ヴィッセル神戸の新キャプテン・山川哲史の覚悟 「ご飯が喉を通らなかった」連覇達成の舞台裏を語る

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2025年02月17日 07:10  webスポルティーバ

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ヴィッセル神戸
山川哲史インタビュー(前編)

 昨シーズン、J1リーグ最終節で優勝を決めてJ1連覇を成し遂げたヴィッセル神戸。2025シーズンは"J1三連覇"と悲願のAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)優勝を最大の目標に掲げ、スタートをきった。

 そのチームを率いるキャプテンを任されたのが、山川哲史だ。中学生の時からヴィッセルのアカデミーで育ち、筑波大学を経由して2020年にヴィッセルでプロキャリアをスタートした"生え抜き"のセンターバックは、今年でプロ6年目を迎えている。

 3年目までは右サイドバックで起用されるなどしながら試合経験を積み重ね、ここ2年は本職のセンターバックに定着。いずれのシーズンもリーグ3位の失点数に抑えて、堅守の中軸を担ってきた。

「一昨年は残り8試合の時点で首位に立ちましたけど、昨年は残り4試合まで(上位を)追いかける時間が続いたので。1試合も落とせない状況のなか、僕自身はより"連覇"に対するプレッシャーを感じながら終盤戦を戦っていた気がします。そういう意味では、一昨年とは優勝の喜びも、難しさもぜんぜん違いました」

 昨シーズンのリーグ戦出場数は、出場停止の1試合を除く、キャリアハイの37試合。マテウス・トゥーレル、菊池流帆(→FC町田ゼルビア)、岩波拓也ら百戦錬磨のセンターバック陣と激しいポジション争いを繰り広げながら、フィールドプレーヤーで最も長い時間、ピッチに立った。

「一年を通して試合に出続けられたのはプロになって初めてだったので、すごく自信にはなりました。連戦も多かったなかで、体のケアもうまくできた。多少不安がある時もメディカルスタッフをはじめ、家族にサポートしてもらいながら戦えたことに感謝しています。

 昨年子どもが生まれたなかでも、妻には常にサッカーに集中できる環境を作ってもらったし、ACLEなどで遠征に行った時などは長い期間、ひとりで子どもを見てもらっていた。家族にはいつも助けてもらっている分、僕はサッカーでしっかり結果を残さないといけないと思っていました」

 出場した試合では、対人や空中戦の強さといった本来の持ち味に加え、副キャプテンを任された責任感も力にして、これまで以上に"声"が響いていたという印象もある。昨年のキャプテン、山口蛍(→V・ファーレン長崎)がケガで離脱していた時はキャプテンマークを預かることも多かった。

「昨年は、チームへの働きかけ、声がけをしながら勝利に貢献しようと、自分に(ノルマを)課してスタートしたシーズンでした。それは一昨年、継続的に試合に出してもらったのもあったし、僕もプロ5年目で、年上の選手たちに引っ張ってもらうだけではダメだという思いもありました。

 それもあって、チームに対しての声がけは増えましたけど、シーズンが終わってみれば、やっぱりベテラン選手の気迫、周りの士気を高める力、チームの炎をもっと大きくするような圧力に、引っ張ってもらうことが多かったな、と。そういう意味では、自分の力不足も感じたし、『彼らについていくばかりではなくて、中堅の僕たちも前に立ってチームを引っ張っていけるようになっていかなきゃいけない』と、リマインドしたところもありました」

 優勝をかけた最終節、湘南ベルマーレ戦でのパフォーマンスも印象的だった。この日もキャプテンマークを巻いてピッチに立った山川は、対人プレーを含めて終始鬼気迫るプレーでチームを鼓舞。本人曰く「この試合に限っては、納得のいくパフォーマンスができた」と振り返り、今シーズンを戦ううえでの「基準にしたい」とも言葉を続けた。

「試合までの1週間は、自分でもビビるくらい、めちゃめちゃ緊張していたんですけどね(笑)。一年を通して積み上げてきたものが、1試合で消え去ってしまうかもしれないとか、このクラブが背負う重みみたいなものを感じすぎてしまって......。勝手にいろんなことが頭に浮かんできて、ご飯がまったく喉を通らなかった。

 結果的に、試合当日は『これまでやってきたことを信じるだけや』って、吹っ切れたんですけど。もともとメンタルは、決して強くはないほうですが......まぁ、弱かったです(笑)。ただパフォーマンスとしては、相手FWにまったく仕事をさせなかったことからも、僕自身も満足のいく内容だったし、チームとしても90分間、全員の勝ちたい気持ちがピッチに漲っていて......それまでのどの試合とも違う気合いを感じ取っていました。

 あの試合で示した姿を、今シーズンの最低基準にしたいというか。試合が始まった瞬間から終了の笛が鳴るまで、全員で(力を)出しきって戦い抜く姿を、ヴィッセルの基準にしていきたい。そのために僕は、後ろからチームにパワーを与えられる存在になっていきたいと思っています」

 今シーズン、左腕に巻くキャプテンマークに誓うのは、年齢が上の選手と若い選手とをつなぐクッション材になること。知ってのとおり、ヴィッセルには大迫勇也、武藤嘉紀、酒井高徳、扇原貴宏ら、経験豊富な選手が顔を揃える。彼らの勝ちへの執着、"闘う"姿勢はもちろん、時に厳しい言葉で仲間を叱咤する姿が、近年のヴィッセルの強さを支えてきたのも紛れもない事実だ。

 だが、彼らに任せるだけではダメだと山川は言う。

「上の選手も若い選手も、それぞれの考えをぶつけ、お互いが高い要求をし合えてこそ、チームは強くなれる。もちろん、このチームは上の選手が放つ気迫や士気を高めてくれる力に引っ張られているところがまだまだ多いですけど、上の選手がかけてくれる厳しい言葉が若い選手の萎縮につながったり、プレーを小さくすることになってはもったいない。

 だからこそ、僕が間に入って、上の選手の言葉の裏にある真意を若い選手に伝えたり、逆に若い選手の考えを上の選手に伝えるなど、チーム全体を融合させるような役割を担っていきたいと考えています」

 それは、この先に待ち受ける厳しい連戦を逞しく乗り越えていくためでもある。

 2月8日に戦ったFUJIFILM SUPER CUPで幕を開けたヴィッセルの今シーズンだが、その3日後にはACLE第7節の上海海港戦を戦うなど、3月1日のJ1第4節のアビスパ福岡戦まで、この2月はいきなりの7連戦が予定されている。そうした状況下、すべての大会で"タイトル"を目指すには昨年同様、チームを挙げての総力戦が必至だ。

「昨年も後半戦は、特にACLEも始まって、移動も含めてかなり厳しい連戦でしたけど、そこでチャンスをつかんだ選手の勢いもチーム力にして、(第26節から第33節まで)6連勝を含む8戦負けなしと加速できた。ああいった姿を示せたのも、シーズンを通して普段の練習から高い競争力のなかでみんなが高め合っていたから。

 それと同じように今年も総力戦で臨むには、若い選手が常にチャレンジしやすい状況を作っておくこともすごく大事だと思っています。若い選手の活躍は、チームの勢いにも変わっていくはずだから」

(つづく)

山川哲史(やまかわ・てつし)
1997年10月1日生まれ。兵庫県出身。中学、高校とヴィッセル神戸のアカデミーに在籍し、筑波大学に進学。2020年に卒業後、ヴィッセル入り。入団当初はサイドバックを任されるが、2023シーズンからは本職のセンターバックで起用される。持ち前の高さと強さを生かしてレギュラーに定着。今季からキャプテンを務める。

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