第57回 1月クール連ドラ後半戦展望――指南役の推しドラマ

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2025年02月26日 01:30  ソーシャルトレンドニュース

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"第57回 1月クール連ドラ後半戦展望――指南役の推しドラマ"

皆さん、連続ドラマ――連ドラって、週に何本くらい見てます?

まぁ、初回は一通り目を通すけど、2話目以降は、忙しさにかまけて「TVerでいつでも見られるから」と油断してると、そのうち3話が放映されて“週回遅れ”となり、それが2週・3週と溜まると、「やーっめた」と、視聴を断念した経験は誰しもあると思う。そして後半戦を迎えた頃には、見ているのは週2〜3本ってトコじゃないだろうか。

そもそも連ドラって、週に何本くらい放映されていると思います? この2025年の1月クールで言えば、民放キー局とNHKを合わせて、プライムタイム(19時〜23時)に放映される連ドラの数は、実に18本。意外と多いでしょ。これに深夜ドラマ(23時以降)やBS、独立局や地方局発の連ドラまで加えると――なんと全部で57本(!)もある。これが毎週だ。むろん、全てに目を通すことなど無理な話である。

思い返せば、10数年前まで、連ドラのマーケットはむしろ縮小傾向にあった。若者のテレビ離れが進み、それと共にドラマの視聴率も低下。加えて、ドラマは制作費がかかるので、近年、テレビの広告費が頭打ちになる中(ちなみに、2019年にネット広告がテレビCMを逆転した)、テレビ局はドラマ枠を廃して、比較的安く作れるバラエティに変える動きが進んでいた。

連ドラ退潮の局面を変えた「TVer」の登場

この局面が変わったのは、ネット動画配信サービスの「TVer」がスタートした2015年である。ご承知の通り、同サービスは若い人たちの利用が多い。視聴者に占める高齢者の比率が高いテレビと真逆だ。しかも再生数の上位は軒並みドラマ。人はタイムシフト視聴だと、ドラマを選ぶコトを“可視化”したのがTVerだった。そうこうするうち、若い人たちは本放送(テレビ)より、TVerでドラマを見るようになり――かくして、TVer需要を狙って若者向けドラマが復権する。テレビのプライムタイムの連ドラ枠はここ数年で6枠(!)も増え、深夜に至っては、今や30〜40分尺の連ドラだらけという様相である。



とはいえ、これだけ多くの連ドラが氾濫すると、もはや何を見たらいいのか分からないという問題も出てくる。そこで、多くの人が頼ったのが、TVerの再生ランキングやお気に入りの登録者数だった。気が付けば、みんなが見てるドラマにますます人が群がる構図に――。いや、誤解なきよう、それは別に悪いことじゃない。現状、プライムタイムのドラマに人気が集中してるけど、それらは基本、巨額予算を投じられた選ばれし作品たち。いわば、Jリーグで言うところの「J1」だ。まぁ、ドラマだから「D1」とでも呼ぼうか。なので、どのクールも、まずはプライムタイムの“D1”を全力で見るコトをお勧めします。

その上で――数多ある深夜ドラマの中から、1つくらい“自分で面白いドラマを見つけたい”という方には、こんな方法を紹介します。

山田太一流“優れた連ドラ”の見分け方

前にも本連載で紹介したことがあるけど、今は亡き脚本家の山田太一サンが“優れた連ドラの見分け方”として、こんな話をしたことがあった。

「連続ドラマというのは、映画館で見る映画と違い、視聴者がアタマから黙って見てくれるものじゃないし、途中2、3話飛ばされることもある。それでも、ある回を15分でも集中して見ると、自ずと物語の世界観とか、話の流れとか、漠然としたテーマみたいなものが伝わってくる。そういうドラマが優れた連続ドラマだと思います」


――いかがだろう。本当に優れたドラマなら、例え毎週欠かさず見続けなくても、ランダムに選んだ回を15分ほど見るだけで、自ずと物語のストーリーや世界観が伝わってくると。なるほど、ここまでハードルを下げてもらえれば(笑)、忙しさの合間を縫って、様々な深夜ドラマに“触れる”コトはできそうだ。そうこうするうち、自分にとっての1本”に出会えるかも。おっと、たった15分とは言え、間違ってもスマホ片手に“ながら見”したり、1.5倍速で見ないように――。

後半戦、指南役が見続ける“推しドラマ”は?

