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野球のグラブといえば牛革製や合皮製が一般的だが、猪(イノシシ)革製のグラブが昨年(24年)11月に発売され、いま注目を集めている。ブランド名は「MAGAMI(まがみ)」。開発したのはドイツでプレーした元プロ野球選手の片山和総(かずさ)さん(31)だ。「野球グラブを手始めに、優れた天然素材である猪革製品の魅力を広めていきたい」と意気込んでいる。猪革グラブの魅力とは?
「手にとったとき、みなさん最初に言われるのは、『軽くて手になじむ』ということ。軽さやフィット感はプレーに関わる大事な要素だと思います」。片山さんによると、猪革グラブには5つの特徴があるという。グリップ力、フィット感、蒸れにくい、耐久性、軽量の5つだ。
「『皮』から『革』へなめす過程は『ベジタブルタンニンなめし』という植物由来の成分を使った技法を用いています。牛革のように滑らかではありませんが、その分摩擦が起きやすく、ボールをつかむグリップ力が高いです。毛穴が多いので通気性にも優れており、グラブの中が蒸れません。指がツルッとすべらず、使いこむほど飴色になって耐久性も上がります。重さは牛革製の約3分の2で軽量化にも成功しました」
片山さんは福岡県出身。東福岡高、帝京大を経て、2016年に渡独。翌17年からドイツのドップリーグ・ブンデスリーガ1部で6シーズンプレーし、通算打率.325を記録。19年からは選手兼任監督として4シーズン指揮をとり、チームの4期連続1部残留に貢献した。
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ほとんど活用されない「猪革」に目をつけた
猪革の存在を知ったのはコロナ禍で渡独できなかった21年のことだったという。「猪革は一部の方が手袋や財布などを作るために使っているだけで、ほとんど活用されていないということをSNSで知ったのがきっかけでした。そこで猪革の特徴をよく調べていくうちに、これは野球のグラブにぴったりの素材なんじゃないかと感じ、気になってつくってみました」
22年に引退後、片山さんは選手時代から野球用具などの支援を受けてきた、移動通信設備の設計業務やスポーツ支援事業を行っている「ツカゼン株式会社」(本社・福岡市)と業務委託契約を結び、本格的に猪革グラブの開発に着手した。自分で皮を仕入れ、グラブ業者に試作品を作ってもらった。職人からは「うまくできるかわからない」と言われつつも、第一号のグラブが完成した。
「最初はよいものができたんですが、それから開発までに3年を要しました。というのも、職人さんにとってグラブ用に猪の皮をなめすのは初めての体験で、うまくいくときもあればいかないときもあり、商品の品質が一定でなかったんです。たとえば最後に革を裏返す工程があるのですが、固くて裏返せなかったり、逆に裂けてしまったり…。薬剤の配合など素材の皮のなめし方を工夫し、品質の安定をはかるため何度も失敗、改善を繰り返しました」
その結果、猪革製グラブの商品化を成し遂げた。ブランド名はニホンオオカミの古名にちなみ「MAGAMI(まがみ)」と命名。受注販売で職人が1つずつ丁寧に手作りしているため、手に届くまでは3ヶ月程度かかるそうだが、24年11月の発売開始以来、現役選手からの注文が入っているという。
販売元のツカゼン(株)・代表取締役・塚本勉さん(58)は、「新しいことにチャレンジしている人を応援したい。どんなことも挑戦し行動を起こしてみなければ結果はわかりませんから。唯一無二のグラブで猪革に新たな価値を創造したいですね」と話し、片山さんが開発や営業に奮闘する姿をあたたかく見守る。
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今後は野球グラブだけでなく、他のスポーツのグラブ、ライダーズジャケット、手袋、財布などの猪革製品も商品開発していく予定だ。片山さんは「原材料も業者や職人さんもみんな『メイドインジャパン』です。欧州など海外では猪革の手袋などは高級品として認知されています。野球グラブを手始めに猪革の素材に適した商品を提供し、優れた天然素材である猪革の良さや魅力を広めていきたいです」と意気込んでいる。
(まいどなニュース特約・西松 宏)