※画像はイメージ 書店には老若男女、さまざまなお客様が来店する。
店頭でお問い合わせを受けることも多く、お客様が探している本を一緒に探すのも書店員の仕事。そんなお問い合せの際、コミュニケーションのミスや店員側の思い違いで、お客様が思っていた本と違う本をご案内してしまうことも稀にあるようだが、そもそも話が通じない迷惑老人客が現れることもあるという。
関西で書店員をしている前原さん(仮名・36歳男性)は、以前レジ接客をしていた際に起きたことを話してくれた。
◆ヌード写真集を購入した80代の迷惑老人
それは店舗責任者が不在だったある日のこと。前原さんがレジで会計をしていた際、80代くらいのおじいさんが写真集を一冊持ってきた。まさかのヌード写真集である。
「写真集など高額本や万引きが多い品には、薄い短冊状の防犯タグを入れているんです。本のあいだに挟み込み、入荷時にあらかじめ本そのものがビニールパックされている場合には、その上からさらに“シュリンク”と呼ばれるビニールをかけ、防犯タグを裏面にくるように投入して熱処理、密着させます。このおじいさんが持ってきたヌード写真集にも、防犯タグが入っていました。タグを入れたまま出入口ゲートを通ると警報が鳴ってしまうので、防犯タグを取り外すために、私は写真集が曲がったり傷つかないよう丁寧にシュリンクを外し、レジ越しにお客様に手渡したのですが……」
ヌード写真集をレジに持ってきた80代のお客さんに対し、その珍しさもあって、いつも以上に丁寧に接客した前原さん。すると、そのお客さんが思わぬ一言を発した。
「受け取ったヌード写真集の表紙をまじまじと見ていまして……。私は『早く中が見たくてソワソワしているのかな? それなら急いで会計処理をしなくては』と思ったので急いで釣銭を準備していると、そのおじいさんが『お前、とったやろ!』って言ったんです。予想外の一言に、私は思わず『え?』と言ってしまいました。そもそも、 取る・撮る・獲る……どの“とる”なのか、まったくわかりません」
◆「こんな表紙じゃなかった」と話す迷惑老人
もちろん、前原さんは普段と変わった動作は一つもしていない。あまりに意味不明なクレームに困惑しながらも、改めて冷静に話を聞いてみたのだが……。
「再びおじさんが『だからお前、とったやろって』と続けたので、『お客様、何を、でしょうか?』と聞くと、一言『表紙』と言いました。表紙をとったと言われても当然心当たりはないですし、言ってる意味もさっぱりわかりません。しかし、店舗責任者は不在で、逃げるわけにもいかない状況なので、もう一度聞いてみると『こんな表紙じゃなかった。お前、とったやろ。この上のとこ。こんな顔のない表紙なんて、ありえへんやろ』と言いました」
◆他の商品を持ってきて説明するも…
前原さんは、ここでようやく理解した。そのヌード写真集の表紙には、裸の女性のへそあたりまでが写っているのだが、構図が少々独特で、最上部が顔の鼻下から始まっている。
その鼻より上を、スタッフの前原さんがシュリンクを剥く際に一緒に剥ぎ取ったと主張していたのだ。つまり、「取って、盗った」ということだ。もう、マジシャンの域である。
「私はそのおじいさんに納得してもらうため、破いてエプロンのポケットに入れていたシュリンクを全部出して見せました。それでも納得しなかったので店頭に残っていた同じ商品を持ってきて、はじめからこういうデザインなのだということを説明しましたが、まったく理解してもらえません」
◆何度説明しても納得してもらえず…
その後も同じことを説明しても、結局納得してもらえることはなく、おじいさんは去っていったようだ。
「必死で説明しましたが、結局途中で疲れたのか、商品を持って何やらぶつぶつ言いながらレジから離れていきました。いろんな意味で元気なおじいさんだなとは思いましたが、訳のわからないクレームをつけてきて時間を取られてしまうのは本当に勘弁してほしいです」
店員とは、お客様がたとえ言葉足らずであっても、想像力を働かせてその要望を汲み取り、ときには先回りして応えるものである。とはいえ「お客さんの意図するところが、想像の斜め上どころの話じゃなかったのは、このときだけだったかもしれませんね」と前原さんは話した。
取材・文/川瀬章太
【川瀬章太】
フリーライター。神戸・大阪の編プロに8年勤務し、グルメ・街ネタ誌や飲食業界誌などを手がける。取材経験は1500件以上。某純文学新人賞の最終選考に3度残ったことがある。現在はWEBサイト「LIQLOG」などで、ビギナーにやさしいお酒の基礎知識や取材記事を執筆中