
「購入したペットが先天性の疾患を抱えていることがわかった。ペットショップやブリーダーに、今後の治療費を補償してもらいたい。」という趣旨の相談がここ最近増えています。この問題に詳しい人によると、ブームに合わせた無理な繁殖活動や、消費者のニーズに合わせた多種多様な交配の結果、遺伝性疾患が顕在化しやすくなっているそうです。
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さて相談の件ですが、残念ながら「先天性疾患を持っているペットの将来の治療費を売主側に負担させる法制度」は現状存在しません。
法律上、このような場合に買主側がペットショップやブリーダーに求められるのは、代わりのペットの引渡し請求(代替物引渡請求/民法562条1項)、代金の減額請求もしくは契約の解除(同563条2項、564条、542条)、それまでにかかった検査費用や治療費、通院交通費などの損害賠償請求(同415条)といったところにとどまります。商取引の問題ですので、慰謝料は認められないと考えます。
もちろん、ペットショップやブリーダー側が、ペットに障害があることを知っていたのにそれを隠して販売した詐欺的なケースであれば別ですが、通常、販売業者側も獣医師の診断を受けて、障害や疾患がないことを確認の上で販売していますので、販売過程における売主の故意過失は認められにくいと思われます。
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また、これらの請求は、先天性の疾患が判明してから一年以内に売主に通知しなければなりません(同566条)
要するに、迎えたペットが先天的疾患を持っていたことがわかった場合は、その子を返すか(代替物引渡もしくは契約の解除)、賠償金を受け取った上で将来の費用負担を覚悟してその子を飼い続けるか、という決断を、一年以内に選択することを迫られることになるのです。
「ペットショップに話をしに行ったら『代わりの子を提供します』と言われただけで、あまりにも冷たい対応をされた。」という話を耳にしますが、このペットショップの態度は、法律に沿った対応ではあるのです。
新たに家族を迎え入れた側としては到底納得できない結論でしょうが、ペットは生き物である以上、先天性の疾患や障害を持って生まれてくる個体をなくすことはできません。大手業者の中には、遺伝性疾患が生じないよう、すべての個体を検査した上で、疾患発症可能性のある子犬・子猫は販売しないという方針を取っているところもあるそうですが、それでもゼロになることはありません。
消費者側としては、見た目の可愛さや流行だけでペットを迎えるのではなく、気に入った子の様子をよく確認することが重要です。「おとなしい性格の子です」といった売り文句をそのまま信用することはリスクがあります。
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保護犬・保護猫のように十分に生育した個体を迎えることや、生後8週間ですぐに迎えず、疾患の有無が現れてくる生後半年ほどまでお迎えを待ってみるのも選択肢の一つでしょう。
また、上記した民法上の制度は特約で変更できることになっています。ですから、購入時には契約書をよく確認して、どのような場合に何をしてもらえるのか、不審な点について質問し明確にしておくことも大切なことです。
それでも、どんなに気をつけていても、先天的疾患を持った子を迎えてしまう可能性はあります。
ご紹介したように、その場合の法的な補償には限度があります。
ペットを新たに家族として迎え入れるにあたっては、動物愛護法7条4項「動物の所有者は…できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(終生飼養)に努めなければならない。」という規定にあるとおり、「迎えた我が子は、どんなことがあっても最後まで責任を持って私が育てていく。」という強い覚悟も必要といえるでしょう。
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◆石井 一旭(いしい・かずあき)弁護士法人SACI・四条烏丸法律事務所パートナー弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。
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