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DeNAの関根大気外野手(29)が野球とビジネスの“二刀流”という異例の挑戦をスタートさせてから約4か月が経った。関根は昨年10月、横浜市磯子区に児童発達支援・放課後等デイサービス『グローブ』を開所。自身も2人の子どもの父親で、「より子どもの存在が身近になった」こともきっかけだが、この異例の挑戦の裏側にはチームメイト・筒香嘉智(33)の存在があった。(第1回/全2回)
【写真を見る】DeNA・関根大気「人としての部分を何年もかけて教えてもらった」野球とビジネス"異例の二刀流”の裏に筒香嘉智の存在
Q.『グローブ』の事業内容を具体的に教えていただけますか。
関根大気選手:二つの事業に分かれていて、午前中に「児童発達支援」、午後に「放課後等デイサービス」を行う形になっています。「児童発達支援」というのは、障がいのある子ども、またはその可能性がある子どものうち、 就学前の幼児を対象としたサービスです。一人一人の特性に合わせて個別支援計画をつくり、 日常生活に必要な基本的な動作の習得や集団生活への適応など、いろいろな面から支援を行います。「放課後等デイサービス」も内容は基本的に同じですが、こちらは小学生から高校生までの就学児が対象です。
Q.関根選手の具体的な業務内容はなんですか。
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関根:会社の代表をしていて、いろんな選択肢があるところの意思決定をさせてもらっています。日々管理者さんと連絡していますし、お金の流れも。チームで動いてるところをみんなで連絡し合っている感じです。
Q.まだ走り出しだとは思うんですけど、スタートしてみて、現状の課題や感想などあれば教えてください。
関根:未就学児対象の児童発達支援の認知を進めていかないといけないなと感じております。この幼児さんに対する療育の重要性は、早期から療育をスタートすることです。発達のでこぼこにいち早く気づき、お子さんにあった支援をすることができる。早ければ早いだけお子さんの特性に気づいてあげられるので、その子にあったいろいろな支援ができる。信頼関係を構築した上で支援ができる。その必要性をどのように皆さんに伝えて、児童発達支援に来てもらえる一歩目を作れるかというところはすごく課題です。
Q.『グローブ』を立ち上げるに至った経緯やきっかけを教えていただけますか。
関根:僕がプロで7. 8年目くらいのときに、高校の同級生たちは社会人として日々もまれながら成長していることを感じました。僕は野球だけをしてきてたので、彼らが会話の中で当たり前のように使っている言葉を知らなかったんです。「僕って何も知らないんじゃないか」って思う時期があって、その時に「学ばないと人としての価値がないよね」って自分の中で考えました。まず本で学び始めて、その後自分から受講しに行った「アスレチカアカデミー(athletica academy)」というところがあって。そこではビジネスのことや自分自身をより深く知るための方法など多方面にわたり教わることができて、それを日常でも使うことを大切にしていました。僕は野球のときにノートを書くんですけど、そこで学んだことを実践し、ノートの書き方が変わっていって。2023年シーズンになんとかヒットを打てて(キャリアハイの126安打)「学んだことを野球に転用して活きることがあるんだな」って、自分の中だけですけどちょっとした成功体験を感じられたのは大きかった。「実はこれってどんなことでも考えたうえで、行動に移したら野球にも多く繋がるんじゃないか」って。そんな中で、親しくしている経営者の西山一生さんという方から事業の提案がありました。「大気さんの今までの経験を、未来ある子供たちに還元できるビジネスができたらいいですね」って西山さんに言っていただいて、そこからお子さんだったり、未来に対してのことだったら、今からでもできることがあるのではないかと思いました。今回の療育施設の課題、現状をいろいろ調べていく中で、施設数とか子どもの数とか、施設に通いたいけど通えない人の数とかを見たときに、その人たちが施設に通えるようになることで、子どもたちや親御さんにとってプラスになる。それってすごく地域に貢献できるし、今の自分でも挑戦できるんじゃないかっていう前向きな気持ちで動き始めました。
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Q.「野球のノートの書き方が変わった」と言っていたがどう変わった?
