元DeNAの有望株が楽天戦力外を経てたどり着いた異国の地 櫻井周斗がカリビアンシリーズでつかんだ希望の光

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2025年02月19日 07:21  webスポルティーバ

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 メキシコのバハ・カリフォルニア州メヒカリで開催された第67回カリビアンシリーズは1月31日の開幕戦から連日、最高気温28〜29度という晴天に恵まれた。「Baja(バハ)」はスペイン語で「下」という意味で、ちょうど北にあるアメリカのカリフォルニアと同じように人々を幸せにする気候だ。

 ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコ、メキシコの選手たちが陽気な顔を見せているのと対照的に、現地時間(以下同)2月2日の試合前、ベンチで鬱々とした表情の日本人選手がいた。特別招待枠で招かれたジャパンブリーズで前日、初戦のドミニカ戦で先発した左腕の櫻井周斗(元DeNA、楽天)だ。

【何かを変えるしかない】

 ロビンソン・カノ(元マリナーズなど)やヤマイコ・ナバーロ(元ロッテなど)、ホセ・マルモレホス(元楽天など)ら実力者の並ぶ相手打線に対し、3回を投げて被安打3の4失点。ローリングス社の縫い目の高い公式球を思うように操れず、5つの四球を与え、また暴投を連発するなど制球に苦しんだ。

「ドミニカと戦っているというより、自分と戦っている感じがすごくしました。どうしてもバッターと勝負しきれていなかった。根本のところですよね」

 中南米ではワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に勝るとも劣らない盛り上がりを見せるカリビアンシリーズに、櫻井は並々ならぬ決意で臨んだ。2024年限りで楽天を戦力外になり、新たに目指す道に踏み出す前、絶好の機会が訪れたからだ。

「戦力外になって、最初は引退しようかなと考えていたけど、自分のなかでまだ野球でキャリアを築きたいと。野球でお金を稼ぎたい。両親がすごく野球好きなので、自分がプレーする姿をまだ見せ続けたい。いろんなことを考えて、野球を続ける選択をしました」

 日大三高時代は甲子園やU−18日本代表で活躍し、2017年ドラフト5位でDeNA入団。高卒1年目から開幕一軍入りを争い、2021年には30試合に登板したが、左ヒジの手術もあって翌年育成契約に。2023年支配下に復帰するも、2年続けて一軍登板なしに終わって同年の現役ドラフトで楽天へ移籍した。だが8試合の登板にとどまり、在籍は1年に終わった。

 そんな折に決めたのが、海外挑戦という道だった。外国からNPBにやって来て、たとえ育成契約からでも勝負をかける選手が多くいる。日本では望んでいたキャリアを築けなかったが、韓国やメキシコなどでプロとして道を切り拓こうとする日本人選手もいる。多くの人に話を聞き、選んだ進路だった。

「日本でキャリアを続けることが、日本人としては望ましいかもしれません。でも現実問題、それを続けられるのはひと握りの人間です。NPBでやりたい気持ちはあったけど、それがかなわない以上、何かを変えるしかない。その選択肢が海外にあるなら行きたいと思い、今回参加しました」

【先発として勝負したい】

 NPBで過ごした6年間、ほとんど中継ぎで登板してきた櫻井は、先発で勝負したいと決意した。日本でその機会を得られないなら、海外に行くしかない。そのチャンスをくれたのが、プロ入り3年目までDeNAの監督としてともに戦い、ジャパンブリーズを創設したアレックス・ラミレスだった。

 栄誉あるカリビアンシリーズで、日本チームにとっての初戦先発という大役を任されたが、悪い顔を覗かせてしまった。翌日も暗い顔をしているのは、至極当然だろうと想像できた。

「そもそも(コースを)狙って入るピッチャーではないので......。そうじゃないからこそ、今までの悪かった自分を何とか変えて、海外で勝負したいという気持ちがありました。そうやってオフシーズンに取り組んでいたなか、こういう結果になったのはすごく残念です。長らく抱えていた自分の課題が制球力。野球を始めてからずっとそうなので、簡単に治るものではないと思いながら、昨日の試合(ドミニカ戦)はもっと何とかできたという部分もあります」

