黒船スポーツ“ピックルボール”で下剋上なるか 日本人プレイヤーの“ガチ”強化始めました!グローバルトッププロ育成プロジェクトが始動【#1】

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2025年02月25日 17:01  TBS NEWS DIG

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米国発祥のラケットスポーツ「ピックルボール」が、日本でも徐々に人気が高まっているのをご存じだろうか。日経トレンディの2025年ヒット予測でも14位にランクインし生涯スポーツとして期待されるなか、テニス経験者らの競技転向も増え続けている。日本にこの競技を広めたのは長野県在住のアメリカ人“ダニエル・ムーア”、元全米チャンピオンだ。彼は、ようやく火がつき始めた“ピックルボール熱”をさらに昇華させようと「プロ選手」の育成に着手し始めた。そのプロジェクトをシリーズで追う。

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賞金総額300万円の強化試合も

アメリカでは約900万人がプレーし、“億プレイヤー”も誕生する注目のスポーツ”ピックルボール”は、女子トッププロの17歳、アナ・リー・ウォーターズの2024年の年収が300万ドル(約3億円超)と言われている。まさに“アメリカンドリーム”な競技だ。そんなアメリカ発祥の黒船スポーツは、日本国内でもテレビやメディアでの話題となることが増え、競技の認知は右肩上がりで広がっている。しかし、国内での競技人口はまだ1万人にも満たないだろう。プレー環境もなかなか整わない日本では、競技力の向上にも時間がかかる。元ソフトテニス・プロの船水雄太選手(31)はアメリカを主戦場として競技に専念しているが、そのような挑戦を続けられる選手は一握りしかいない。

全米で幾度もチャンピオンの座についた“ダニエル・ムーア”(36)コーチは、そのような日本の現場を見て、新しいプロジェクトに挑む決心を固めた。「海外でピックルボールに挑戦しようとする日本人選手は出てきたけど、アメリカで優勝できるレベルには届いていない。将来、海外で活躍する選手が日本中から出てきたら、応援しやすくなるし、日本のレベルを上げるために、僕はコーチングして若い世代を育てていく」。そこで、誕生したのが今回のプロジェクトだ。ダニエルと、プロテニスプレーヤーで長く日本代表としても活躍した藤原里華(43)コーチも参加。半年間の専門的なトレーニングで集中強化を図り、海外でも戦えるプロ選手を育成すると言うものだ。賞金総額300万円の強化試合も設け、選手のモチベーションアップもかかさない。単なるアカデミーでは終わらせず、国内の大会では必ず優勝者を出すんだとスタッフ陣は意気込む。参加選手たちへ明確な目標も与えて、フィジカル、メンタル、テクニカル、あらゆる面において本気の強化に取り組むのだ。

志願者には注目の14歳や元日本代表の55歳も

2025年2月15日、1度目のセレクション(トライアウト)が、横浜市戸塚区のKPI-PARKで開催された。晴天に恵まれ”ピックル”日和の中、30人を超えるチャレンジャーがエントリー。10代から60代と幅広いプレイヤーが集まった。競技を知ってから1年未満の選手も数多く存在。中にはまだ数回しかプレーしたことがないと語る選手もいた。プロをも目指そうとするプロジェクトのセレクションにおいて、競技歴が少なすぎるのには違和感も覚えるが、その場に現れたのは、他競技ではずば抜けた実績を残していたり、フィジカル的には申し分のないアスリートたちであった。一様に、ピックルボールで世界と戦いたいとの強い想いを秘めていた。

セレクションのメニューは、基礎練習に加えダブルス、シングルスを行う3時間弱のプログラム。この日は朝9時から始まり3回のトライアルが実施され、全て終了したのは18時。ダニエルは「自分は全くプレーしないのに、こんなに長くコートに立つことはなかった」と笑った。

プロジェクトが動き出し、挑戦者募集からわずか1か月でセレクションは行われている。初日の朝一番枠への応募者は5人と少なめだったが、少数であったことが逆に緊張感を高めていた。ダニエルコーチの顔見知りも参加しているが、選考については贔屓はない。細かな動きまでチェックするための鋭い視線が送られていたが、挑戦者たちは徐々に緊張がほぐれると次第にプレーを楽しむようになっていた。

2回目以降のトライアルでは、選考するダニエルコーチらスタッフ陣も幾分緊張が和らいだように見える。練習の冒頭に、ダニエルはやさしく語りかけながら選考をスタートさせる。「皆さんの、ピックル歴とかは色々ですけど、今のレベルだけではなくて、これからどのくらい頑張るとか、どんな目標を持っているかとか、総合的に色々見たいと思いますので、最初から最後まで頑張ってください」。

昼の回には、16人が参加した。そのなかに書類選考時から注目の選手がいた。14歳の佐脇京さん。全国小学生テニス選手権で準優勝など、すでにテニスでは数多くの輝かしい実績を誇っていて、ダニエルも最近コーチングしたことがある選手で、そのセンスが本物か注目をしていた。