少々前置きが長くなったが、今回は遅ればせながら、後半戦に入った2025年1月クールの連ドラの話である。連ドラ界の「D1」ことプライムタイムの18作品――このうち、2クールドラマの『相棒』(テレビ朝日系/昨年10月スタート)と2月スタートの『リラの花咲くけものみち』(NHK)を除いた16作品を対象に、後半戦に入った今も指南役が見続ける――いわば“推しドラマ”を語りたいと思う。

その前に、まずは客観的データとして、それら16作品のここまで(2月24日時点)の視聴率(世帯視聴率)のおさらいから。とはいえ、数字が公表されてない作品や放送回もあり、ここに挙げたのは視聴率がすべて判明してる作品に限られる。なので、あくまで参考程度に。

〇トップ(平均11%台)
『御上先生』(TBS系)

〇第2グループ(平均7%台)
『119エマージェンシーコール』(フジテレビ系)
『プライベートバンカー』(テレビ朝日系)

〇第3グループ(平均6%台)
『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)
『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS系)

〇第4グループ(平均5%台)
『アンサンブル』(日本テレビ系)
『ホットスポット』(日テレ系)

〇第5グループ(平均4%台以下&不明)
※その他9作品――。

次に、TVerの「お気に入り」の登録者数(2月24日時点)も見てみよう。

〇トップグループ(100万超え)
『御上先生』
『家政夫のミタゾノ』(テレ朝系)
『ホットスポット』

〇第2グループ(90万台)

『119エマージェンシーコール』
『クジャクのダンス、誰が見た?』

〇第3グループ(80万台)

『アンサンブル』

〇第4グループ(70万台)
『まどか26歳、研修医やってます!』
『フォレスト』(テレ朝系)

〇第5グループ(60万台)
『アイシー〜瞬間記憶捜査・柊班〜』(フジ系)
『プライベートバンカー』

〇第6グループ(50万台以下&不明)
※その他6作品――。

で、それらの中から、後半戦に入っても指南役が脱落せずに視聴を続ける“推しドラマ”が――『御上先生』、『119エマージェンシーコール』、『プライベートバンカー』、『ホットスポット』、そして『日本一の最低男』(フジ系)の5本である。順に解説していこう。

『御上先生』は『リーガルハイ』の教師版?

まずは、視聴率とTVerの「お気に入り」ともに絶好調なTBS日曜劇場の『御上先生』である。元来、骨太な作品が多い同枠の期待に違わず、極めてクオリティの高い作品に仕上がってるのは、皆さんご承知の通り。好調の理由は、文科省から派遣された“官僚教師”というプロットの強さにある。元来、学園ドラマの主人公と言えば、いわゆる“型破り”な教師が定番だっただけに、教育の一丁目一番地である文科省の看板を背負った、ある意味“型どおり”の先生はどうなんだろうという掴みは十分だった。


プロデュースは一昨年、話題になった『VIVANT』を手掛けた飯田和孝サンだ。『御上先生』の骨太な世界観は、壮大な美術セットやロケーション選び(ロケ地は東大合格者数全国2位の聖光学院高校である)に定評のある飯田Pならでは。そして脚本は、2019年度の日本アカデミー賞を受賞した映画『新聞記者』の詩森ろばサン。もっとも、映画のほうは内調(内閣情報調査室)の稚拙な描き方や荒唐無稽なオチに興ざめしたけど、こちらのドラマは単純な善悪二元論にしない丁寧な筆遣い。同じ人が書いてるとは思えない(褒めてます)。

