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「一枚の写真が難病に立ち向かう子どもと家族の支えになれば」。カメラマンの川上淳也さん(44)=岡山市東区=は小児がん患者と家族を撮影し、無償で写真を提供する活動を続けている。活動を始めて約3年半、撮った家族は全国各地の約150組に上る。体調への細心の注意が求められるシビアな撮影だが「闘病中でも楽しむことを諦めてほしくない」と、子どもたちの笑顔を引き出しながらシャッターを切る。
【写真】「写真を見た誰かにも元気や勇気を届けられるカメラが私の理想」と話す川上さん
母親の膝の上に乗って見つめ合う女の子、生後間もない妹と寝転ぶ男の子、両手におもちゃを持って父親の背におぶさる子…。川上さんが手がける写真はどれも温かい表情が印象的だ。1〜5歳前後の子どもと家族を中心に撮影してきた。
小児がん患者や家族が共に過ごすための滞在型施設「チャイルド・ケモ・ハウス」(神戸市)などを通じ、患者家族から依頼を受けている。
がんの影響で歩行が困難になったり、抗がん剤を打つために体にカテーテル(細い管)を差していたりと、転倒しないよう注意が必要な子も多い。治療の副作用で髪の毛が抜けた子の親によっては「(脱毛は)頑張っている証しだからありのままを写して」「女の子だからウィッグ(かつら)を着用したい」と希望もさまざまだ。
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川上さんは「撮影前に相手としっかりコミュニケーションを取り、必要な配慮や要望を把握する。信頼関係を築き、一緒におもちゃで遊びながら自然な表情を引き出せるよう心がけている」と話す。
活動を始めるきっかけは2018年の西日本豪雨だった。当時は結婚式場のカメラマン。倉敷市真備町地区で被災した伯母の家の片付けに行った際、貴重品よりも先に亡き夫の写真を探す様子を見て「写真が持つ力を改めて感じた」。折しも、兵庫県立こども病院などに入院する全国各地の患者が一時退院した際に利用するチャイルド・ケモ・ハウスのドキュメンタリー番組を見た。難病と闘う子どもを目にし「自分のカメラでこの子たちを笑わせたい」と強く思うようになった。
21年、小児がん患者の撮影活動に注力しようと独立。合わせて岡山県内で愛犬の写真を撮影するチャリティーイベントを始め、活動資金に充てている。平日は交通誘導員などのアルバイトをこなし、休日は撮影に駆け回る。出張にかかる交通費も含めて全て無償で活動する。
「諦めていた七五三の撮影ができて本当に良かった」「小学校に入学する時にまた撮ってね」。川上さんの原動力はこうした患者家族からの言葉だ。「自分の写真を必要とされることが何よりうれしい。カメラマンとしての誇りです」
今後の目標は趣旨に賛同してくれるカメラマンを増やすこと。日本国内では毎年2千人程度の15歳未満が白血病や脳腫瘍などの小児がんと診断されており、「撮影を望む人たちはもっといるはず」と言う。撮影する際の注意点や心構えをまとめたマニュアルを作成し、フリーカメラマンらに提供する構想を練っている。
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川上さんは「写真を撮った人に楽しんでもらうのはもちろん、その写真を見た誰かにも元気や勇気を届けられるカメラが私の理想。笑顔の輪を広げていきたい」と意気込む。
(まいどなニュース/山陽新聞)