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フィギュアスケート四大陸選手権2025レビュー・女子シングル編
【男子に続き女子も日本勢にメダルなし】
韓国・ソウルで開催されたフィギュアスケートの四大陸選手権。2月21日にショートプログラム(SP)、23日にフリーが行なわれた女子シングルは、日本勢が2007年以来、17大会ぶりに表彰台を逃すという結果になってしまった。この大会では男子シングルでも日本勢が9年ぶりに表彰台なしの結果だった。
女王・坂本花織(シスメックス)が出場しなかったとはいえ、今季のGPファイナルに進出した千葉百音(木下アカデミー)、樋口新葉(ノエビア)、松生理乃(中京大)の3人が代表として出場したなかでは、予想外の結末だった。
21日のSPは、まず登場した樋口が、3回転ルッツのステップアウトや、3回転フリップをつけた3回転トーループの回転不足があり、65.10点の7位発進。次の松生も、3回転フリップ+3回転トーループが両方とも回転不足判定で、後半の3回転ルッツも2回転に。55.07点で13位発進の悪い流れになった。
【千葉百音はSP2位でまずまずの発進】
そうしたなかで千葉は、ジャンプに回転不足のq判定がありながらも流れのある滑りで、スピンやステップもレベル4にしてしっかり加点を取り、71.20点とまずまずの滑り出し。1週間前の冬季アジア大会で坂本に勝利して自信をつけ、艶やかなノーミスの演技を見せた地元韓国のキム・チェヨンの74.02点にはおよばなかったが、千葉はSP2位につけた。
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「緊張していると自覚しないままやってしまう演技もあるなか、今日は自分の緊張状態をものすごく感じて、そのうえで自分と戦いながら演技できた。そういう意味では一番緊張したSPでした。そのなかで大きなミスなく終えられたのは成長だと思います」
記者会見で、こう振り返った千葉。周囲からの連覇の期待を十分承知したなかで試合前には「(昨年12月の)全日本選手権からちょっと悪い流れになってしまっているところを切り替え、(1月の)国民スポーツ大会ではいい演技ができて自信のとっかかりが少しつかめたという感じ。そこからは頑張るしかないなという感じでした」と話していた。
プレッシャーのなかでも、持ち味である冷静さは保っていた。フリーへ向け千葉はこう語った。
「SPのジャンプの調子は、公式練習に比べると軸がちょっとずれている状態だったけど気合で乗りきった。SPのコンディションだとフリーのノーミスは本当に厳しくなってくると思うので、フリーの本番のときに一番調子がいい、自信を持った状態で臨めるように。それだけを考えて(2日後のフリーまで)研ぎ澄ませて丁寧に練習したいです」
【直前の体調不良で大失速の6位】
しかし、アクシデントが千葉を襲った。23日のフリー当日は体調を崩してしまい、朝の公式練習には出ず、体調管理を優先した。
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そしてフリー本番。千葉は丁寧に滑り出すと、柔らかなスケーティングから入った3回転フリップ+3回転トーループは、フリップでエッジ不明瞭の判定があったものの堅実に決めた。だが、そのあとの2回転サルコウはq判定で転倒。ダブルアクセルは前につんのめるような着氷となって勢いに乗りきれない。
それでもフライングチェンジフットコンビネーションスピンはレベル4とし、後半に入ると、3回転ルッツからの2本のコンビネーションジャンプをしっかり決める粘りの滑り。しかし最後の3回転フリップは回転不足になって転倒し、すぐには演技に戻れなかった。そして終盤のステップシークエンスと2本のスピンを終えると、両ひざを着いて苦しそうな表情を見せる。
フリーの結果は今季ワーストの123.88点で、合計得点は195.08点の6位という結果に終わった。千葉のフリーでの大失速は、今大会最大の想定外だった。
ロシア勢がいない現在の女子は、大技を強力な武器とする選手がおらず、技術レベル的には横並びの状態だ。千葉も安定感を強みにしているとはいえ、体調が崩れればここまで落ちてしまうことを実感しただろう。試合に臨む体調、さらに試合が終わるまでの体調維持の重要さを経験したことが、この大会の彼女の収穫になる。
【坂本花織を破ったキム・チェヨンが急成長】
優勝は、地元のキムだった。アメリカ勢3人が暫定1〜3位を占めるなかで、キムはこれまでの試合で見られたジャンプの回転不足などの細かいミスもないノーミスの滑り。冬季アジア大会を制した自信だけではなく、これまでとは違う力強さも伺わせる滑りで自己最高の148.36点を獲得し、合計も今季世界3位になる222.38点にした。
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キムのハイレベルな得点での優勝は、2022−2023年シーズンに四大陸選手権で優勝し、世界選手権では坂本に次ぐ2位になったイ・ヘイン(韓国)の急成長を思い出させる。キムもそれと同じ軌跡を歩んでいるだけに怖さを感じる。
前半は日本勢優位で進んだ今季だが、終盤に入ってその足元が揺らぐ状況になってきた。今回の四大陸は、来季の五輪を目指す選手たちの気持ちを再度引き締める大会になっただろう。