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保険会社で営業マンとして働くAさんは、妻と2人の子どもに恵まれた家庭を持つ40代の男性です。平日は遅くまで仕事に励み、土日は家族との時間を大切にしていました。仕事面でも順調で、周囲からは将来の所長候補として期待されています。
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そんなある平日、珍しく早めに仕事を切り上げ、Aさんは家路につきます。久しぶりに家族と夕食を共にできると、心が弾んでいましたが、家に帰り着いたAさんを待っていたのは、思いもよらない光景でした。
玄関を開けると、いつもなら聞こえるはずの妻の「お帰りなさい」の声がありません。リビングに向かうと、そこには子どもたちだけがいました。妻の姿が見当たらないことに違和感を覚えたAさんは、子どもたちに妻の居場所を尋ねました。
子どもたちの答えは、妻は定期的に外出しており誰かと会っているというものです。子どもたちは、母親から「パパには内緒よ」と言われていたと明かしました。
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動揺を隠せないAさんは、妻の帰りを待つことにしました。数時間後、玄関の鍵の音が聞こえ妻が帰宅しました。いるはずのない夫の姿を見た妻は、驚きと戸惑いの表情を浮かべました。
Aさんは妻に真相を問いただしました。妻は初め言葉を濁していましたが、追及されるうちに、妻は同性の女性と恋愛関係にあることを告白したのです。
さらに驚くべきことに妻は「同性なんだからいいじゃない!」と主張します。この言葉にAさんは言葉を失いました。妻の行為は本当に不貞行為に当たらないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
ー同性同士でも不貞行為に当てはまるのでしょうか
同性間の不貞行為が法的に認められるかどうかは、長年議論されてきた問題です。2021年の東京地裁判決を契機に、司法判断が大きく前進しました。
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2021年2月16日の東京地方裁判所判決にて、妻と女性の不倫相手を訴えた事案で「性交類似行為があれば同性間でも不貞行為に該当する」との判断が示されました。挿入行為を伴う性行為に限られず「婚姻生活の平穏を害する行為であれば、性別を問わず不貞行為と認める」と示され、妻の不倫相手である女性に慰謝料の支払いを命じています。
ー同性相手の不貞行為でも離婚事由になるのでしょうか
不貞行為として認められれば、相手が同性であっても異性であっても同様に離婚事由として認められるでしょう。離婚手続きも異性間の場合と同様の法的枠組みで進められます。
最初に、夫婦双方で話し合い「協議離婚」を検討します。話し合いでまとまらない場合は家庭裁判所に調停を申し立て「調停離婚」、それでもまとまらなければ「裁判離婚」の流れで進みます。
裁判で離婚が認められるには「法定離婚事由」(民法第770条第1項)が不可欠です。今回、性別を問わず不貞行為と認められると判断されたことで、法定離婚事由と判断される可能性が高いです。
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Aさんの妻が言う「同性だから不貞行為ではない」という主張は、認められないので注意しましょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)