配送に使う緩衝材といえば、川上産業の「プチプチ」など気泡緩衝材が一般的だが、世の中には「食べられる緩衝材」があるのをご存じだろうか。
【画像】食べられる緩衝材の袋に入っている正体と、その製造工程(計2枚)
素材はポップコーンで、パッケージには「食べられません」ならぬ「食べられます」と記載があり、SNSでもたびたび話題になっている。食べられるだけでなく、ワインや青果、精密機械の緩衝材としてももちろん使えるという。
プラスチックから食品への置き換えは、SDGsの観点で効果がありそうだ。どういう背景で開発に至ったのか、販売しているあぜち食品(高知市)に取材した。
●食品メーカーが「緩衝材」を発売した理由
|
|
食べられる緩衝材はたびたびSNSで話題になっており、年末には通販で買った商品の緩衝材に使われていたという内容のXポストが「15万いいね」に加えて2万弱のリポストを記録した。投稿者は高知の商品を購入したといい、食べられる緩衝材を販売しているあぜち食品も、高知県の企業である。
あぜち食品はポップコーンや豆菓子、さきいかなどのおつまみを生産する食品メーカーで、主に四国内の食品スーパーやECで商品を販売している。どういう背景で緩衝材の商品化に至ったのか聞くと、担当者は次のように話す。
「当初はECで豆菓子や石チョコを購入した方に、当社の商品PRとしてポップコーンを入れていました。そのことを知った友人に『このポップコーンって緩衝材に似ているね』といわれたことでアイデアを得て、それ以降は『おまけ』としてではなく『緩衝材』としてポップコーンを入れるようにしました」
当初は「食べられる緩衝材」と手書きしたシールを袋に貼っていたが、客の一人が旧ツイッターに投稿。3日間で4万リツイートを記録し、注文が殺到したことで商品化に至ったという。現在のようなパッケージを採用したのは2018年で、販売価格は40グラム×5個入りで650円ほどだ。
●地元企業からの引き合いが多い
|
|
食べられる緩衝材の年間販売数は、7000〜1万個。SNSでたびたび話題になることで、ECモールや地元スーパーでの知名度が高まる効果が生まれているという。
食べられる緩衝材はどういった商品の緩衝材として使われているのか。
「スーパーの他、ワイン販売店や青果店からの問い合わせがあります。小型ゲーム機の販売店や精密機器メーカーから、非食品の配送に使いたいという問い合わせもありました」(あぜち食品担当者)
中でも同じ県内企業からの引き合いが多いといい、「高知」の文字をデザインした高級ブランドチックな商品を展開する「ブランド高知」も同社の緩衝材を採用している。緩衝材を受け取った消費者からは、ユーモアをほめる意見が多いと担当者は話す。
●60年来、市内で親しまれてきたポップコーンを使用
|
|
緩衝材として使っているのは「マックのポップコーン」。60年以上の歴史を持つ、同社の人気商品であり、高知市街地の映画館で親しまれてきたポップコーンである。もともとは同じ高知の久保田商会が生産していたが、廃業を機にあぜち食品が引き継いだ。
「生産は昔ながらの方法で行っています。機械ではなく小さなガス直火釜を使い、マンパワーに頼る製造方法です。人の手による製造のため、どうしても塩加減や砂糖の味付け具合にバラつきが出てしまうのですが、そこが『マックのポップコーン』らしさでもあります」(同)
大量生産できれば緩衝材に使われるプラスチックの削減に貢献できると感じたが、製造方法に昔ながらのこだわりがあり、なかなか難しいようだ。今後、食べられる緩衝材としてフレーバーを増やすなどの計画はなく、担当者は「ユーモアを楽しんでもらえれば」と話す。
世界ではプラスチック緩衝材を削減する動きが見られる。アマゾンはエアー緩衝材を完全に撤廃し、紙製のものに統一。ソニーは大型テレビの包装で発泡スチロールを廃止し、生分解性バイオポリマーを使うと発表している。他にも「プラスチック緩衝材 廃止」と検索すると、さまざまな企業の取り組みが見つかる。今後は「食べられる」以外にも、さまざまな形の緩衝材が増えていきそうだ。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。
浴槽を「着脱」新発想の浴室(写真:ITmedia ビジネスオンライン)119
浴槽を「着脱」新発想の浴室(写真:ITmedia ビジネスオンライン)119