大人のキッザニア「6年ぶり解禁」で大盛況 楽しいだけじゃない、熱中の裏側

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2025年02月23日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「大人のキッザニア」開催現場に取材した

 「自分では入れないような、あこがれの会社。ちょっと経験してみたかった」――ふだん食品系企業に勤める女性は、「大人のキッザニア」で伊藤忠商事の仕事を体験した後に笑顔でこう話した。


【画像14枚】異様な光景? キッザニアに「大人」しかいない……ミニチュア職場でイキイキ働く人たち


 キッザニアといえば、子ども向けの職業・社会体験施設だ。もともとメキシコで始まり、日本に上陸したのは2006年。「ららぽーと豊洲」にオープンした。以来、兵庫県と福岡県にも展開し、現在は国内3施設が営業している。今回、16歳以上を対象として久しぶりに大人のキッザニアを開催した。


 コロナ禍もまたいで約6年ぶりで、2〜3月にかけてキッザニア東京、キッザニア甲子園、キッザニア福岡でそれぞれ2回、計6回を実施中だ。詳細な人数は非公表だが、担当者によると先着順の申し込みはいずれも早期に完売したという。


 もともとキッザニアといえば、教育(エデュケーション)とエンターテインメント(楽しさ)を掛け合わせた「エデュテインメント」として、職業体験を中心に社会の仕組みを学ぶ施設だ。言葉を換えれば「ふだんは経験できない、大人の世界を学べる施設」である。その施設に大人がこぞって来場するのは奇妙な逆転現象にも映る。


 なぜ大人もキッザニアに熱中するのか。現地を取材した。


●さながら遊園地 走って「仕事を確保」する人も


 2月20日、ららぽーと豊洲の3階は、午後3時ごろから徐々に熱気が生まれ始めていた。キッザニア東京として、2月13日に続いて2回目の開催となる大人のキッザニア。開始する午後4時を前にして、既に多くの人が待機している。フロア内の他施設への影響を考慮し、行列こそできていないものの、さながら遊園地のアトラクションを待つ人たちのような雰囲気である。


 午後3時半ごろに開場すると、中には駆け足で目当てのアクティビティ(キッザニアでの仕事のこと)まで急ぐ人もちらほら。その姿は、かつて東京ディズニーリゾートが導入していた「ディズニー・ファストパス」をゲットするため、開園後にパーク内を走り回る人が多かったのを想起させる。


 内部が夕暮れ時のように薄暗いのも、非日常感の演出に一役買っている。キッザニアの広報担当者によると、ふだん子どもたちが自由に活動できない夕方〜夜時間帯をイメージした演出なのだとか。


 ふだんは3〜15歳が対象であるキッザニア。大人のキッザニアでは16歳以上が対象ということもあって、制服を着た高校生や20代、もっと上の年代と思しき人もちらほらと、客層が幅広い。とはいえ、体験の内容は基本的に子ども向けである通常営業から変えていないという。


●「子どもだましは通用しない」 ゲームもピザも、本格派


 キッザニア東京の内部は2フロア構成になっており、中に入ってまず目に入るのは「おしごと相談センター」。リクルートキャリアが出展しており、タッチパネルやタブレット端末を使いながら、施設内のアクティビティを検索できる。


 その横には任天堂がスポンサーの「ゲーム会社」も。ここではゲームの作り方を学ぶ。音声や障害物といったオリジナリティーを加えて、実際にゲームを作るアクティビティだ。キッザニアでは通常、仕事体験をすると独自の園内通貨「キッゾ」をもらえるが、このブースではオリジナルゲームのパッケージを持ち帰ることができる。


 任天堂のように、通貨以外の“お土産”があるブースは数多い。フォーシーズがスポンサーのピザーラブースでは、生地の成形からトッピングなどを体験するとともに、焼いたピザを持ち帰りできる。


 キッザニア東京内には全体で約100種類のアクティビティがあり、他にも銀行やコールセンターといったさまざまな仕事体験が可能だ。いずれにも共通するのが「本物志向」。子ども向けとはいえ必要以上にデフォルメせず、実際の仕事や社会に近い体験となるように工夫しているという。


 「国内でキッザニアを始めた“創業者”ともいえる住谷栄之資は常に『子どもだましでは通用しない』『本当のものを届けることが重要だ』と話しています。子どもといってもキッザニアの対象は15歳までですし、中学3年生ともなれば大人とそう変わりません。そうした層でも満足できるようなプログラムになるよう、スポンサー企業とすり合わせながらアクティビティを設計しています」(担当者)


●「大転職時代」のリスキリングにも有効?