関根:短い言葉で書く能力がその学びをしてから増えた。例えば今まではダラダラと「うまくいかなかった」とかの気持ちの部分を書いていたんですけど、次に見返したときに「うまくいかなかった」だけじゃわからないじゃないですか。だから、「ストレートを待ってた中で、カーブがきた」、そのときに「肘が伸びないまま対応したかった。しかし今回はボール2個分拳が体から離れて肘が伸びたから」とか、そういうふうに具体的に書けるようになりました。改善策まで書くので、次の打席は具体的に「こうしていこう」まで。ノートを書く書き方も変わりました。
Q.昨年は第二子ご誕生と、ご自身にお子さんがいることもこの事業を立ち上げるにあたってやっぱり関係してますか?
関根:そうですね。もともと子どもは好きでしたけど、自分の子どもが生まれて、より他の子どもたちもかわいく見えてきたというのはありますね。より子どもの存在が身近になった。自分の子どもももちろんなんですけど、他の子どもがすごく身近になったっていうのは大きいですね。
Q.関根選手が子育てで大事にしてることや育児に対しての思いは?
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関根:学びながらですけど、丁寧な言葉を使うようにはしてます。「これやりたくない」って言ったら、「なんでやりたくないの?」だったり、「どうしてそう思うの?」、「どうしたらやりたくなるの?」とかいろんな方向から丁寧な言葉を使ってっていう時間を大切にしてます。「イヤイヤ」って言ったりすることもあるので、そういうときに頭ごなしで「じゃあもうこうしない」とかじゃなくて、幅を持たせながら丁寧な言葉で。あとは単純に僕が好きなだけかもしれないですけど、ボディタッチ含めてハグもするし、チューもする(笑)、彼(関根選手の第一子)に対してはいつも距離を近く過ごすようにはしてます。
チームメイト・筒香嘉智の存在「何年もかけて教えてもらった」Q.スポーツ選手の方もお子さんがいらっしゃる方はいっぱいいて、その中で次世代の子どもたちに向けてのビジネスや事業を立ち上げてる人がいると思うんですけど、誰かに影響を受けたり、このビジネスを立ち上げるにあたって相談した人はいますか。
関根:コンサドーレ札幌のゴールキーパーで元日本代表の菅野孝憲さん(40)という方。菅野さんも北海道でこの事業(児童発達支援施設)をやられていて、一回見に行かせていただいたりもしたんですよ。現役の選手でっていうところはすごく参考にさせてもらいましたし、いろんなことを話させていただいた。あとは、自分のチームの筒香(嘉智、33)さんもそうです。筒香さんとは一緒に自主トレをやらせてもらって、筒香さんの考え方含めて多くのことを共有していただいてきた。野球選手だけど、まずは人としての部分をもう何年もかけて声をかけ続けてくれた。野球の技術はもちろんですが、人としてや日常の過ごし方などをずっと教えてもらってて、それを還元してる姿も見てるので、さすがだなって。野球の技術を教えるところはあると思うんですけど、僕の見え方は、根本は多分そこじゃないような。もっと深いところをみて、子供たちや子供たちの未来、その本質のところに対して自身の経験含めて何とか還元しようって思ってやられているように感じる。すごく影響はありますね。
Q.筒香さんに何年もかけて人としての考え方を教えていただいたとありますが、どういうところに関根選手は共感して、どう感じましたか。
関根:例えばですけど、矢印の話。「ちゃんと自分の外に対して矢印を向けないといけない。人に対して矢印を向けて、自分だけに矢印を向けるな」っていう話で。ちゃんと相手に矢印が向いてるから返ってくる。チームメイトの関係もそれをするから良い関係になる。そのようなことをより具体的に言われるんですけど、結果それが野球にも繋がってる。野球からじゃなくて、日常のことが多いですね。日常のことで「大気、さっきのこうやってたけど、これって遅くない?」、「そこの前に動けてたらよくない?それって野球のときのあの場面と一緒だよね」みたいな感じです。
