
その結果、完成したのは、筆者のような、どうしても思った箇所にきれいにマーキングできなかった不器用者が、楽に、真っすぐ、しかもきれいに長方形にマーキングできるペンです。
「パイロットには、フリクションライトとスポットライターという2つのマーカーペンのラインアップがあります。フリクションライトは売れ行きも好調なのですが、主に社会人の方に使われているので、マーカーペンのメインユーザーである学生層に使ってもらえるペンを作りたいという思いが最初にありました。
そこで、学生を対象にアンケートを取ったのです」と、「キレーナ」の開発を担当した株式会社パイロットコーポレーション、グローバル企画部の泉百花さん。
アンケートの結果、10代のユーザーが持つマーカーペンの不満点として挙げられたのは以下の点だったそう。
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・手や服にインクが付きやすい、汚れやすい
・書いた文字の上から塗るとペン先が汚れる
・文字の上にマーキングすると文字がにじむ
・真っすぐなラインが引きにくい
「アンケートの結果から、真っすぐ引きやすく、速乾で汚れにくい、そのような蛍光ペンを目指そうというのが始まりでした。そこで、速乾性の高い新しいインクを作ることと、きれいに線が引ける機能の二軸で開発を始めました」と泉さん。
柔らかいチップとガイド機能を持つ独特なペン先の構造

機能の部分では、まずペン先のチップ素材を見直してナイロン素材を採用。この素材にしたことで、筆記時の余分なインクを吸い取ってくれるようになり、速乾性のインクと合わさって、手などにインクが付きにくいペンになりました。
「ナイロン素材のチップにしたことで、インクが過剰に出ないし、書き終わりのインク溜まりが減って、結果、速乾性に有利になりました。実は、最初は真っすぐ引きやすい、柔らかくしなる素材を探していて、それがたまたま余分なインクを吸う機能も持っていたんです」(泉さん)

このペンの大きな特徴の一つとして、ペン先にガイドが付いているという点が挙げられます。そのガイドと、しなるチップの合わせ技によって、真っすぐ線が引きやすくなっているのが、「キレーナ」の一番分かりやすい機能でしょう。
「昔、“面白文具”的な商品で、タイヤとガイドが付いた直線が引けるペンのようなものがあったらしいのですが、キレーナのように実用的なペンで、ペン先にガイドが付いているのは珍しいかもしれません。
普通に文字を書くなら、ガイドは邪魔ですから、このような直線を引く専用のペンでないと、こういうアイデアにはならないでしょうね」(泉さん)
真っすぐ引くためだけでないペン先に付けられたガイドの機能

実際、このガイドの存在は大きく、不器用な筆者でも、思ったところに真っすぐ線が引けて、思ったところでピタッと止められます。すごいのは、本の途中ページのような、湾曲している面に対しても、真っすぐ引けること。これは、ガイドとしなるチップの両方がうまく機能しているから可能になっているのでしょう。
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この思い切りのよさというか、潔い割り切りが、このペンの使いやすさにつながっています。
「ガイドについても、いろいろ試行錯誤しました。最初はガイドも不透明のパーツを使っていたのですが、それでは線を引く部分が見にくいので、“透明”パーツにしました。筆圧がかかる部分でもあるので、パーツの“強度”も考えましたね。
ペン先のチップがどのくらいガイドから出ているといいのかとか、チップ自体の強度など、そのあたりのバランスは設計部隊に頑張ってもらって仕上げました」(泉さん)
ガイドがあることで、ペン先が必要以上に紙に押し付けられることもなく、その分、インクが出過ぎないからにじみにくく、乾きやすくなるというメリットもあります。
ペン先の素材やガイドの角度、大きさが、線の引きやすさだけでなく、インクの速乾性や汚れにくさ、にじみにくさにも貢献しているわけです。この相乗効果が、このペンの面白いところだと感じます。
速乾性の顔料インクと独自のペン先の組み合わせが、いくつもの課題をクリアする

新しいインクは、速乾性が高く、顔料インクなので裏抜けが少ないのが特徴。コピー用紙なら約1秒、ツルツルのコート紙でも約5秒で乾くそうです(パイロット調べ)。
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インクが出過ぎないということは、下の文字がにじみにくいということでもあるし、その結果、チップも汚れにくいということになります。
パイロットが「キレーナ」の特徴として挙げているのは以下の5つ。
・筆跡にじみ抑制
・チップ汚れ抑制
・真っすぐ線が引きやすい
・安定した筆記幅
・インク溜まり抑制
泉さんのお話を聞くと、これらが実現しているのは、複数の機能がうまくかみ合った結果だということが分かります。
しかも、価格は税込で132円。買いやすい価格に抑えられているのも、白を基調にしたシンプルなデザインなのも、学生さんの勉強のためのペンというハッキリしたコンセプトがあるからこそなのでしょう。
ベーシックカラー5色のほかに、淡いペールトーンカラーが用意されているのが、今っぽいですね。しかし、大人の学習用として使うには、このペールトーンが目に優しくてありがたいと思いました。

「開発中に一度、さまざまな問題が生じてプロジェクトが中断したんです。その後仕切り直して計6年かかっていますから、学生さんたちからの反応がいいのは、とてもうれしいですね。正解はない中で、試行錯誤しながら製品化していくので、まだ、ここがゴールというわけではないんですよ」と泉さん。
使ってみると、真っすぐに引けて、にじみにくい蛍光ペンというのが、こんなに使いやすいのかと、本当に驚いてしまいました。興味のある人は、まず実際に使ってみてほしいと思います。
あと、これは余談ですが、5色セットの初回限定品に付属していた「柔らかい定規」が、とてもいい出来でした。もう流通在庫のみで入手が難しいので詳細は省きますが、その柔らかさやデザインなど、使いやすい優れものでした。覚書として、書いておきます。
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。(文:納富 廉邦(ライター))