写真「最近、遠くは見えるのに、手元が見えづらい」
そのように感じる人、それは老眼の典型的な症状です。40歳を過ぎると、多くの人が老眼の症状を自覚し始めます。
また、最近はスマートフォンやタブレットを長時間見ることで若い人も老眼のように近くのものが見えにくくなる「スマホ老眼」も増えています。
そこで、真鍋眼科院長で書籍『一生目が見える人のすごい習慣』の著者でもある眼科医、緑内障専門医・真鍋佑介先生に「老眼の対処法」と「かえって目を悪化させる習慣」について聞きました。
(本記事は、『一生目が見える人のすごい習慣』より一部を抜粋し、再編集しています)
◆老眼は早期対策が肝心! 40代から知っておきたい老眼の対処法
「老眼」とは、加齢に伴い、近くのものが見えにくくなる症状です。
真鍋先生によると、“読書やスマホの画面を見るとき、近くがぼやける。遠くを見た後に手元など近くを見るとピントが合うまでに時間がかかる”、“眼鏡やコンタクトを外したほうが手元が見やすい”。これらが老眼の初期症状です。
「老眼は、目の中でレンズの役割を果たす『水晶体』の弾力性が失われることで起こります。
私たちはものを見るとき、水晶体の周りにある『毛様体筋(もうようたいきん)』という筋肉を使って、水晶体の厚みを変えることでピントを調節しています。
若い頃は、水晶体に弾力性があるため、毛様体筋が緊張すると水晶体は厚くなり、近くのものにピントが合います。
しかし、年齢を重ねるにつれて、水晶体は徐々に硬くなり、毛様体筋が緊張しても、水晶体が十分に厚くならなくなります。その結果、近くのものにピントが合わず、ぼやけて見えるようになるのです。
毛様体筋自体の機能は、ほとんど低下しないことがわかっているので、老眼の原因は水晶体の弾力性が失われてしまうことにあります。
水晶体の主成分はタンパク質であり、一度硬くなると、元の柔軟性を取り戻すことはできません。
そのため、目を動かす運動や自律神経を改善させるマッサージ、老眼を改善させるとする薬やサプリメントも水晶体には効果がありません」(以下、すべて真鍋先生)
◆ピント調整力の低下は20代から始まっている!
老眼を自覚するのは40歳頃からであることが多いですが、実はピント調節力の低下は、20代から始まっていると真鍋先生は言います。
生活のほとんどが家の中やデスクワークの人は30代から、あえて少し弱めの度数設定(低矯正)にしておくことで、将来的な老眼対策になる可能性があります。
「老眼は誰にでも起こりうる、加齢に伴う自然な現象です。老眼に気づいたときは早めに老眼鏡や遠近のコンタクトレンズに慣れていきましょう。老眼だということを自ら認め、眼科へ相談に行くことが大事!
老眼を治すことはできませんが、適切な対策を講じることで、快適な視生活を維持できます。老眼が進んでから度が強い遠近の眼鏡やコンタクトをしても見え方に慣れない場合があります。そして、実は老眼ではなく緑内障が潜んでいることもあります。
40歳を過ぎてから目が見えにくくなった場合は、要注意です」
◆そのマッサージ、危険かも! 眼球を押すのは絶対NG
次に「かえって目を悪化させる習慣」について、真鍋先生に教えてもらいました。
パソコンやスマートフォンを長時間使用した後など、目が疲れたときにマッサージをすると、一時的にスッキリしたような感覚を得られることがあります。
しかし、そのマッサージ、本当に目に良い効果をもたらしているのでしょうか。間違った方法で行うと、かえって目を傷つけてしまう危険性があると、真鍋先生は警鐘を鳴らします。
「目の周りには、多くの筋肉が存在します。これらの筋肉は、私たちがものを見る際に、常に働いており、特に近くのものを長時間見続けると、緊張状態が続き、疲労が蓄積します。
目の周りを優しくマッサージすると、これらの筋肉の緊張がほぐれ、血行が促進されます。
血行が良くなることで、目の周りに溜まった疲労物質が排出されやすくなり、一時的に疲労感が軽減されることがあります。また、マッサージによるリラックス効果も、疲労回復に役立つ可能性があります。
しかし、ここで注意しなければならないのは、目の周りのマッサージによって、視力が回復したり、近視や老眼、白内障や緑内障などの眼疾患が治ったりすることは、医学的には証明されていないということです。