プロジェクトでは男女6人ずつが選考される予定だが、男子に比べて女子選手の応募数は少ない。少ない応募者の中に鍛えるべき逸材があらわれるか、課題でもある。この回には、とても元気な女子高校生もいた。ソフトテニス経験はあるが、現時点で特別にスポーツをやっているわけではなかった。高校卒業後、何をしようか迷ったときピックルボールを知って頑張ってみようと決意し、プロジェクトに応募した。競技歴は3か月だが、男子選手に交じってパワフルなプレーを披露するなど、いきいきとトライアルに挑んでいた。「お父さんお母さんには、もし受かったらアルバイトも辞めてこれ1本でやるって言ってきました!」と明るく話す。実に多様な選手たちが挑戦している。

注目の14歳、佐脇京さんだが、シングルスの対戦では上記の女子高生にも勝ち、センスの良さを見せつけていた。テニスでは実績のある佐脇さんも、ピックルボールに初めて触れたのは去年の10月。まだ数えるほどしか練習はしできていないというが、驚きのプレーだ。今は選考中でもあり、特定選手の評価はあまり口にしないダニエルも、その将来性に大きな期待を寄せている様子だった。

「ピックルボールに出会って、今は両立させたい気持ち。ピックルボールに出会ったのは去年の東レPPOテニスの会場で行われてたイベントで、体験して、そこからはじめました。ピックルボールに出会ってからはテニスと両立させたい気持ち。隙間時間もYoutubeでピックルボールの試合をみて、イメトレして頑張っています。今日、シングルスを初めてしたが、ダブルスとは違う面白さ。テニスもシングルスメインなので活きたかな。ゲームも楽しめた」

午後3時から始まったこの日3回目のトライアル。そこにはかつてテニスで日の丸も背負ったことのある老練な選手の姿があった。「デビスカップも出てます。全日本もダブルス4回優勝してます。30年以上前ですけど」と笑いながら話したのは佐藤哲哉さん、55歳。

ピックルボールは年齢に関係なく老若男女が楽しめるスポーツだと評されることが多い。大会は、細かく年齢分けされたカテゴリーが用意されており、スコアリングシステムによって管理された選手個人個人のスキルに合わせて試合を組むことができるので、幅広い層で同じ競技レベルの選手と対戦できる仕組みもある。それも人々をひきつける魅力となっている。アメリカでは50歳以上のシニアカテゴリーも盛んで、大勢のプレーヤーがハイレベルな試合を行っている。佐藤さんは、シニア枠ではあるが基礎がしっかりしているのでこれからも伸びると見られ、スタッフの目が止まるシーンが多くあった。

「ダブルスの試合をしたら、テニスに似た部分と全く違う部分があって、考える力を養える気がして、ピックルボールにハマっています。試合に出たい気持ちがあって、年齢は行っているのですが応募しました(笑)」

プロジェクトの応募に年齢制限はない。選考スタッフは10年後にも活躍できる選手であれば年齢は関係ないと、制限は設けなかった理由を語る。アメリカでは60歳でも優勝メダルを手にして生き生きと表彰台にあがるシーンが当たり前に見られる。そこに、日本人選手が割って入る日もあるのでは、と想像させられた。

トップを目指すため、人間性も加味 

3回のトライアルが終了し、日も暮れたあと、ダニエルらはこの日の選考をはじめていた。翌週にもセレクションが行われるので、仮の選考ではあったが熱のこもった議論が繰り広げられた。選考のポイントは、プレーだけではない。サポートスタッフへの挨拶の様子なども加味されていた。ただ強いだけでなく、人間性もしっかりしていなければトッププレーヤーとして成長できないと考えられている。日本のトップを目指すため総合的な視点で選考することが必要なのだ。

ダニエルは「スポーツの世界は何百人にひとり成功するかしないか。僕も現実はわかっているのですけど。まずプロになりたいという気持ちがなければ始まらないですし、成功しなくても得られるものはいっぱいある。人間としてその選手たちが育って、よりピックルと人生を楽しめれば、このプロジェクトは失敗ではない」と語る。そして、セレクションの初日を終えて、早くも世界で活躍する日本人選手を想像し始めていたが、「想像はしちゃうけど、その前に厳しい道が待っていると。簡単ではないけど、楽しみでしかないね」とクラブハウスを後にした。

2月22日、第2回のセレクションが行われていた。そこには初回の2倍の挑戦者がコートに降り立っていた。選考の結果は、2月28日までに通達される。
(#2へ続く)

■グローバルトッププロ育成プロジェクト
書類審査のほか、2025年2月15日と2月22日に、実技審査を実施し、男女各6名の選手を選出。選ばれた選手には、専門的なトレーニング環境と総合的なサポートが提供される。元世界チャンピオンのダニエル・ムーア氏や女子テニスのトップ選手らを中心に構成されたチームのコーチングの元、フィジカル、テクニカル、メンタル面の強化や、賞金総額300万円の強化試合参加を含むプログラムが用意される。

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