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インドで生産されるジムニーの5ドア「ノマド」が4月にいよいよ発売されることになった。しかし、予約開始からたった4日で5万台もの注文が殺到。スズキは、このままでは納期の予測が難しくなるため、受注を停止すると発表した。
わずかな期間に予約が殺到したのは、それだけこのクルマの発売を心待ちにしていた人が多かったことが背景にある。かなり前からさまざまな形で登場を予感させ、徐々にクルマ好きたちを刺激し続けてきた。
しかしながら予約数の全てが、本当にこのクルマが欲しいと思う人によるものではなさそうだ。転売狙いの割合も高そうであるし、ユーザーから注文が入る前に見込み発注している販売協力店なども少なくないと思われる。
ジムニーノマドがヒットした理由は(以前の記事でも売れる要素として解説しているが)、SUV人気と手頃な大きさ、価格と実用性、それでいてマイカーのステータスからなるヒエラルキーから脱却できる、独特のクラスレス感なのだろう。
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だが相変わらずクルマにステータスを求める人は多く、それは大きなクルマが売れる理由となっている。
●大きなクルマが売れる理由
高級大型ミニバンとして長く人気を誇っているトヨタのアルファードは、デザインと値落ちの少なさだけが人気の理由ではない。
「大は小を兼ねる」というシンプルな理由で選んでいるオーナーも少なくない。特に最新モデルへのモデルチェンジのたびに買い替えるのではなく、1台のミニバンを長く乗り続けているユーザーには、そんなオーナーも多い。
1台分の駐車スペースしか確保できない場合や維持費を考えると、クルマは1台にとどめたいと考えるユーザーにとって、アルファードは便利で満足感の高いクルマなのだろう。
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しかし、運転席よりも後ろが極端に長く、まるでマイクロバスやトラックの運転手にでもなったかのような気にもさせる操作感は、従来のセダンやクーペなどのパーソナルカーに慣れ親しんだ層には抵抗を感じる人もいるようだ。
そんな感覚を意識しない向きには、堂々とした車格や押し出しの強いデザインがウケている。しかし、前述の運転手感よりも、スタイリングの印象(オラオラ系の代表格という評判も……)に抵抗がある人もいる。
一方、よりスマートな印象であるのがSUVである。スポーツ・ユーティリティ・ビークルの略であるSUVは、そもそもスポーツを楽しむための乗り物というカテゴリーだが、その多目的さとコンクリートジャングルに似合う洗練されたワイルド感にひかれるユーザーは多い。
これは昭和世代がスポーティーなクルマを好むのと、嗜好(しこう)のメカニズムは同じものだ。
●多様な要素を兼ね備えるのがSUVの強み
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目新しさはそろそろ薄れてきたが、オールマイティーな使い方が出来てスポーティー(スポーツカー的ではなく活動的、という意味)に乗り回せるSUVの人気は根強い。
そのため日本の道路における乗用車は、軽自動車とミニバンとSUVに集約されつつある。スポーティーカーやセダン、ステーションワゴン(国産はカローラツーリングワゴンとレヴォーグくらいしかない)は少数派だ。
しかし、最近さまざまな自動車関連メディアが報じているが、スズキがカプチーノを復活させるという情報もある。これは前回のジャパンモビリティショーでダイハツが発表したビジョン・コペンと同じプラットフォームを利用して開発されるのであれば、非常に実現性の高い計画だ。
トヨタがS-FRというコンパクトなスポーティーカーを発表したのは2015年のこと。そこから発売のうわさが浮上しては忘れられるという浮き沈みを繰り返してきたが、それも再燃する可能性もある。
トヨタグループとしてマツダ・ロードスターのシャーシをプラットフォームとするのか。それとも新たにプラットフォームを開発し、次期ロードスターもそれを採用することになるのか。この先の展開が楽しみになってきた。
スポーツカーを作り続けるのは、自動車メーカーにとって、もうかる話ではない。しかし、それは短期的な見方だともいえる。また、プラットフォームを共有したり生産委託したりすることで、お互いのリスクを分散できる。
スポーツカーがラインアップにあれば、実用性の高いクルマばかりの殺伐とした雰囲気を華やかにすることもできる。自社ブランドのファンを増やし、ミニバンやSUVを選ぶ際にも、同じブランドを選んでもらえるようになる。
●プラットフォーム構造は“諸刃の剣”か
