トランプが仕掛ける「仁義なき関税バトル」で日本が勝ち残る方法とは?

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2025年02月22日 07:40  週プレNEWS

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米中は早速バチバチの報復合戦に! 次のターゲットはどこ?

就任直後からやりたい放題! トランプ大統領は早くも追加関税を課す大統領令に署名開始。メキシコ、カナダに対しては今のところ"寸止め"状態だが、中国とはすでに報復関税の応酬を始めている。

注目の集まった日米首脳会談は想像以上にうまくいったようだが、本当の試練はここから!? 関税バトルの近未来を徹底予測!

■石破流のジョークが炸裂

「米国がもし日本に関税をかけたら、報復関税を行なうか?」

「仮定の質問にはお答えしかねます、というのが、日本のだいたいの定番の国会答弁でございます」

2月7日に行なわれた日米首脳会談後の共同会見で石破茂首相はこう切り返し、会場は笑いに包まれた。これにはドナルド・トランプ大統領も破顔一笑、「ベリー・グッド・アンサー」「彼は自分のすべきことがわかっている」と応じた。

この場面が象徴するように、今回の日米首脳会談には大きな成果があった。対米投資額150兆円という、いかにも巨額ながら実は既定路線の数字でトランプを納得させ、日本製鉄によるUSスチール買収にも「投資」という形で実利を取れる余地をつくり出したのだ。

一方、懸案も残った。石破首相が回答を濁した、いわゆる「トランプ関税」への対応である。

トランプは大統領に就任するやいなや、さまざまな形で追加関税を行ない、国内製造業を守るとぶち上げた。世界各国は今や戦々恐々だ。その概要について、第一生命経済研究所所属のエコノミスト・熊野英生(ひでお)氏に解説してもらおう。

「現時点でトランプ関税の対象国として指定されているのは、カナダ、メキシコ、中国の3ヵ国です。前2国からの輸入には25%、中国からの輸入には10%を、2月4日から既存の関税率に上乗せするとしました。

ただしカナダとメキシコについては協議に入り、1ヵ月の延期となっています。中国に対してはすでに実行され、中国からも原油などのエネルギー資源や農業用機械、自動車について報復関税が発動されました」

こうした経緯もあって、日米首脳会談に大きな注目が集まっていたのだ。

■日米首脳会談成功の舞台裏

しかし、意外にもというべきか、日米首脳会談は成功裏に終わった。その舞台裏を、ジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いた。

「これはもう、政権と官僚がひとつになり、先回りしてトランプを攻略した成果。チームワークの勝利です。具体的には、総理補佐官の長島昭久衆議院議員が昨年11月に渡米して、トランプ大統領の側近から早々に感触を得ています。

これを機に、外務・経済官僚が集まって議論を重ねました。その結果、『トランプがどんなボールを投げてくるかは結局わからない。ならば先制して日本からボールを投げ込もう』となったわけです」

それこそが、日本の対米投資150兆円のアピールなどだったと鈴木氏は言う。日本がこれまで、世界で最も米国に投資し、貢献してきたことを、首脳会談に先んじてメディアにリークする形で伝えたのだ。

これによってトランプ政権内に安心感が生まれ、政権に近いビジネスラインを通じて、トランプは日本に対して今回はむちゃを言わないという感触が得られていた。首脳会談は出たとこ勝負ではなく、しっかりと整えられた舞台だったのだ。

「とはいえ、石破首相とトランプ大統領が長期的な関係を築けたとまでは言えないと思います。日本は今回の関税対象国のように、米国との間で大きな懸案事項を抱えていない分、ディール(取引)の優先順位が低かっただけかもしれません。

