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さまざまな事情からSNSに苦痛を吐露せざるを得なかったのかもしれません。ただ、実は社内の不祥事をSNSに投稿するのは法的なリスクも伴うことに注意が必要です。
訴えられるだけでなく、敗訴するリスクも
社内の不祥事を告発することによって改善を促すことは有意義なことですし、公益通報者保護法によって通報者が保護されるケースもあります。しかしながら、不祥事を告発する内容の投稿にも法的責任が生じることはあり得ます。
まず、会社から受けた苦痛というものが“パワハラ”だとすると、基本的にパワハラは公益通報者保護法によって保護されるものではありません(パワハラが犯罪行為に当たる場合には、同法の対象です)。さらにSNSへの投稿が同法によって保護されるハードルが高いといえます。
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したがって、訴えられるリスクがあるだけでなく、その結果、敗訴する可能性もある行為であるといえるでしょう。
もし虚偽の内容が含まれていたら高いリスクを負うことに
仮にSNSへの投稿に虚偽の内容が含まれていた場合のリスクも考えてみましょう。虚偽の情報を投稿されたことによって、投稿された側には多大な損害が生じるおそれがあります。SNSは情報が多くの人に、瞬時に伝わることがあるツールです。そのため損害は拡大しやすく、投稿された側は投稿者に対して、損害賠償責任を追及しようとする考えに至りやすいといえます。
さらに刑事責任として、名誉毀損罪(刑法230条)、業務妨害罪(刑法233条)が成立するおそれもあります。虚偽の内容を投稿する行為は、損害賠償責任にとどまらず、刑事責任まで負うことになる高いリスクを有するということです。
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会社から不当な扱いを受けた場合、どう対応するべきか
では、会社から不当な扱いを受けた場合はどのように対応するべきでしょうか。今回は主に損害賠償責任を追及することや環境改善を求めていくという前提で解説します。そもそも証拠がなければ請求しても認められませんから、自力で証拠集めが必要になりますし、事実隠ぺいもされたくないと考えるのが通常でしょう。
そこでまずは自身の力で社内のメールを保存したり、録音・録画ができたりしないかと考えてください。ここで十分な証拠を取得できるとさまざまな場面で有利になります。証拠を取得できた時点で損害賠償請求を実行することも可能です。
次に社内に相談窓口があるのであれば、そこへの相談を考えてください。パワハラ防止法の施行(2020年6月1日)によって、社内に相談窓口を設置することが義務付けられています。相談窓口に相談すると、社内での調査が行われることが一般的です。
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なお、相談窓口担当者からハラスメントを受けている、あるいは自浄作用がなく会社の対応に期待できない場合には、外部通報(行政機関や報道機関への通報)を検討してください。外部通報の場合、通報しようとしている事実について信じるに足りる相当な理由が必要とされますので、この点でも証拠を残しておくことが重要です。
<参考>
消費者庁「公益通報者保護制度」
鬼沢 健士プロフィール
慶應義塾大学卒業。平成24年、茨城県取手市「じょうばん法律事務所」を開設。主に労働者側の労働事件(不当解雇など)やインターネット詐欺被害救済(サクラサイト、支援金詐欺など)を取り扱う。All About 暮らしの法律ガイト。(文:鬼沢 健士(弁護士))