あと――なんと言っても、主人公の御上先生を演じる松坂桃李サンが最高だ。同ドラマの成功の半分は、彼のキャラクター作りにあると言っていい。身なりは普通で、たたずまいもシュッとして、いかにも官僚らしく、一見“個性”がない。金八先生みたいに長髪じゃないし、『GTO』の鬼塚みたいに元ヤンでもない。でも――「考えて」「続けて」「ちょっといいかな」「言ったよね」「そうだね」と短いセンテンスの台詞から伝わるメッセージの強さ。役者としては目立った個性のない松坂桃李サン(褒めてます)にとって、これ以上のハマり役はない。

実は――僕は、『御上先生』を、あの堺雅人サンが弁護士役を好演した『リーガルハイ』の“教師版”と捉えている。え? 両作品はシリアスとコメディで似ても似つかないって? いえいえ、それは作品を見せる手段が違うだけ。根っこの部分で、この2つはよく似ている。両作品とも“生徒思いの熱血教師”や“人情派の弁護士”といった従来のドラマにありがちな安っぽいヒロイズムに与せず、主人公は極めてビジネスライクに振舞う。そして、立て板に水のごとく理路整然と自説を語り、クライアント(生徒/被告)を己の目標とするゴール(考える力/勝訴)へと導く。

思えば、かつて『リーガルハイ』で、主人公の弁護士・古美門研介(堺雅人)がこんな台詞を吐いたシーンがあった。

「この国では世間様に嫌われたら有罪なんです。法治国家でもなければ、先進国でもない。魔女を火あぶりにして喜んでいる中世の暗黒時代そのものだ!」

これ、驚くことに、今から13年前の2012年に発せられた台詞なんですね。まるでSNSの世論が企業や芸能人の命運を握る2025年の空気感そのもの。同ドラマの脚本家の古沢良太サンの慧眼には恐れ入る。


同様に、『御上先生』が描こうとしている世界観も、これと同じだと思う。いつしかアップデートを忘れ、気が付けば、すっかり時代とズレてしまった感のあるテレビの学園ドラマという世界線――。本作は、それを“今”という現実世界にアップデートを図ろうとしている。カギは、個々のエピソードのリアリティだろう。実際、『御上先生』には、いたずらにゴシップを追う“生徒記者”の想像力の欠如や、高校生が語る“金融商品”とか、今の時代の本音が語られる。その意味で、両作品はとてもよく似ている。

優れた連ドラに共通するニコハチの法則

僕はかねがね、優れた連ドラを見分けるカギは“ニコハチ”と説いている。最初の平常運転の2話、対立していた両者が接近する(和解or恋仲になる)5話、主人公の内面が明かされ、最終回への起点となる8話――それがニコハチ(2・5・8話)である。その3つがちゃんと描かれていれば、ドラマはかなりの確率で面白くなる。断っておくが、連ドラの初回は面白くて当たり前。このコラムの冒頭でも述べたように、初回は大体、みんな見てくれるから、どの作品も予算と時間と熱量がハンパなく投じられる。

だからこそ、連ドラにとって大事なのはその次の回――平常運転の2話なのだ。ちなみに、『御上先生』の場合、この2話で御上先生が“スーパー熱血教師”と評する『金八先生』を暗に否定するシーンがある。吉岡里穂演ずる是枝先生にこう告げたのだ。

「考えてみてください。全国の高校教師は約25万人。その人たち全部がスーパー熱血教師になるのと、よい教師像自体を考え直すこと。どっちが現実的だと思いますか」

いかがだろう。僕はこの台詞に、同ドラマが描きたい世界が凝縮されていると思う。要するに――これは一人の型破りな教師の話ではなく、全国25万人もの教師が“新しい型”にアップデートするためのドラマと。まぁ、TBSが自局のレジェンド作品を暗に否定するのは、かなり勇気がいっただろう。おそらく、飯田Pから『VIVANT』繋がりで、同局の福澤克雄サンにそれとなくお伺いを立てたか と。福澤サンは『金八先生』を第4シリーズから率いた、同ドラマの中心スタッフの1人。要は、そのくらい『御上先生』の作り手たちには“覚悟”があったと。二桁の視聴率は、その結果である。

