「コメ高騰の犯人=中国人」にしたがるマスコミ 本当に“得”をするのは誰か

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2025年02月26日 09:31  ITmedia ビジネスオンライン

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「コメ高騰の犯人は外国人」という報道で、喜ぶのは誰か

 今、自然豊かな農村地帯に中国人や東南アジア系のグループがいるのを見かけたら、きっとこんな風に感じる人も多いのではないか。


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 「おいおい、もしかして転売するために、農家のコメを買い占めに来た連中じゃないの?」


 マスコミでは連日のように「コメ高騰の犯人」が中国人転売ヤーだとして、鬼の首を取ったかのように報じているからだ。例えば、2月18日放送の『Live News イット!』(フジテレビ系)では、中国人向けのSNSで日本の米を転売する投稿が相次いでいるとして、日本の農家から米300キロを買ったという中国人女性を直撃している。


 2月16日の『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)でも、千葉県の農家がインタビューに応じて、横浜中華街で売るために600キロのコメを買おうとした中国人がいたことを明かした。同日の『真相報道バンキシャ!』(日本テレビ系)でも、新潟の米生産者の元に外国人から「いくらでもいいから買う」との連絡があったと報じた。対応した人によれば「チャイナ系だと思います」とのことだ。


 このような報道を受けて、SNS上で「転売を防ぐ制度をつくらないとマネーゲームにされてしまう」「国がコメの管理をしないと中国人に買い占められるぞ!」という意見もたくさんある。


 ただ、個人的にはこのような「コメ高騰は中国人転売ヤーのせい」報道にはかなり違和感を覚えている。


 コロナ禍で「医療崩壊は繁華街で飲み歩いている若者のせい」ということが盛んに報じられたが、あれとまるっきり同じ構造のように感じる。つまり、国の政策ミスを誤魔化すために、社会が憎悪を向けやすい人々を「スケープゴート」にしているのだ。


 なぜ筆者がそう感じるのか、順を追ってご説明しよう。


●ツッコミどころ満載のストーリー


 まず、大前提として「転売目的で農家からコメを買っている中国人がいる」のは事実だ。中国人向けのSNSでは、確かにそのようなやりとりがたくさんある。


 だが、中国人だろうがベトナム人だろうが、異国の地で暮らす外国人コミュニティー内で、このような動きがあること自体はさほど珍しいことではない。というより、メルカリを見ても分かるように、日本人だって転売している。良い悪いは別にして、消費社会でモノが不足すれば、転売で一儲(もう)けしようという輩が一定数あらわれるものなのだ。


 ただ、だからといって、そのような人々が今回の「米騒動」を引き起こしたというのは考えにくい。農水省は「日本国内にコメは十分あるにもかかわらず、このように価格が高騰しているのは、流通経路から突如、約21万トンものコメが消えたせいだ」と主張している。


 これだけの数を転売するのは、現実問題としてかなり難しい。例えば、『Live News イット!』(フジテレビ系)で直撃した中国人女性は農家から米300キロを購入して自宅に保管していたが、もしこのような中国人転売ヤーが仮に日本国内に10万人いたとしても3万トンにしかならない。


 「いやいや、もっと大量に買い占めている中国人グループが存在しているはず」と思う人もいるだろうが、日本では年間20トン以上のコメを出荷したり、販売したりする場合は届出義務があるので、組織的な大量買い占めは把握できる。農家が届け出をせず、闇マーケットに流す可能性もゼロではないが、バレたら50万円以下の罰金も課せられるし、そんな危ない橋を渡るメリットもない。


 つまり、「コメ高騰は中国人転売ヤーのせい」というのは、ツッコミどころ満載のかなり「粗いストーリー」なのだ。


●一連の報道で「得」をしているのは誰か


 そこで不思議なのは、なぜ常日頃から「われわれの情報はSNSのデマと違って裏取りをしっかりしています」と胸を張る一流報道機関が、外国人ヘイトにもつながるような雑な話を、公共の電波でうれしそうに流しているのかである。普通に考えれば、中国人転売ヤーのせいにしておけば「得」となる人々が、このネタをゴリ押ししているとしか思えない。


