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暦の上では春になりましたが、まだまだ冬らしい日々が続いていますね。寒さで底冷えした体をお風呂で温めるのは気持ち良いですが、週末は温泉に行きたくなる方も多いと思います。さらに、地元のおいしい名物に舌鼓を打てれば言うことなし、ですよね。寒さが厳しいこの季節は、脂の乗りがよく、水温の低さから鮮度も保たれ、魚介類がおいしくなるといわれています。
今回は、新潟県の瀬波(せなみ)温泉にある「温泉民宿きくもと」をご紹介します。こちらは、よく温まる温泉と、新鮮な魚介類を豪華な舟盛りで堪能できる、アットホームなお宿です。
山形県との県境に位置する、新潟県村上市に湧く瀬波温泉。海沿いに形成された温泉街は、十数軒の旅館やホテルが並び、日本海に沈む夕日がきれいなロケーションです。10階建て以上の大型旅館やホテルが目立ちますが、家族経営の小さな宿も数多く残っています。今回ご紹介する「温泉民宿きくもと」も、その一つです。
温泉街を縦断する県道から、1本それた路地沿いにある「温泉民宿きくもと」。民宿らしい素朴な一軒家で、家庭的なご主人と女将(おかみ)さんが温かく迎えてくれます。なんだか田舎の親戚の家に帰ったときのような雰囲気。全5部屋の客室は、昔ながらのシンプルな畳敷きで、気負わずにリラックスして過ごすことができます。
お風呂は、男女別内湯のみ。白いタイル張りの明るい浴室には、5人ほど入れるサイズの浴槽が一つの、シンプルなつくりです。湧出時は100度近い源泉を、加水せずに掛け流す湯船は、湯量調節のみ。常に熱めの適温に調整されていて、とてもありがたいです。湯船からあふれ出した源泉の流れる床は、赤茶に色づき、析出物で少し盛り上がり、温泉成分の濃さを感じさせてくれます。
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泉質は、ナトリウム−塩化物泉。ほんのり茶色に濁るお湯は、石油のような「アブラ臭」に、硫黄と潮っぽさがミックスされた芳醇(ほうじゅん)な香りです。舐(な)めてみると、程よいうま塩ダシ味に、海を感じる風味が相まって、「あら汁」のような味わい。温泉に身を沈めると、濃厚な成分に全身を包まれるような感覚で、ジワジワと体の芯まで温まり、湯上り後もずっとぽかぽかでした。
楽しみにしていた夕食は、日本海の海の幸を使った舟盛り、ホタテとカニのトマト煮、塩引き鮭の酒びたし、新潟県産コシヒカリのご飯、カニのみそ汁などが、食卓を彩りました。
そんな食事のハイライトと言えるのは、「舟盛り」です。ワラサ、マグロ、ツブ貝、エビ、タイ、サケ、サーモンハーブ、アジなど、地元で水揚げされた10種類以上の新鮮なお刺し身がひしめき合っていて、華やかなビジュアルは、舟盛りの豪華客船といった感じでした。味はもちろん言うことなしの大満足。これを肴(さかな)に飲む地酒も格別でした。
瀬波温泉は1キロ以上のロングビーチもあり、海水浴を楽しめる夏も人気ですが、よく温まる塩化物泉や、身が締まり脂の乗った海鮮を堪能するなら、寒い時期に訪れるのが、おすすめです。
今回ご紹介した「温泉民宿きくもと」では、そんな温泉とお食事に加え、気兼ねなくくつろげるアットホームな雰囲気を味わうことができます。
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【瀬波温泉 温泉民宿きくもと】
住所 新潟県村上市瀬波温泉2-9-21
電話番号 0254-52-2739
【泉質】
ナトリウム−塩化物温泉(低張性 アルカリ性 高温泉)/泉温94.2度/pH:8.7/湧出状況:動力/湧出量:234リットル/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し
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【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。