【フィギュアスケート】「一回、全部捨てました」樋口新葉の変化と強さ 再び世界の舞台へ

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2025年02月24日 18:10  webスポルティーバ

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 2月23日に大会最終日を迎えた四大陸フィギュアスケート選手権で日本女子が表彰台を逃した。2007年以来、18年ぶりの悪い結果となった。

 そんななかで、2023年に休養して昨季復帰した樋口新葉が、久しぶりの大舞台で復調の気配が見える演技を見せ、目標の200点には届かなかったものの、合計195.16点の総合5位で日本勢トップになった。

 昨年のGPシリーズ2大会で優勝と2位になり、12月末の全日本選手権でも3位に食い込んだ樋口は、5年ぶりに四大陸選手権出場。また来月、アメリカ・ボストンで行なわれる世界選手権には3年ぶり4度目の代表入りを果たしている。

 久々のチャンピオンシップ大会の出場となっただけに、樋口はショートプログラム(SP)もフリーも緊張を隠せなかった。

 21日のSPでは冒頭のダブルアクセル(2回転半ジャンプ)を軽快に跳んだが、続く3回転ルッツでステップアウトして連続ジャンプにできなかった。それでも、最後の3回転フリップに急遽、3回転トーループをつけることができ、何とか大幅な減点を回避して体裁は保った。

 見せ場のステップでは動きにメリハリがあり、流れもよく表現力を発揮。ジャンプミスが出たこともあり、合計65.10点の7位発進と出遅れるも、樋口本人は演技後の記者との囲み取材では、むしろあっけらかんとしていたのが印象的だった。

「今日すごく緊張していて、練習とはまったく違うし、グランプリとも違う緊張感だなと感じました。シーズン前半に比べるとすごく楽に大きな演技ができているかなと思うんですけど、今日は緊張していることが自分でもわかっていたので、動きが小さくなりがちな滑りでしたが、前よりは底上げができていると思います。

 3回転ルッツのミスは、練習でもなかなかなかったミスだったので、ちょっと悔しいなと思ったけど、後半の3回転フリップに回転不足を取られたものの3回転トーループを跳んだコンビネーションをつけられたのはよかったかな。ミスがあったジャンプの点数だけで、あと5、6点は上げられると思うので、逆にそこだけミスしてしまったことがすごく悔しいです。レベル4を全部取ったなかで、レベルプラスGOEが取れるスケートがしたいなと思います」

 戦っていけるという手応えをつかんでいたようだ。

【大きかった1年間の休養】

 23日のフリーでも、SP同様に後半の3回転ルッツで転倒、ふたつのジャンプで「q」マークがつく回転不足を取られるなど、得意だったジャンプはまだ安定感を取り戻していない。それでも3つのスピン、ステップではすべてレベル4判定をもらうなど、シーズン終盤に入って演技に磨きがかかってきたことは間違いない。ジャンプの失敗がありながらも130.06点を出せたことも含めて、樋口本人はしっかり結果を受け入れていた。

「フリーは、6分間練習まではそんなによくなかったわりにはよくまとまっていたし、ジャンプの軸も悪くなかった。ただ、ちょっとスピードが足りなかったかなと思います。世界選手権まであと1カ月しかないので、プログラムを大きく変えることはないんですけど、すべての要素でGOEのプラスが取れるような質のいいエレメンツをしなければ、合計得点で210点から215点には持っていけないと思っています。

 この四大陸選手権は久しぶりの大きな大会で、世界選手権に向けて自信をつけられたらいいなと思って臨んでいる試合です。(経験できたことで)練習してきたことをそのまま大きな大会で出せるという自信をつけたいですね」

 2018年の平昌五輪では、あと一歩のところで五輪代表の座をつかむことができなかった。それからの4年、五輪出場を目指して戦うなかで、しだいに樋口から屈託のない笑顔が消えていき、こわばった表情を見せるようになっていた。そして悲願の出場を果たした北京五輪では、団体ではメダルを獲得し、個人のシングルでは5位入賞を飾って「大きな達成感を味わった」。だが、それによりモチベーションが低下し、1シーズンの休養を取ることになる。

 この休養が、乾ききった樋口の心に、再び潤いとゆとりを取り戻すきっかけとなった。3歳で始めたスケートを滑る楽しさを思い出すことにもつながり、ガチガチに縛られていた自分を解放することができた。そんな変化が、樋口を再び世界の舞台に引き寄せたのだろう。

「全部、どうでもいいという気持ちになって(笑)、いろいろと神経質にやってきたことが全部、どうでもよくなったことが、すごく大きく変わりました。神経質に取り組むこともやめて、必ずこれを食べるとか、必ずこれをやるとか、こっちから靴を履くとかのルーティン(作業)もやめました。いろいろ決めていたことを一回、全部捨てて、『まっ、どうにかなるかな』という気持ちで臨めるようになりました。

 以前は考え過ぎちゃうこともあり、『誰かがここに立っていたら(演技が)できない』とか、本当にかなり神経質だったんですけど、それがなくなったなと思います。適当にというか、そのときによって自分が変われるように合わせるというか、そういう感じになりました。たぶん、競技会に復帰した2年前からです」

 樋口は、はちきれそうな素の笑顔で目をキラキラ輝かせながらそう語った。何事にも動じなくなったことは、戦ううえで強さになりそうだ。世界選手権では、2018年大会で堂々の2位になっている樋口が、表彰台争いに加わる可能性は高いのではないか。

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