 では、それは誰か。結論から先に言ってしまうと、農林水産省とJA(農協)である。


 彼らこそ、2024年秋の米不足や今回の価格高騰を招いた「令和の米騒動」の原因である「減反政策」を、半世紀にわたって推進してきた中心的な存在なのだ。


 これは何も筆者だけが主張していることではなく、元農水省の官僚でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏などの専門家も指摘している。また、秋田県で減反政策に50年にわたって反対してきた大潟村あきたこまち生産者協会代表の涌井徹氏も「根本の原因は長年コメ生産を抑制してきたことによる生産力低下」(ABS秋田放送 2月20日)だと述べている。


 ご存じのように、日本では「農家を守るために米をつくるな」という政策をかれこれ半世紀も続けてきた。米をつくりすぎると余るので価格が安くなり、農家の皆さんが貧しくなる。そこで、国のエリートがしっかりと計算して生産調整をするので、田んぼをどんどん潰していきましょう、という減反政策が推進される。


 旧ソ連の「計画経済」をほうふつとさせる珍妙な発想だが、50年前の日本人たちは「さすがエリートの考えることは違う」と賛同して、日本中の田んぼをどんどん潰していった。この時代、減反に反対していた涌井氏は「闇米屋」「秋田の恥さらし」などと叩かれた。この農水省の「水田狩り」をバックアップしたのが、他でもない当時の農協なのだ。


 「でも、そんな減反も2018年には廃止になったでしょ」と思うだろうが、それはあくまで建前的な話に過ぎない。2018年以降も、農水省は主食用米の全国生産量の「目安」を示しており、米から転作する農家に補助金まで出して、主食用米の生産量を絞ってきたのだ。


 この社会主義的な「計画農業」によって、多くの農家がサラリーマン収入と農地売却益や補助金で細々とコメをつくる「零細兼業農家」になってしまう。一方、この収入の安定化によって成長したのがJAバンクだ。個人の預貯金は順調に増えて、2023年3月末時点で993兆円と3大メガバンク以上の額となっている。


 ただ、いくらJAが潤っても兼業農家のコメづくりはラクになるわけがない。むしろ、高齢化で年を重ねるごとに衰退の一途をたどっていく。


●米の「先食い」が続いていた状況


 日本の米需要は年間およそ700万トンといわれている。2021年秋の主食米の収穫量は約700万トンだったのでトントンだ。しかし、減反政策と農家の高齢化も相まって翌2022年秋は約670万トン。需要より30万トン少ない。そして2023年秋は約661万トンなので「40万トンの米不足」である。つまり、日本のコメは近年ずっと需要を下回っていたのである。


 そこにコロナ禍以降、訪日外国人観光客が急増して海鮮丼やら寿司を「爆食」したことで、一気に流通が滞って米不足が顕在化。スーパーからコメが消える事態になったわけだ。


 普通に考えたら、「減反政策の大失敗」であることは明らかだが、それを認めてしまったら農水省とJAは立つ瀬がない。減反は農業を滅ぼすと訴えていた涌井氏らの主張が正しいことが証明されてしまう。そこで捻(ひね)り出したのが、「新米が世に出回れば米不足は解決です」という言い訳だ。


 だが、冷静に考えれば、新米が出たくらいで解決するわけがない。


 基本的にわれわれの食卓にあがるコメは、少し前に出荷されたものだ。例えば、9月に食べるコメは8月に出荷されたものである。しかし、2023年8〜9月の時点でわれわれはすでにそれを食べ尽くしていて「40万トンの米不足」に陥っているので、9月に出荷されたものを即買いして大量消費した。これはつまり、10月に食べる分のコメを先に食べてしまったということだ。


 だから当然、10月にわれわれが食べているコメは本来11月に食べるものという感じで前にズレていく。こういう「先食い」が続くだけなので、「40万トンの米不足」は解決ではなく、先送りされているだけなのだ。