Q.すごく周りを見てる方なんですね。
関根:例えばでいうと、グラウンド整備。自主トレ時は自分たちで設営をします。設営をするときに先輩がボールを持っていたとして、気づいてから動くんじゃなくて先に準備していれば、先輩に「代わります」って言わなくて良いじゃないですか。「僕、代わります」っていう時点で遅いよねって。遅いから「野球でいうと打席での一瞬の遅れ、投球に対しての詰まりと繋がる。それを作ってしまったらもう打てないよね」って。また、例えば人と通路でぶつかることがあったとして、「これってまずもう見えてないよね、そうなる前に自分が引かないといけないよね、先に周りを見て相手を通したらそのようにならない」。ぶつかってから、「すいません」って言ってる時点で、遅いよねって話です。そのような視線や考え方、日常の部分と野球のつながりを丁寧に本当に根気強く言ってくださっていた。
Q.それが今の関根選手に活きてるみたいなことですよね。
関根:それは、すごくあると思います。野球もそうだし、何かを改善していくときの思考も、その物事が起きたことに対してだけじゃなくて、「これが起きたってことは、原因ってもっと前にあるよね」っていう思考にもしてくれました。野球でいうと、打席で打つときにインパクトのところがありますよね。インパクトのずれを改善しようとして、そこの部分だけ改善しても中々うまくいかない。良い結果が出るときはあっても稀かなと。インパクトの前にトップがあって、トップの前に構えがあって、構えの前にネクストでの時間があって、ネクストの前にはベンチでの準備時間があって、ベンチの前には練習があって、練習の前にはウォーミングアップがあって、アップの前には食事があって、さらに前には寝るがあって。じゃあどこを改善したら、っていうことですね。インパクトを作るのに、そういう日常の部分が含まれている。「こんなことも実は野球の一部だったよね」っていうのも、それも何年もかけて。「あ!」って結局気づくまでにめっちゃ時間かかったんですけど、言っていただいていたのは、いつもそういうことだった。
Q.それがビジネスにも繋がってる部分が。
関根:そうなんですよね、これを繋げていかないといけないと思いますし、これからいろんな課題が出てくると思うので。じゃあそこなのか、それとももっと前なのかっていう思考を。僕自身はそれですごくいろんな感情の面もそうなんですけど、いろいろ良い方向にいってるので、その考えを共有できたら、きっとスタッフの方にとっても良い引き出しになる。それが正解とは思わないですけど、一つの引き出しにはなると思うので、共有できたら嬉しいっていう考えではあります。
Q.筒香さんもそうだと思うんですが、この人のこの考え方が尊敬できるなみたいなのがある中で、関根選手はどういう人になりたいとか理想像はありますか。
関根:できることが僕には限られてる。ただそのような経験や思考を大切にしたいです。佐藤真澄さん(『グローブ』の児童発達支援管理責任者)と多く話し、理解を深めること、グローブスタッフ全員のことをしっかり考え、スタッフにとってもよい環境を作ることができる人間になりたい。なんか憧れとかはそんなになくて、周りにすごい人たちはいっぱいいるからそこから学ぶことは怠らず。そこから自分に持ってるもの、今あるものを今あるところに対してアプローチできるように取り組んでいけたら。必要なことを日々スタッフからや、筒香さんの言動からも学んでいるし。だから半径1キロとかをやるんじゃなくて、5メートルくらいの僕が手を広げたら届くところの人を・・・
Q.幸せにするために今動いているみたいな。
関根:事業って言ったら一気に遠く見えがちだけど、でもやれることは限られてるから、そこに対して日々頑張る。できないことがいっぱいあるから、ちゃんと頼ってやっていきたいです。