後半戦のカギは“もう一人の自分”探し

そして、同ドラマの後半戦のカギは――先のニコハチの法則に従えば、主人公の内面が明かされる“8話”だろう。おそらく、そこで語られるのは、御上先生の“もう一人の自分”。前半戦でちょいちょい回想シーンに登場した実の兄の死が更に深掘りされ、最終回に向けて御上先生自身の心の内も明かされる。そう、ここで言う“もう一人の自分”とは、彼の兄のことであり、その遺志を受け継いだ御上先生自身の真の姿(目的)である。

もっとも、同ドラマに限らず、大抵の連ドラの“最終章”(8話から最終回に至るプロット)は、“もう一人の自分”探しだ。例えば、脚本家・三谷幸喜サンの最高傑作と言われる『王様のレストラン』(フジテレビ系)――。同ドラマの8話は「恋をしたシェフ」で、しずか(山口智子)に、パリの有名レストランから引き抜きの話が持ち上がる話だった。結局、しずかは自分の心の内に千石(松本幸四郎/現・松本白鸚)がいることに気づき、ベル・エキプに残る。そして、この伏線が最終回の千石の選択にも繋がる。


まぁ、とにもかくにも後半戦も、「言ったよね」「考えて」「続けて」――そんな『御上先生』から目が離せない。

大変なフジの、良質なドラマ

おっと、だいぶ長々と語りすぎてしまった。ここからはもう少し簡潔に、1月クール後半戦の、残る4本の指南役の推しドラマを解説したいと思う。

続いては――今、大変な状況にあるフジテレビの看板枠“月9”の『119エマージェンシーコール』だ。とはいえ、こう言ってはなんだが――本作は、かなり評判がいい(本当)。舞台は横浜市消防局の指令センター。そこで「119番消防です。火事ですか、救急ですか」と119番通報を受ける清野菜名サン演じる新人ディスパッチャー(指令管制員)・雪の成長ぶりや、同僚たちとのチームワークを描いた群像劇だ。あのマルチディスプレイが並ぶ壮観なセットは、横浜市消防局の全面協力のもと、実際の現場を完全再現したもの。めちゃくちゃカッコいい。

このドラマ、何が凄いって、完全オリジナルなんですね。多分、ヒントにしたのはNHKで放送されているドキュメンタリーシリーズの『エマージェンシーコール 〜緊急通報指令室〜』だろう。そちらは、毎回ある都道府県の119番司令室に密着して、実際にかかってきた通報と、それに対応するオペレーターの会話だけを見せるノンフィクション。臨場感あるやりとりが評判で、人気シリーズとなっている。同番組は、ヨーロッパのベルギーで生まれ、今や世界中でヒットしている番組のフォーマットをNHKが購入したもの。日本版は既に10作品を数える。

ただ、それをドラマ化したのは、本作品が世界初である。ただ、ドラマだと、ずっと指令センターにいては絵替わりしないので、同ドラマはヒロインが自分の受けた通報現場にオフの日に訪れ、通報時の様子を“想像する”シーンが毎回入る。その是非はさておき(笑)――感心したのは5話だ。この回は“虚偽通報”や“安易な通報”に振り回されるディスパッチャーたちの徒労が描かれたが、中村ゆりサン(彼女、めちゃくちゃいいです)演じる係長の発した台詞「100回出場して100回無駄だったとしても、101回目も出場させるしかない」にお茶の間は心を動かされた。

さて、同ドラマの後半戦は、ヒロイン・雪が幼少時に体験した“火災の記憶”を起点に、声を失った姉(蓮佛美沙子)や、ディスパッチャーを目指した彼女自身の心の葛藤が描かれると思う。ただ、実はそっちの“人間ドラマ”よりも、同ドラマの最大の見どころは、やはり指令センターの声のやりとりだけで見せる“現場”パート。こっちは実際の取材に基づいており、毎回気づかされるシーンが満載。個人的には「119番消防です。火事ですか、救急ですか」の台詞は、今クール最大の名台詞だと思う。

そうそう、フジテレビの一連の騒動を受けて、横浜市と横浜市消防局が同ドラマの協力クレジットを降りたけど、絶対に間違っていると思います。あんたら、119番の運用の大切さを誰よりも市民に訴えたいんじゃないの?