優れたプラットフォームを作り、それを活用することで何種類もの「いいクルマ」を量産できる。プラットフォームは優れたクルマを安く作る近道と思われてきた。自動車メーカーによって考え方は異なるが、何サイズかプラットフォームを作り、カテゴリーの異なるボディを取り付ける。
その結果、安全性や快適性が高まり、走行性能も従来と比べると向上しているクルマが増えている。しかし、クルマの価格は上昇し、国産車でも300万〜400万円台が普通の価格帯になりつつある。
この30年、平均所得は上昇していないのにクルマの価格をはじめとする耐久消費財の価格は上昇を続け、国産車でも1000万円近い価格を掲げる高級車も珍しくなくなった。
日産がつまずいたのは、このプラットフォームの構築だったのではないか、と最近感じる。そもそもプラットフォーム構造をいち早く取り入れたメーカーであるが、それゆえ自由な発想のクルマ開発ができず、ラインアップが集約されすぎてしまったとも思えるのだ。
いいクルマとは、筆者のような自動車ジャーナリストが試乗して高く評価するクルマではなく、「売れるクルマ」であることが重要だ。一般のユーザーに理解されない機能や性能、品質などは、結局オーバークオリティとなって、コストを上昇させるだけの要素になってしまうこともある。
おそらく、このあたりのコスト管理が最もうまいのはスズキだろう。軽自動車は高くなったとはいえ、それは普通車と並ぶほどの快適性や機能性を盛り込んでいるからで、シンプルな装備のアルトやエブリイは120万円前後から用意されている。
ワンボックスタイプのエブリイは、軽貨物車として宅配便などの配送業に利用されるだけでなく、維持費が安くスペース効率が高いクルマとして車中泊やアウトドアに利用するオーナーも増えている。
軽トラックも今ではカラフルで装備も充実し、リクライニングシートと広めのキャビンを備えるモデルも増えている。それを個性的にカスタムして乗り回すことを楽しむ層など、従来にはなかったクルマの楽しみ方が広がっている感がある。
2024年秋に発売したクーペSUVのフロンクスについても販売は好調なようだ。ライバルとなるヤリスクロスやライズなどと比べると、高級感を感じさせる内外装なども人気の理由らしい。
●この先のクルマは“分かりやすさ”が重要に
クルマを購入するユーザーは、刺激を求める人と安定を求める人の2つに大別できるといっていい。ジムニーノマドが人気となったのは、価格やサイズなどは従来の枠組みに収まりながら、新しい刺激が得られそうな期待感があることが大きな理由だろう。
排気量やサイズを抑え、実用性や経済性も兼ね備えながら、デザインと機能によって得られるカーライフの新しい刺激を楽しみたいと思っているのだ。
一方で、燃料価格が上昇している現在、再び燃費性能への関心が高まる可能性も出てきた。近年のクルマはハイブリッドでなくても総じて燃費性能が高く、地方のクルマ通勤者でなければ年間走行距離は少ないため、燃料代の差は年間で数千円程度だった。そのため、燃費以外の要素を重視してクルマ選びをするユーザーも多かった。
しかし、レギュラーガソリンの平均価格が180円を超えてきた現在の状況では、再び燃費を気にするユーザーは増えてくるだろう。燃料への補助金を減額し始めたが、徐々に減らすのではなく一気に補助金を終了させて、ガソリン税などの暫定税率を廃止してほしいと、ほとんどの自動車ユーザーは思っているはずだ。
マツダが今年発売する新型CX-5は、独自のハイブリッド機構とデザインで注目を集めそうだ。走りにこだわった縦置きプラットフォームと、コスパも兼ね備えた横置きプラットフォームの2本立てで大型乗用車を展開していく方針のようだ。
これから先のクルマ選びは、充実した機能や性能をいかにユーザーに分かりやすく伝えるかがますます重要になっていくだろう。つまりクルマの機能を分かりやすく表示する仕組みが必要になってくるのではないか。
タイヤは、転がり抵抗とウエット性能を機能表示するようになってきた。クルマでは自動車アセスメント「JNCAP」によって安全性能を点数や星の数で評価しているが、クルマの性能や機能の充実ぶりをさらに評価できないだろうか。
これは自社による評価では参考になり難いから、公的機関など第三者による評価によるラベリングが必要だろう。燃費、先進運転支援システム、乗り心地、操縦安定性……クルマの評価項目はたくさんあるが、全てを数値化すれば、重要視している項目がユーザーによって異なっても参考になるはずだ。
そして、自分の使い方や好みに合ったクルマを選択しやすくなる。それでも、想定された使い方を超える楽しみ方を考え出す、少数派のクルマ好きも出現するだろう。
(高根英幸)
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