佐々木朗希選手の公式インスタグラムより引用「一年の計は元旦にあり」。誰でもこれまで一度は元日に一年の計画や目標を立てたことがあるだろう。何事も最初が肝心という意味合いで使われる慣用句だが、野球界には「一年の計はキャンプにあり」という格言もある。
これは2月に始まるプロ野球の春季キャンプを指すことが多いが、キャンプでの充実度とシーズンで見せるパフォーマンスが直結するというもの。開幕までまだ十分に時間がある時期とはいえ、プロ野球選手にとってキャンプは一年のスタートに当たる。心身ともに充実した状態でキャンプを過ごすことができるかどうかで、その年の成否が決まるといっても過言ではないだろう。
◆ドジャース佐々木朗希はキャンプ好発進
メジャーリーグはまもなく始まるオープン戦に向けて、各球団とも投手と捕手に続いて野手陣も合流しはじめている。最注目の球団はやはりドジャースだろう。昨季のワールドチャンピオンであり、大谷翔平というスーパースターがいるからだ。大谷がキャンプ入りしてからは、どのメディアもその一挙手一投足を取り上げている。
ドジャースには大谷のほかに2年目の山本由伸とルーキー佐々木朗希も在籍。特に現地アメリカでは、佐々木が大谷にも負けないほど注目を集めているようだ。
なにせ、佐々木はメジャーリーグの公式サイトで有望株ランキング1位に選ばれたほどの逸材。最速165キロの速球に加えて、鋭く落ちるスプリットを武器に、体は未完成ながら即メジャーで通用するといわれている。
スターぞろいのドジャースでなければ、ほとんどの球団でエースに君臨すると高く評価されているだけに、佐々木に注目が集まらないわけがない。メジャー公式球への対応や同僚とのコミュニケーションなど、メジャー特有の課題もあるが、キャンプでの動向を見ている限り、それもあっさりクリアしてくれるだろう。
佐々木はキャンプ初日からブルペン入りすると、初めて球を受けた正捕手のウィル・スミスは「宣伝通りのいい投手だ」と絶賛。練習の合間には通訳を介さず同僚と会話する場面もあるなど、新天地で好発進を決めた様子だ。うまくチームの雰囲気に溶け込んでいけそうなのは、やはり大谷と山本の存在も大きいだろう。
マイナー契約ではあるが、日本で開催される開幕シリーズまでに26人のロースター枠にも入ってくるはず。実際に、その開幕シリーズでは山本ともに先発マウンドを任される可能性も取り沙汰されている。
◆他の日本人ルーキー3人は出遅れることに…
一方で、佐々木のような好発進を決められなかったのが、メジャーで“同期”になる日本人ルーキーの3人。オリオールズ・菅野智之、ナショナルズ・小笠原慎之介、フィリーズ・青柳晃洋である。
3人ともプロ野球の通算勝利数が佐々木を上回る実績のある投手ばかり。特に菅野は昨季のパフォーマンスを発揮できれば、確実にローテーション入りできる実力の持ち主だ。
ただ、その菅野も含めてその3人はキャンプ地への到着が遅れてしまったという。“遅刻”の理由は、いずれもビザ取得が遅れたため。小笠原は2日目に、菅野と青柳はキャンプ3日目に、それぞれチームに合流済みだが、一年の計に当たるキャンプ初日に間に合わなかったのは想定外だっただろう。
◆佐々木が「ドジャースと密約があった」と疑われたが…
ビザ取得が遅れたのは、第2次トランプ政権のビザ厳格化の影響といわれているが、菅野よりも契約の締結が遅かった佐々木が問題なくキャンプインできているため、SNSではちょっとした陰謀論も囁かれていた。
「(佐々木サイドが)ブルージェイズやパドレスをその気にさせていたけど、やっぱりドジャースと密約があったのでは」、「ドジャースが裏から手を回してビザを取得させたのか」など根拠なく推察する声もあったが、どうやらドジャース球団の絶妙アシストのお陰だったようだ。
ヤフーニュースでエキスパートオーサーを務めるスポーツライターの菊地慶剛氏が、関係者から聞き及んだ話として紹介していたので引用したい。
「(前略)ドジャースは佐々木投手の入団会見を実施した際には申請書類を準備できていたそうです。密約説ではありません。これまで日本のみならず、韓国、台湾から数多くの選手を獲得してきたドジャースだからこそ、フロントのバックアップ体制が万全なのだと思います」
つまりドジャースと佐々木の間に密約めいたものがあったわけではなく、単にドジャースが海外選手との契約回りの準備に慣れていただけという見解だ。
◆日本人選手への対応に不慣れだった?
逆にビザ取得が遅れた菅野ら3選手が所属する球団は、そういう点で不慣れな面もあったか。いずれも過去に所属した日本人選手の数自体が少なく、フィリーズは17年ぶり、ナショナルズにいたっては20年ぶりの日本人選手獲得だった。
2〜3日遅れだったものの、何とかキャンプ入りしたルーキー3人は、日本からの長旅で少なからず時差ボケもあるだろう。今後は日米で大きく異なる様々な環境の違いにも慣れていく必要がある。
思わぬ形でスロースタートを強いられた3人だが、佐々木にはないプロでの豊富な経験値は大きな武器になるはず。遅れを挽回し、夢の舞台で大暴れすることを期待したい。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。