 そう語った2日後の2月4日、ベネズエラ戦の前に再び櫻井を訪れると、晴れやかな表情を浮かべていた。前日のメキシコ戦で、リリーフとして結果を残すことができたからだ。

 1対7で迎えた6回から登板し、2イニングを被安打1、与四球1、奪三振3。球威あるストレートを中心に押し、ドミニカ戦とは別人のような投球だった。

「ドミニカ戦で打たれたのはカットボール、ツーシームだったので、それ以外のボールで勝負しようと。短期決戦のなかで勝負できている球と、そうではない球をドミニカ戦で見極められました。『(メキシコ戦では)真っすぐとスライダー、フォークを中心にいこう』と(投手コーチの高橋)尚成(元巨人、エンゼルスなど)さんとも話して、その準備が結構うまくいった感じです」

 序盤の好ゲームから大差のついた6回、1万7000人が詰めかけた球場の緊迫感は薄らいでいたなか、櫻井の野球人生にとって大きな意味のあるマウンドだった。

「ドミニカ戦では真剣勝負で負けた悔しさではなく、そこまでいけなかった悔しさが残りました。メキシコ戦では、それだけはないように。まずは自分がやりたかった勝負をして、それでうまくいったか、いかなかったかの反省が出れば、自分のなかで何か結論づけられると。その勝負ができて、結果として抑えられました」

 試合途中でマウンドに上がり、左腕から強い速球やキレのあるスライダー、フォークで押し込んでいく。DeNAや楽天の首脳陣たちが、中継ぎで使いたくなるのも頷ける投球内容だった。

 そう話を振ると、櫻井は異なる見解を示した。

「メキシコ戦ではリリーフで回またぎをして、このピッチングを先発でもやるべきだって感じました。NPBではリリーフをずっとやってきて、今回、久しぶりに先発です。メキシコ戦では、そこの感覚のすり合わせをできた感じがありました。それは今後先発でやるにあたっての心持ちになります。先発だからって、そんなに気にしなくてもいいんだなって」

【現役続行の決断をしてよかった】

 日本から遠く離れた異国にやって来て、これまでの野球人生とは大きく異なる環境に身を投じた。カリビアンシリーズで登板し、何を得られただろうか。

「野球のスタイルは違えど、野球という競技をどの国でもやっていて、その点は平等というか。カリビアンシリーズで使うボールはどのチームにも統一されていますし、マウンドも一緒。そのなかで自分の実力が通用するかという点は、日本の時と変わらなくて。自分の実力が出せれば通用するし、出せなかったら通用しない。自分が思っていたより、シンプルでした」

 日本が国際大会に出場すると、決まって異なるボールやマウンドにどう適応するかが大きなテーマになる。しかし櫻井は、もっと大きなものをかけて勝負のマウンドに登った。

「僕はNPBで結果を残せなくて、今の状況になっています。実力を出しきれなかった自分をどうにか20代後半で改善して、キャリアを築きたい。そのチャンスを求めて来て、ドミニカ戦やメキシコ戦でレベル感を確かめられたのはすごくよかったです」

 2025年シーズンの開幕を控え、今はどこの球団にも所属していない。そんな状況だからこそ、いかにアピールできるかが今後のキャリアにかかってくる。フリーエージェント(=自由契約)でカリビアンシリーズに臨むラティーノたちと同じように、櫻井は自分の道を切り拓こうと腕を振った。

「こんなにアドレナリンが出るのは久しぶりでした。NPBの一軍でも同じくらい出ますけど、ポストシーズンみたいなところでやれる機会は本当に久しぶりだったので。野球で食っていくという気持ちの出し方を、すごく思い出させられた大会でした。自分の契約がどうなるかわからないなか、人生がかかっていることを再認識できて本当によかったです。そして、現役続行の決断をしてあらためてよかったなと。またそういう勝負ができる世界で、今後もやれるだけやっていきたいなと思いました」

 まだ25歳。バハ・カリフォルニアを照らす太陽の下、櫻井は笑顔で未来を見据えた。

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