冨安健洋は完全復活なるか 長谷部誠は言った「人生の物事には、すべて意味がある」

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2025年02月22日 07:30  webスポルティーバ

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「数日前に右ひざの手術を受け、すでに復帰に向けてリハビリを開始しています」

 冨安健洋は2月19日、自身のインスタグラムでひざに再びメスを入れたと語った。

「芝生の上で練習開始」「復帰間近」「トップチームに合流」などなど明るい話題の直後に「もう少し様子を見るべき」「あと2〜3週間」といった慎重論も聞こえてきてはいたが、再手術とは深刻だ。

 今シーズンはまだ6分しかプレーしていない。アーセナルにとって大きすぎる痛手だ。最終ラインの仕事すべてをハイレベルでこなし、世界でもトップランクのDFである冨安の長期欠場で、ミケル・アルテタ監督のプランに狂いが生じている。

 ウィリアン・サリバとガブリエウ・マガリャンイスは、ほぼ出ずっぱりだ。リッカルド・カラフィオーリとベン・ホワイトの肉体は、疲労の蓄積で悲鳴を上げた。

「トミ(冨安の呼称)さえ万全なら......」

 アーセナルOBで、2000年代前期に黄金期を築いたティエリ・アンリも、日本代表DFの不在を嘆いていた。

 右ひざを再手術した冨安は、すでにリハビリを始めている。アーセナルのチームメイト、日本代表の戦友、マンチェスター・シティの長谷川唯などがXで励ましのメッセージを送り、仲のいいサリバは「Next season bro」(さぁ、来シーズンだ、兄弟)と暖かい。トミが愛されている証拠である。リハビリはきっとうまくいく。

「ひざはじん帯や半月板、腱などの構造物によって支えられています。じん帯は外側と内側、前十字、後十字などがあり、それぞれが違う役割を担っています。動きが多岐にわたるフットボールでは過度の負担がかかり、炎症や痛みが長引くケースも確認されていますから、休養も治療の一環ですね。最悪の場合、手術も考えなくてはなりません」

 かつてチェルシーの人気女性ドクターだったエヴァ・カルネイロは、10年ほど前から警鐘を鳴らしている。冨安の負傷はサッカーの過負荷によるものかもしれない。

【たくさん言いたいことはある】

 今のプレミアリーグは1試合当たりのプレー強度が増し、選手たちはより速く、より長く走ることが求められている。その結果、下半身に負担がかかり、負傷を引き起こす。ワールドカップ予選で長距離の移動を強いられる代表選手たちは、なおさらだ。

 アーセナルのようにチャンピオンズリーグでも優勝を期待されるような強豪は、より繊細なコンディショニングが必要とされ、可能な限り選手をローテーションしなくてはならない。

 今シーズン、FWブカヨ・サカがハムストリングに違和感を抱き、昨年12月下旬〜今年4月上旬まで欠場を余儀なくされている。それも理不尽な負荷がかかったからだ。

 特定の選手を信頼するアルテタ監督の気持ちも、わからないではない。だが、過密日程をしのぐためにはローテーション、休養が必要であり、対戦相手によっては帯同メンバーから外す大胆なプランも一考しなくてはならない。

 マンチェスター・ユナイテッドのライアン・ギグス、ポール・スコールズが30代半ばまで異彩を放てたのは、サー・アレックス・ファーガソンが設けた休日のおかげである。

「試合の2〜3日前、突然、監督に言われるんだ。次の試合は休め。家で家族とリラックスしていろと」(スコールズ)

 20年近く前の話だ。過密日程が大問題になっている現代において、休養日はひとつのゲームプランといって差し支えない。

 冨安の再手術が明らかになる前、「今シーズンいっぱいで契約解除」「放出は妥当な選択」など、出所を明確にしないネット上の発信は腹立たしかった。なかには選手生命を危ぶむ一報まであった。関係者の証言を交えず、想像オンリーの内容だ。

「たくさん言いたいことはありますが......」

 冨安の怒りはよくわかる。

 彼の体調が思わしくないとしても、情報の裏を取らず、あるいは取る方法を知らずに発信するなど言語道断だ。前十字じん帯断裂やハムストリングの故障から立ち直り、再び輝いた選手が数多く存在した経緯を重視すべきである。

【小野、宮市、そして長谷部も...】

 ラダメル・ファルカオ、アラン・シアラー、アレッサンドロ・デル・ピエロ、ロイ・キーン、ロベール・ピレス、ルート・ファン・ニステルローイ、ロベルト・バッジョ、フランチェスコ・トッティ、シャビ・エルナンデス、フィルジル・ファン・ダイク......。

 大きな故障からカムバックした名選手の面々──実に絢爛豪華ではないか。

 シアラーはサウサンプトンからブラックバーンに加わった1992-93シーズンに前十字じん帯を断裂したが、翌シーズンは31ゴールを記録。英国サッカーライター協会のMVPを受賞した。ニューカッスル移籍後は2度も足首のじん帯に甚大なダメージを負いながら、プレミアリーグ史上最多スコアラー(260得点)の座に君臨している。

 ファン・ニステルローイは1999-2000シーズンにPSVで29ゴールと大ブレイクしたあと、マンチェスター・Uへの移籍が内定していた。ところが、右ひざの前十字靭帯を断裂。移籍交渉は暗礁に乗りあげ、稀代のストライカーは1年ほど戦線を離脱することになった。

「ニステルは終わったな」

 誰しもが否定的になった時、アレックス・ファーガソン監督が獲得を熱望する。結果、マンチェスター・Uで219試合150ゴール。2000年代初期の黄金時代にファン・ニステルローイは必要不可欠だった。

 冨安とポジションを同じくするDFでは、リバプールのファン・ダイクだ。2022年10月のマージ--サイドダービーで右ひざの前十字じん帯を痛め、9カ月後に復帰。しばらくは精彩を欠いていたものの、今ではワールドクラスのセンターバックに返り咲いている。完全無欠のキャプテンに、リバプールはまもなく2年間の契約延長を打診するという。

 日本サッカー界でも小野伸二や宮市亮など、再起不能と言われながらピッチに戻ってきた選手はいる。長谷部誠もそのひとりだ。

【神様は乗り越えられる試練しか与えない】

 2017年3月、バイエルン戦でゴールポストに激突。損傷した軟骨を除去するために右ひざにメスを入れ、長期欠場を余儀なくされた。ただ、日本代表のキャプテンを務めていた当時の彼は決して弱音を吐かず、こう発信した。

「人生の物事には、すべて意味がある」

 長谷部は今、日本代表のコーチも務めている。冨安に寄り添い、励ましてくれるに違いない。人生の物事にはすべて意味があるなんて、心に響く言葉ではないか。

 神様は乗り越えられる試練しか与えない。ケガをしたら、強靭な肉体を再装備すればいい。ハムストリング、筋肉、ひざ......と、ヨーロッパに臨んだあとの冨安にケガの履歴がついてまわるとはいえ、まだ26歳だ。

 職務履歴書を書き終えるのは、まだまだずーっと先である。

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