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Q. 錠剤が苦手で、小さく砕いて飲んでいます。他にいい方法はありますか?
Q. 「錠剤を飲み込むのが苦手です。喉に引っかかるような感じがして怖いので、いつも小さく砕いて飲んでいます。最近は100円ショップなどで錠剤を砕ける便利なグッズもありますが、毎回潰すのは少し面倒です。他にいい方法があれば教えてください」A. 自己判断で錠剤を砕いてはいけません。実は、危険も伴う行為です
最初に確認をしたいのですが、錠剤は自己判断で砕いているのでしょうか? 結論から申し上げると、自分で錠剤を砕いて飲むのはやめたほうがいいでしょう。薬の剤形は、錠剤・粉薬・カプセルなど様々ですが、いずれもその薬が最適な効果を発揮するために必要で、また、好ましくない作用が現れることを防ぐために考えられています。形を変えるということは、最適な効果を得たり、よくない作用を防いだりできなくなるリスクがあることを、よく理解してください。
口から飲んだ薬は、食道、胃、十二指腸、回腸と運ばれていき、その過程で徐々に体内に吸収されていきます。だいたい30分くらいで効果が表われてくるケースが多いです。しかし、薬の中には、胃の中の胃酸で分解されて効果を失うものや、胃で溶けると胃にダメージを与えてしまうものもあります。
また、飲んでから作用が表われるまでの時間を遅らせたい薬もあります。
例えば、「腸溶錠」という錠剤の場合、錠剤に特別な工夫がされていて、胃では溶けないようにできています。腸に達したときに初めて溶け、体内に吸収される仕組みになっています。もし、これを砕いて飲んでしまったら、すべて台無しです。期待した効果が表われないだけではなく、胃がダメージを受ける可能性があります。
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なぜなら、1日3回の薬を1日1回で済ますために、あらかじめ多量の薬が含まれているからです。徐々に溶け出すことを前提に作られているものを砕いて飲んでしまうと、その薬が一気に効いてしまいます。つまり、「過量服薬(オーバードーズ)」になってしまうのです。繰り返しますが、これは非常に危険な行為です。
また、錠剤の中には、飲む際の苦みを抑える工夫を施したものもあります。苦みが強い薬を砕いて飲むことで、飲みづらくなってしまうこともあります。
いずれにしても、今お使いの薬が飲みづらいと感じるのならば、まずやるべきことは、医師や薬剤師に相談することです。同じ効果を示す薬でも、複数のメーカーが製造した錠剤の大きさが違うものがあることもありますから、希望すれば小さめの錠剤に変えてくれることもあります。
また、近年は、「OD(口腔内崩壊)錠」というものも作られています。OD錠は、口に入れて舌の上にのせてしばらく経つと、唾液(もしくはごく少量の水)だけでも崩壊するので、たくさんの水を使って飲む必要がありません。
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錠剤を砕いて粉にする便利グッズが市販されているとのことですが、自己判断で利用するのはよくありません。自分の体調を回復させるために飲んでいる薬で、自ら健康被害をまねくようなことは控えましょう。
阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))