 大人もキッザニアに熱中するのは、本格的なアクティビティや、楽しく学べるからだけではない。例えば、前回開催した2019年からの約6年に、リスキリングや転職が一般化した。


 終身雇用制度が揺らいでおり、人生100年時代ともいわれる昨今、働く個人は1つの企業に固執せずに転職が当たり前になりつつある。総務省の労働力調査によると、2024年の転職者数は331万人で3年連続の増加。2019年の353万人をピークに、コロナ禍で落ち込んだ数字が回復基調にある。転職希望者も2023年から8年ぶりの減少となったものの、1000万人台をキープしている。


 まさに「大転職時代」といえる中で、働く個人は会社を問わず活躍できるように自分のスキルを磨く必要がある。こうした背景もあって、リスキリングがバズワード化した。


 しかしながら、リスキリングではどうしても現在の仕事の延長線になりがちだ。リクルートマネジメントソリューションズが2024年3月に公開した調査結果では、過去1年における新たな知識・スキルを学ぶ機会について、現在の仕事と関係ないものほど「なかった」と回答した割合が高まっている。


 実際に、ふだんの仕事では経験できない体験を期待して大人のキッザニアに参加した人も少なくない。冒頭で触れた、伊藤忠商事のアクティビティに参加した女性はまさにその一人だ。ピザーラのアクティビティを体験した20代女性も「通常は1つの企業でしか仕事できないが、いくつも異なる経験ができていろいろな視点を勉強できる」と話す。


●スポンサー企業側のメリットとは?


 働く個人だけでなく、人手不足に悩む企業にとってもキッザニアは魅力的かもしれない。食品系企業に勤める女性は「直近で転職する予定はないが、今後転職活動を検討する際に『そういえば、キッザニアでこんな経験をしたな』と思い出すことがありそう」と話した。


 大人のキッザニアは16歳以上が対象であることから、高校生や大学生も多く参加していた。就職活動中だという大学生は「企業の説明会に参加しても、なかなか表面的なことしか聞けない。実際の仕事に近いアクティビティを体験することで、イメージしやすくなる」と話す。


 認知拡大を期待して出展する企業も少なくない。例えば、キッザニアは仕事だけでなく社会体験として、消費者側のアクティビティも存在する。2024年12月にリニューアルした大和証券グループのブースはその一つだ。


 株式投資について説明を受けた後、キッゾを使って架空の企業株式を購入・売却するアクティビティで、体験後は「リターン」と「取引明細書」を受け取る。投資未経験だという参加した高校生は「投資は楽しくなさそうなイメージがあった。アクティビティに参加して、ちょっと興味が出た」と話した。


 意外なところではCSR活動の一環として取り組む企業もある。バンダイが手掛ける「おもちゃ工場」では、空カプセルをリサイクルした材料を使ってカプセルトイを作る。2023年3月のオープン時に発表したプレスリリースで同社は「環境に配慮した商品を『つくる』体験により、サステナビリティへの興味・関心を持ってもらう契機となることを願っています」と述べている。


 超満員で熱気に包まれた大人のキッザニアだが、担当者いわく次回は未定。キッザニアはあくまで「子どもが主役」のスタンスを堅持する。


 「おとなのふりかけ」「大人のお子様ランチ」など、子ども向けがメインとされる商品やサービスを大人向けに切り口を変えて大ヒットするケースは数多い。そんな中、大人のキッザニアは、ほとんど装いを変えずにこれだけの大ヒット。さまざまな要因があるとはいえ「仕事」すら「娯楽」になる時代は、ちょっと不思議でもある。



このニュースに関するつぶやき

  • CAやアナウンサーなどがあれば、憧れていてなれなかった人に人気が高そうです。
    • イイネ!9
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