『プライベートバンカー』はバンカー版『古畑任三郎』?

次に取り上げるのは、テレ朝の看板枠“木9”で放送中の『プライベートバンカー』だ。初回視聴率9.0%は、この1月クールの初回としては、『御上先生』に次ぐもの。それはつまり、同ドラマへの期待の高さを表している。唐沢寿明サン演じる主人公・庵野甲一は、資産10億円以上の大富豪しか相手にしない凄腕のプライベートバンカー。この浮世離れした設定が、唐沢サンのキャラクターと実にマッチして、最高だ。


個人的には、主人公・庵野のオシャレな風貌、並外れた頭脳、そして物語の終盤、ドラマ世界では存在しないはずの視聴者に語り掛ける“第4の壁”を破る演出等は、かの『古畑任三郎』を連想する。実際、お茶の間の皆さんが少々戸惑っている鈴木保奈美サン演じる“ドジっ子”な助手の存在も、キャスティングの意図はともかく、あのキャラは、古畑の今泉君(西村雅彦/現・西村まさ彦)を思えば、理解できる。

同ドラマは基本、一話完結である。なので後半戦と言っても、遺産相続の話にオチが付くくらいで、連ドラにありがちな主人公の内面を掘り下げるような展開にはならないだろう。ただ、同ドラマは今後シリーズ化が予想される(それがテレ朝である)ので、その仕立てのほうが気になる。クライアントが代わるにしても、毎シリーズ、遺産相続争いでは飽きられる。一話完結のフォーマットを守りつつ、どうクライアントに変化を持たせるか。ちなみに、『古畑』の視聴率がハネたのは、第2シリーズからである。

『ホットスポット』はバカリズム脚本最高傑作

続いては、バカリズム脚本の『ホットスポット』(日本テレビ系)だ。個人的には、これまで彼が脚本を手掛けた連ドラの中で、一番面白いと思う。初めてプライムタイムの連ドラを書いた『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)よりも、向田邦子賞を受賞した『架空OL日記』(読売テレビ)よりも、橋田賞ほか多くの賞に輝いた『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)よりも――。

なぜなら、本作はバカリズム自身が出演していないから。つまり、100%脚本家に徹した初の連ドラなのだ。これが傑作でないはずはない。

同ドラマのストーリーはシンプルである。ヒロインは、富士山のふもとの山梨県のビジネスホテルで働く平凡なシングルマザーの清美(市川実日子)。ある日、彼女が自転車で帰宅途中にトラックにハネられそうになったところ、同僚の高橋さん(角田晃広)に助けられる。その際、ありえない救助方法だったことから、高橋さんに「実は僕、宇宙人なんです」と正体を明かされる。「誰にも言わないで」と釘を刺されるが、つい清美は幼馴染みの2人に話してしまう――ところから始まる超・日常のSFコメディである。

ドラマの構造としては、さほど珍しくない。平凡な日常の中に、ある日突然、非日常の存在が紛れ込むという、藤子不二雄の一連の作品や、宇宙人繋がりで『うる星やつら』とか、最近のマンガだとイマドキOLたちの暮らすアパートに宇宙人が居候する『ラブラブエイリアン』等々の系譜である。

そんな中で、『ホットスポット』ならではの魅力は、宇宙人である高橋さんの外見が東京03の角田サンという“普通のおじさん”すぎるところ。一方、清美を始めとするホテルの同僚たちも、日常の小さな困りごとを高橋さんに解決してもらおうとする。そんな、どこまでも話が小さいところ、いわば“イッツァ・スモール・ワールド”が、本作の最大の魅力である。

なんだろう、これまでのバカリズム脚本作品から1本突き抜けた感というか、肩の力が抜けたというか、もはや余裕すら感じる。だから本人が出演してないのだろう。そう、この作品はバカリズム自身、かなり自信作と感じている――きっと。

『日本一の最低男』は、令和版『男はつらいよ』!?