今後、ウクライナやガザの情勢が落ち着き、カナダ、メキシコとの交渉が済めば、日本に対してもディールを持ちかけてくる可能性があります」

石破政権チームが看破したように、トランプの腹の中は誰にも読めない。実際、2月10日には鉄鋼とアルミニウムについて25%の追加関税を課す大統領令に書名。

これは日本も対象で、3月12日に発効。その上、品目は原油、天然ガス、半導体や医薬品にも広がる可能性があるという。日本はすでに適用除外を申し出ているが、とにかく日本に対する追加関税も予断を許さない状況なのだ。

米国投資銀行での勤務経験がある経済評論家の佐藤治彦氏は、トランプのディール志向についてこう分析する。

「トランプお得意のディールは、要は海外のお土産店が観光客に対して吹っかけるのと同じ。真に受けると大損するので、3分の1くらいのスケールでとらえておけばちょうどよくなる。これだってディールですよね。

もしカナダとメキシコに対して関税25%を課したら、米国内の自動車価格が1台当たり3000ドル上がるという試算があります。

これはインフレで生活に苦しむトランプ支持層にとって、とうてい受け入れられる話ではない。2年後の中間選挙までにインフレを鎮静化させておかないと共和党はボロ負けしますから、おそらく矛を収めるでしょう。ただし、中国は真剣に潰したがっていると思います」 

米国にとって、中国が世界覇権を争う最大の仮想敵であることは間違いない。中国のダンピング価格による鉄鋼の過剰輸出や、EVで世界トップになっていることもトランプにとっては面白くないだろう。トランプ関税の究極の目標は中国潰しにある、というのが佐藤氏の見立てだ。

■トランプ関税の対象は広がるのか?

一方、熊野氏は南北の隣国と中国で扱いに差をつけた理由を、トランプ関税の「目的」から読み解く。

「そもそもの前提として、関税を設けることで得をする人はあまりいません。輸出する物品の価格上昇によって相手国は損をしますし、輸入物価が上がるので米国の消費者も損をします。さらに報復関税のやり合いになれば、米国の輸出企業も損をするわけです。

つまり、トランプは関税をブラフにしてディールができればまずはOK。カナダとメキシコについては、社会問題となっているフェンタニル(麻薬性鎮痛薬)の持ち込みと、不法移民をしっかり取り締まるなら矛を収めるというのがトランプの立場です。

両国とも国境警備の強化を宣言していますから、おそらく関税は撤回されるでしょう。

とはいえ、トランプ関税の網は広がるとみています。彼の目的はもうひとつ、貿易赤字の削減にもあるからです」

米国の貿易赤字はコロナ禍以降に急拡大し、2022年には過去最大の約9512億ドルに達した。本来、貿易赤字は米国民が外国から物やサービスを購入して豊かな生活を送れていることを意味し、それ自体は悪いものではない。ただしトランプ大統領にとって、貿易赤字の削減は選挙対策の柱だった。

例えば、中国をはじめとするアジアの工業国にシェアを奪われ、寂れていった工業地帯に住む白人労働者は、彼の主な支持層のひとつである。

彼らは、中国からの輸入品に関税をかければ国内製造業の操業が増えて自分たちが潤い、そのことが貿易赤字の減少という形で確認できる、と認識している。というのも、大統領選挙の間、トランプがそう訴え続けてきたからだ。

「この先、すでに出ている鉄鋼とアルミの関税が始まると、トランプ政権に対して米国内のあらゆる業界から猛烈なロビー活動と献金合戦が展開されるでしょう。それに応じて、関税をかける品目が拡大していく可能性は高いと思います。

日本にとって一番怖いのは自動車ですが、日本はコメの輸入に対して200%を超える関税をかけているので、その報復があるかも。機械や電気機器なども可能性が高そうで、日本が強い建機や産業用ロボット、半導体製造機械といった稼ぎ頭にまで及ぶかもしれません」

■日本国民の生活に影響はある?

