
NPB新外国人選手の過去を紐解く(投手編)
今シーズンから日本プロ野球(NPB)でプレーする外国人選手のなかには、昨シーズンはメジャーリーグの試合に登板した投手も少なくない。
そうした元メジャーリーガーのうち3人は、2024年にメジャーリーグで50イニング以上を投げた。オースティン・ボス(シアトル・マリナーズ→ロッテ/32歳)がリリーフ68登板の61.0イニングで防御率3.69、マイク・バウマン(マイアミ・マーリンズ→ヤクルト/29歳)がリリーフ57登板の58.1イニングで防御率5.55、ピーター・ランバート(コロラド・ロッキーズ→ヤクルト/27歳)は先発3登板とリリーフ25登板の計61.1イニングで防御率5.72を記録した。
ヤクルトに入団したふたりと違い、ボスの防御率は3点台だ。防御率だけを比べれば、左右の違いはあるもののわずかながら同じリリーフの松井裕樹(サンディエゴ・パドレス)よりいい数字を残している。松井は昨年、リリーフ64登板の62.2イニングで防御率3.73を記録した。松井の奪三振率と与四球率は9.91と3.88、ボスは9.00と2.66だ。
ボスにはメジャーリーグで投げ続けるという選択肢もあったように見える。ロッテの入団発表のコメントに「先発としてのオファーをしてくれた千葉ロッテマリーンズに入団することを決めました」とあるように、ボスは先発登板の機会を求めていた。
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先発投手としての実績も、まったくの皆無ではない。メジャーリーグでシーズンふたケタの先発登板は2度。2020年は先発11登板の49.2イニングで防御率6.34、2022年は先発17登板の76.1イニングで防御率3.07を記録している(2022年はほかにリリーフ24登板)。
フォーシームの平均球速は90マイル台前半とそう速くなく、打者から見て時計の文字盤の11時から5時に向かって落ちるカーブをベストピッチとする。11年前に野球ウェブサイト『ファングラフス』のカイリー・マクダニエル(現ESPN)が書いた記事によると、あるスカウトはボスについて「最高のシナリオどおりならタナー・ロアークのような投手になる」と言っていたという。
記事の当時、ワシントン・ナショナルズで頭角を現し始めていたロアークは、2014年〜2019年の6シーズン中5シーズンで規定投球回に達し、2014年と2016年は防御率2点台を記録した。また、2017年はアメリカ代表としてWBCに出場。準決勝の日本戦は先発マウンドに上がり、4イニングを無失点に封じた。ボスも日本の打者を相手に、ロアークのような好投を演じるかもしれない。
【アメリカで最も評価が高かった選手は?】
一方、ジュニオル・マルテ(フィラデルフィア・フィリーズ→中日/30歳)とトレイ・ウィンゲンター(シカゴ・カブス→西武/30歳)、バウマンの3人は快速球を投げる。MLB公式データの『スタットキャスト』によると、2024年に記録したマルテのフォーシーム(77球)は平均球速156.3キロで最速159.2キロ、シンカー(170球)は平均球速154.8キロで最速158.9キロ。ウィンゲンターのフォーシーム(89球)は平均球速156.3キロで最速159.7キロ、バウマンのフォーシーム(432球)は平均球速155.3キロで最速158.7キロだった。
マルテは球速からイメージするほど三振が多くなく、メジャーリーグでもマイナーリーグでも通算の奪三振率は9.05を下回る。その一方で、与四球率はどちらも4.05以上だ。
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ウィンゲンターの奪三振率は、メジャーリーグ通算95.1イニングで11.99、マイナーリーグ通算246.0イニングで11.56。速球と組み合わせるスライダーは、空振り率が高いというデータが出ている。
バウマンがリリーフ投手に転向したのは2023年から。この年はメジャーリーグで64試合に登板し、64.2イニングで防御率3.76を記録した。2017年のプロ入り以来、ボルチモア・オリオールズに在籍していたが、2024年は5チームを渡り歩いている。
現地アメリカで若手時代から注目されていた選手は、ジョン・デュプランティエ(ロサンゼルス・ドジャースのマイナー契約→阪神/30歳)、カイル・マラー(オークランド・アスレチックス→中日/27歳)、スペンサー・ハワード(クリーブランド・ガーディアンズ→楽天/28歳)の3人。いずれも元プロスペクト(若手有望株)だ。
なかでも、ハワードの評価は高かった。野球専門誌『ベースボール・アメリカ』は開幕前のプロスペクト・ランキングにおいて、2020年も2021年も全体27位にハワードを挙げた。ちなみに2024年に投手三冠&サイ・ヤング賞に輝いたタリック・スクーバル(デトロイト・タイガース)は、2020年が34位、2021年は20位だった。あくまでも数字のお遊びだが、それらの順位を平均するとハワードと同じ27位となる。
当時の『MLBパイプライン(MLB.com)』のスカウティングレポートでは、ハワードについて、決め球となるポテンシャルを持つ球種が4つあると評していた。速球、スライダー、カーブ、チェンジアップだ。
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【台湾プロ野球のMVP選手も参戦】
デュプランティエのプロスペクトランキング最高位は、2018年の全体73位。プロ2年目の2017年にシンブルAとハイAの計136.0イニングで奪三振率10.92と与四球率2.78、防御率1.39を記録し、ローテーションの3番手クラスになると評価されていた。
マラーは『ベースボール・アメリカ』のランキングには入っていないが、データサイト『ベースボール・プロスペクタス』のランキングで2020年〜2023年に4年続けてランクインし、2022年は全体56位に位置した。当時のフォーシームは最速100マイル(約161キロ)に達することもあったものの、現在は90マイル(約145キロ)台前半。ただ、2024年はメジャーリーグで打者202人と対戦し、敬遠四球の3人を除けば四球で歩かせたのは7人しかいなかった。
なお、来日1年目に最も活躍する外国人投手は、元メジャーリーガーでも元マイナーリーガーでもない可能性もある。ポスティングシステムを利用して台湾の統一ライオンズから日本ハムに入団した古林睿煬(グーリン・ルェヤン/24歳)は、2024年に125.0イニングで奪三振率10.80と与四球率2.02、防御率1.66を記録し、台湾プロ野球リーグのMVPに選ばれた。
もっとも、古林睿煬の入団が発表された時の新庄剛志監督のコメントに「先発ローテーションに割って入ってほしいけど、ここは競争。焦らず自分のよさを少しずつ出していってもらって、時間をかけて自分のポジションを確立していってほしいね」とあるように、日本ハムは長い目で見ているのではないかと思われる。
続々と新外国人選手が来日するなか、果たして今シーズンは誰が主役となるのか。