最後は――フジテレビ系列としては、11年ぶりに連ドラに主演した香取慎吾サンで話題の『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』である。ここまで読んできた方は「ん?」となったかもしれない。先に挙げた4作品はどれも、視聴率、TVerの登録者数、そして肝心の内容面と、そこそこ評判がいい。対して『日本一の最低男』は、残念ながら数字面の評価はあまり芳しくない。


ただ、内容面に関しては、言われるほど悪くないと思う。当初、同ドラマが批判されたのは、香取サンの体形とか、彼の劇中のキャラクターとか、長女・ひまりが笑顔を見せないとか――言われてみれば、“外面”ばかり。それは、裏を返せば、まんまと作り手側の術中にハマっていたとも。何せ“日本一の最低男”だ。物語の出発点としては、お茶の間に嫌われてナンボである。

ちなみに、「物語は常に最悪のタイミングで始まる」――僕の好きな言葉である。今日一日ツイてなかったあなた。なに、落ち込むことはない。ハッピーエンドの映画の冒頭は大抵そうだ。そう、このドラマも同じ。タイトルからして、ラストはハッピーエンドで終わることは目に見えている。ならば、出だしは徹底的に悪く描かないと面白くない。

現に、ドラマが後半戦を迎えた今、香取サンの体形は、かなりシャープになっている。役のキャラも改善している。ひまりも笑顔を見せるようになった。そう――すべては確信犯。初回の香取サンの体形は、要はキャラ作りだった。そして、内容面について言えば、僕は、同ドラマは令和版『男はつらいよ』だと思っている。香取さん演じる主人公・一平は令和版寅さんなのだ。

映画『男はつらいよ』の主人公の寅さんは、フーテンで、喧嘩っ早くて、見栄っ張りで、女に惚れやすく、フラれてばかり。妹・さくらに頭が上がらない典型的な“愚兄賢妹”の話である。その一方、ああ見えて寅さん、裏表のない、嘘の付けない性格。そんな愛すべき寅さんを「とらや」のおいちゃんやおばちゃん、博、そしてタコ社長らが囲み、なんのかんので幸せな“家族”である。

同様に、『日本一の最低男』の主人公・一平も、ワケあってテレビ局を退職して、今や無職同然。ガサツで、子ども嫌いで、人生一発逆転を狙って区議会議員を志して、好感度狙いで義弟家族と暮らし始めるも――こちらも失敗続き。事あるごとに亡き妹や義弟(志尊淳)と比較される“愚兄賢妹”の話である。

ところが一平、家族のトラブルに向き合ううち、次第に“家族の絆”に目覚め始める。選挙目的で、軽い気持ちで絡んだ様々な案件も、根っこの素直さから、本気で問題解決に取り組み始める。気が付けば――という展開である。ほら、最終回のハッピーエンドが見えてきたでしょ。

考えたら、“慎吾ママ”やドラマ『西遊記』(フジテレビ系)の孫悟空など、本来の香取サンは子どもたちとの相性が殊の外いい。なので、日本一の最低男が“最高男”になるのは、それほど難しい話じゃない。なんのかんので人々から広く愛された寅さんに、僕が香取サンを重ねるのはそういう理由である。

俗に、優れたエンタメとは、作り手が優れた過去の名作を掘り起こし、現代風にアップデートする作業である。それはパクリとは違う。その意味で、本コラムで揚げた5本の推しドラマは、どれも“温故知新”で成り立つ、100%のクリエイティブと思って間違いない。

さて、1月クールの後半戦。あなたが今も見続ける“推しドラマ”は、どれですか。

(イラスト:高田真弓)


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  • もう何年もテレビを見ていない、ドラマはTVerとHuluで見てる。NHKドラマは見れないけど興味がないので見ない。ホットスポットがユルくて面白いな。月曜から夜更かしもHuluで見始めたくらいだし。
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