目の疲れの主な原因は、目の周りの筋肉の緊張や血行不良です。マッサージは、これらの症状を一時的に緩和する効果は期待できますが、視力低下や眼疾患の根本的な原因を解決するものではありません」
◆目の疲れを感じたときは目を温めるのがおすすめ
特に注意が必要なのは、眼球そのものを直接マッサージすることだと、真鍋先生は言います。
「眼球そのものを直接マッサージすることは、非常に危険な行為であり、絶対にやめてください。目をこすることも、目の健康にとっては良くありません。目をこすると、角膜が傷つき、角膜炎の原因となります。
また、アトピー性皮膚炎の人は、目をこする頻度が多いので白内障や網膜剥離のリスクが高まることが知られています。さらに、目をこするとまぶたの皮膚がたるみ、美容上の問題を引き起こす可能性もあります。
目を強くぎゅっとつむる行為も、できるだけ避けましょう。強度近視の方は、眼球が長く、網膜が薄くなっているため、眼球への圧迫によって網膜に負担がかかり、網膜剥離などのリスクを高める可能性があります」
目の疲れを感じたときは、マッサージよりも、目を温めるほうが効果的だそう。目を温めることで、血行が促進され、筋肉の緊張がほぐれ、疲労物質が排出されやすくなります。また、温めることによるリラックス効果も期待できるようです。
◆寝ていたら緑内障に!? 睡眠が回復ではなく、悪化になることも
良質な睡眠は、心身の健康維持に欠かせないものですが、実は「目の健康」にも深くかかわっています。
あまりよく眠れていないと感じている人は睡眠の質が悪く、目の疲れやドライアイなどの症状がなかなか回復しません。
「現代人にありがちですが、寝る直前までパソコンで作業をしていたり、ゲームで遊んでいませんか? ベッドに入ってからもスマホを見続けていることはないですか?
ブルーライトを含む強い光を浴びてしまうと、脳がまだ昼間だと勘違いしてしまい、睡眠を誘うホルモンであるメラトニンが抑制されてしまいます。寝ながらスマホは暗い中での近業作業になり、近視にも悪影響があります。
せめて寝る1時間前には電子機器の使用を控えることで、睡眠の質を上げることにつながります」
◆寝ている最中の体勢にも注意
また、真鍋先生によると、寝ている最中の体勢にも注意が必要だそうです。
「最も注意すべき睡眠習慣は、『うつぶせ寝』です。うつぶせ寝は、顔を下にして寝る姿勢ですが、この姿勢では、目が枕などに圧迫されることにより、眼圧が上昇する危険性があります。
実際、うつぶせ寝の際に腕を直接眼球に押し付けて寝る習慣の方が、若くして人為的に緑内障を発症してしまった方もいました。
人は体を横たえると眼圧が上がりますが、うつ伏せは眼球を直接圧迫し、眼圧上昇のリスクにつながる可能性があるため、緑内障の患者さんは避けるべき寝方と言えるでしょう。
最もいい寝方は仰向けです。横向きでも良いですが、下側になっている目の眼圧は少し高くなります。左右で緑内障の進行が違う場合、右か左、どちらか偏った寝方をしているかもしれません」
◆睡眠時無呼吸症候群の人は、緑内障になるリスクが10倍!?
さらに、寝ている間なので自分では気づけないかもしれませんが、「睡眠時無呼吸症候群」の疑いがある場合は治療を受けてください。
睡眠時に呼吸が止まってしまうので、中途覚醒が多くなりますし、血中酸素濃度が下がるので、それが視神経に酸化ストレスを与えてしまうと真鍋先生が解説します。
「睡眠時無呼吸症候群の人は、緑内障になるリスクが10倍になるといいます。睡眠時無呼吸症候群の治療にはCPAP(持続陽圧呼吸療法)があります。
低酸素状態が続くと、目だけではなく体全体の不調につながるので、早めの治療をおすすめします。
夜、寝るときくらいは好きにしたい、という気持ちもわかります。しかし睡眠のバランスが崩れるとゆっくりと体も脳も不調に傾いていきます。毎日、質のいい7〜9時間の睡眠が取れるよう、習慣を見直してみましょう」
<文/真鍋佑介 構成/女子SPA!編集部>
【真鍋佑介】
真鍋眼科院長。「近視予防を広めたい」という意思から眼科医を志し、2015年から岐阜大学病院の眼科医として長年分野を問わず疾患の診療をしてきた。後に緑内障専門医として診療と研究に従事する。2021年から真鍋眼科に勤務。なんでも相談できる「かかりつけ医」をモットーとして患者を支えている