気になるのはトランプ関税による生活への影響だ。熊野氏が続ける。

「まずは米国民の生活から考えると、やっと落ち着いてきたインフレが再燃する可能性があります。その経路はふたつで、まずは輸入物価の上昇と、代わりに割高な国内産品を購入するコスト。

そしてもうひとつは、関税によって上がった税収が減税に回されて、米国の消費が盛り上がり、景気過熱によってインフレになる経路です。これは日本にとってはマズい話で、米国のインフレが日本に飛び火するリスクがあります」

その経路は少し複雑だ。まず、米国内のインフレによって米国の金利(長期金利)が上昇する。すると、世界のマネーは金利の低い国から高い国へ移動するので、円が売られてドル高円安になる。

結果、日本の輸入物価が今以上に上昇し、エネルギー価格と食料の価格が上がってしまう。これが、トランプ関税で想定される最悪の帰結だ。

「さらに恐ろしい話ですが、われわれの賃金にもトランプ関税が影を落とすかもしれません。

春闘の回答が出る3月中旬までに自動車・電気・機械などの分野でトランプ関税が拡大したり、米国向けの自動車工場があるカナダ・メキシコに対する関税が行なわれたりした場合、賃上げムードがトーンダウンする展開も考えられます。そうなれば、ほかの業種や中小企業の賃金にも波及することは避けられません」

佐藤氏も、米国のインフレ再燃が問題だという点で熊野氏に同調。その上で、インフレからの金利上昇の影響が、米国株式の下落を通じて日本経済に及ぶリスクを懸念する。

「米国は今、利下げが小休止に入っている段階ですが、インフレ再燃によって利上げに引き戻されるのではと懸念されています。金利上昇は株価に対しては大きなマイナスで、米国株の暴落が起きかねない。

そうなったら、日本でもNISAで米国株や全世界株に投資する金融商品を一生懸命積み立てている人が、大きな含み損を抱えるかもしれません。

米国株安は日本企業にも影響が出ます。保険会社などの金融機関が金融投資で含み損を抱えれば、ビジネスへの影響は甚大です。また、株安によって米国経済が混乱すれば、米国に進出している日本企業が痛手を受けることに。結果、日本の景気が揺さぶられる可能性は低くないと思います」

日本にも暗雲がのしかかっていることはよくわかった。結局のところ、トランプ関税は「勝者なき戦い」なのだろうか? 熊野氏にまとめてもらおう。

「世界経済規模で見ると、米国の消費が拡大して景気が良くなる可能性と、ガチンコで対決する中国の経済が悪くなる可能性があります。

今年はこのふたつの綱引きがどちらに出るか、というところでしょう。いずれにせよ、日本にとってはマイナスが大きく、ポジティブな影響は考えにくいですね。

最もダメージが大きいのは中国で、次いで米国との貿易額が大きいカナダ、メキシコ、EU。日本はこれらの国々よりはマシ、という程度でしょう。唯一プラスになる可能性があるのが米国ですが、そうならないための対策を石破政権には期待したいですね」

つまり、重要なのはトランプ政権とのディールだということになる。そのポイントを鈴木氏に聞いてみよう。

「気をつけないといけないのは、米中関係のあおりを日本が食らわないようにすること。米中の対立が深くなってきたときに、トランプが日本に圧をかけて、防衛費の増額や尖閣諸島周辺での存在感アップを迫ってくるかもしれません。

それをプレッシャーに中国と裏で交渉して、妥結した途端に日本ははしごを外され......なんて展開すら考えられます。石破さんは防衛が専門ですから、経済面での協力をダシに安全保障で緊密な関係を築くことが、今できる最善手という気がします。

同時に、トランプは強いリーダー像に弱い。政治的に対立するプーチンや習近平にだって一目置いています。こうした威厳のある為政者像を石破さんが演出できれば、交渉にはプラスになるでしょうね。そのためには7月の参院選が試金石になると思います」

結局のところ、関税バトルで最後に笑うのはアメリカ。「脅したもん勝ち」の世界なんてバカげている。石破首相には今回のような、周到で巧みなディールを期待したい!

取材・文/日野秀規 写真/共同通信社

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