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第26節を迎えたプレミアリーグ。三笘薫所属のブライトン(11位)は菅原由勢所属のサウサンプトンと対戦した。開幕以来、勝ち点を9(2勝3分20敗)しかあげていない、最下位を独走するチームとのアウェー戦である。
三笘は前節のチェルシー戦でスーパーゴールを決めた。GKバート・フェルブルッヘンのロングキックを右足の甲でナイストラップ。4タッチ目にはゴールネットを揺らしていた。電光石火の一撃で、イングランドのみならず欧州全域にその名を轟かしたばかり。その余韻漂うなかで行なわれた一戦である。
その前に行なわれたFAカップ4回戦のチェルシーとの同一カードでも、三笘は決勝ゴールを決めている。それは今年に入ってから4ゴール目となるゴールだった。昨年はシーズンが8月にスタートしてから2ゴールに終わっていたので、ここに来て得点能力はめざましく上昇している。
それと反比例するように、左のウインガーとしての魅力は半減している。マーカーに対して縦を狙う動き、いわゆる"勝負"する動きは影を潜め、内へ切れ込む動きが大半を占める。それとともにゴールが急増しているので、その産物という見方もできるが、活躍の影で選手としての方向性が変わりつつあることも事実。このサウサンプトン戦の見どころでもあった。マーカーを縦に抜く動きと、ゴールに直結する動き。その割合に注目が集まった。
縦に抜こうとしたとき、サウサンプトンは5バックなので、マーカーは必然的に右のウイングバックになる。昨年11月29日に行なわれたブライトンホームでのサウサンプトン戦では、菅原が三笘の対面で構える文字どおりの日本人対決が実現した。三笘がその間隙を突きゴールを決めたが、菅原も健闘。サイドの攻防で押し返し、幾度か高い位置に進出。鋭い折り返しも決めていた。だが、およそ3カ月後に行なわれたリターンマッチのスタメンに、その名は見当たらなかった。4試合連続で菅原はベンチスタートとなった。
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【後半は三笘vs菅原に】
三笘はイングランド代表歴があるカイル・ウォーカーピータースと対峙することになったが、やはり1対1の勝負を積極的に挑もうとしなかった。ソツのない動きでブライトンの好守に貢献したが、見せ場は作れずにいた。極めて静かにプレーした。
だが、相手はプレミアの最下位チーム。三笘のプレーの傾向は、何も問題にならなかった。ブライトンは前半23分にジョアン・ペドロが先制点を決めると、後半11分にはジョルジニオ・ルターが追加点を奪った。決定機は得点シーンの倍以上あったので、試合はまさにブライトンの一方的ペースとなった。
菅原がピッチに登場したのは後半の頭から。前半ベンチに座っていた選手のなかでは、スタメンに近い選手であることは、前戦に続いてこの早いタイミングでの出場に表われていた。そこまで悲観することはない感じだ。
ポジションは通常どおり右のウイングバック。ベンチに下がったのはブラジル人の左ウイングバック、ウェリントンで、前半右ウイングバックを務めたカイル・ウォーカーピータースが左に回った。
三笘対菅原は後半開始から始まっていた。だが三笘は相変わらずだった。菅原に正面きって勝負を挑む機会はなかった。サイドアタッカーとしての魅力をアピールしたのはむしろ菅原のほうだった。
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後半10分にはCBアーメル・ベリャ・コチャップ(ドイツ代表)の縦パスを高い位置で受けると、推進力を活かし前進。鋭い折り返しを入れる。後半16分にはイングランド期待の若手、タイラー・ディブリング(U−19イングランド代表)とのワンツーで右サイドを抜け出すと、トップスピードに乗り、大外から最深部めがけて猛然と斜めにきれ込んだ。わずかにドリブルが大きくCKに逃れられたが、むしろ最近の三笘にはないウイング然としたプレーだった。
しかしその10分後、三笘はやはり役者としての格の違い見せつけた。それまでなりを潜めていた三笘が、真打ち登場と言わんばかりの、恐るべきスーパープレーを前節に続いて見せつけたのだ。
左CBアダム・ウェブスター(元U−19イングランド代表)からグラウンダーの縦パスが1トップのジョアン・ペドロに収まる2、3秒前、三笘は鋭い読みで自軍の深い位置から駆け出していた。ジョアン・ペドロがポストプレーを決めたのはその直後。トップスピードに乗った三笘の鼻先に、差し出すようなパスを出した。
ハーフウェイラインをわずかに超えた地点からゴールまでの距離はおよそ50メートルだ。その長い道のりを単独で駆け抜け、約6秒後にGKと1対1になるや余裕でゴールを決めた。
最後の直線を鮮やかに差し切る競走馬のような、胸の透く爽快なアクションだった。ランニングフォームは意外にも大股で、グイグイと加速する。だが身体のバランスは乱れない。背後から相手のCBジェームズ・ブリーに首根っこを捕まれるも、フォームが安定しているので、ボールタッチに乱れはない。正確無比なボールコントロールは最後まで維持された。シュートがまたクールだった。ふわりとボールを浮かす余裕を残していた。
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50メートルほどをトップスピードでドリブルしたうえで、あそこまで沈着冷静なシュートを打てる選手も珍しい。前節もすごかったが、今節もすごかった。前節のチェルシー戦のゴールは、日本人の欧州組がこれまで挙げた一番のゴールだった。とすれば、サウサンプトン戦で挙げたこのゴールは二番目に当たる。
ウインガー三笘はストライカー三笘に変身するのか。見たことのない世界へ向かっていることは間違いない。どこへ行く三笘、とは正直な感想である。
試合はブライトンが4−0で勝利。順位はひとつ上がり、チャンピオンズリーグ園内まで4ポイント差の9位となった。