てもらうと、「変わったねぇ」「いいねぇ」という声をいただいています。若者世代から、そうした評価が増えていくことを期待しています。目標は高いのですが、実現に向けて階段を一歩ずつあわてずに登っていきます。


 これまではモバイルノートPC市場に対しては、軽量モデルのFMV Note Uだけのラインアップでしたが、今回発売したFMV Note Cで2本柱が完成します。これにより、日本のモバイルノートPC市場全体をカバーできるようになると考えています。


 つまり、この2つのモデルが、モバイルノートPCの双璧といえる存在になると思っています。FMV Note Cは、それだけ重要な製品です。双璧の1つを担うようになれば、FMV Note Cで目指した1つのゴールに到達したといえるのではないでしょうか。


 そして、その結果として、FMVがモバイルノートPCでナンバーワンを取るという姿を目指します。これも野心的な目標です。


―― 2025年は、FMVにとってどんな1年になりますか。


大隈 FMV Note Cによって、新たな顧客層に対するアプローチを開始しました。これを皮切りに、市場を広げていくことでFMVのブランド価値を高め、成長していくことになります。新たなステージにFMVを持っていくことで、ビジネスを拡大していきたいですね。


 また、新たなChromebookも直販サイトの富士通 WEB MARTを通じて販売を2025年に1月から開始しました。これも、より多くのお客さまに製品を届け、市場拡大や顧客層の拡大につなげていく取り組みの1つになります。


 新たなことに挑戦をしていく1年になりますから、楽しみにしていてください。



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