●2024年の米不足から根本的な問題は未解決のまま


 実際、農水省の「民間在庫の推移」によれば2024年7月は82万トンで、前年7月在庫(123万トン)に比べて41万トン少ない。農水省が「解決」を叫んだ9月以降どうなるかというと、9月で前年比マイナス50万トン。10月も同マイナス44万トン、11月も同マイナス43万トン、12月も同マイナス44万トン。


 つまり、スーパーに米が並ぶようになっただけで、2024年秋から根本的な問題は何も解決していなかったのだ。


 こうなれば米価が高騰するのも当然だ。2024年に比べて明らかに在庫が少なくて新米が出ても状況は何も変わらないとなれば、取引価格は自然に上がっていく。さらに、中間業者としては商品がなければ“商売あがったり”なので、とにかくなくなる前に買い込んでおこうとなり、価格はさらに釣り上がっていく。


 つまり、米の価格が「5キロ4500円」なんて庶民が目を疑うほど高くなったのは、農水省とJAが50年続けてきた失政のツケをここにきて一気払わされているからなのだ。


 では、われわれはどうすればいいのか。個人的には国が「日本米の海外輸出」を進めていくしかないと思っている。


 拙稿『農水省「コメの投機的な買い占め説」は胡散臭い…米価高騰の悲願を達成した「真犯人」の正体』(ダイヤモンドオンライン 2月13日)の中で詳しく解説したが、世界では自国民の胃袋を支える穀物や野菜、畜産物はまず大量増産の体制を構築して、海外に輸出するのが当たり前である。不作や気候などで生産量が大きく落ち込んだ際にも、輸出分を引き上げることで自国民を飢えないようにするのだ。


●米の輸出を進めるには


 前出の涌井氏も「農業を家業から産業に転換すべき」と主張して、以下のように輸出の重要性を主張している。


 「日本の農業がいま成り立たなくなろうとしているわけよね。今こそ大量に大増産して余計なものは輸出していく。そして国内の需給は安定させていく」(ABS秋田放送 2月20日)


 だが、減反政策を50年以上も続けてきた日本では、このような考えは少数派であり「異端」だ。筆者も記事で米の輸出の重要性を唱えたところ、農業関係者から「こいつ頭がおかしいのか?」「農業をなめるな」と痛烈なお叱りを頂戴している。


 米輸出拡大に否定的な方たちの主張として、まず米は保管や品質保持が難しくて輸出に向かないという。また、海外で流通しているのはインディカ米(日本でいうタイ米)なので、日本のジャポニカ米などを輸出したところで、誰も見向きをしないとの意見もある。


 世界を見渡せば、インド、タイ、ベトナムなどが米の輸出国として知られ産業化に成功しているが、残念ながら日本の農業にはそんな競争力はない、という農業関係者が非常に多いのだ。


 確かに、2024年の日本の米輸出量は約4万5000トンにとどまっている。日本人が「まずい」「国に合わない」と何かと“下”に見がちなタイ米を輸出しているタイの2024年の米輸出量は900万トン以上だ。日本米の輸出など夢物語だと嘲笑する人の気持ちもよく分かる。


 しかし、日本にやってきた外国人観光客が、日本のコメを「うまい」と言ってこれだけ食べているのも事実だ。国が後押しして需要を拡大していけば、勝負できるのではないか。また、涌井氏が取り組んでいるように「パックごはん」のような加工品にして輸出する手もあるのではないか。


●なぜ国は米の輸出に後ろ向きなのか


 まだまだ大きなポテンシャルがある分野なのに、なぜこんなにも米の輸出に後ろ向きなのか。ここからは筆者の勝手な想像だが、米の輸出を進めることで特定の人々が「損」をする可能性も考えられる。


 例えば、農薬の問題だ。


 食の安全などに意識の高い方はご存じだろうが、ネオニコチノイド系農薬は自然環境や人体への悪影響が指摘され、欧州や米国では使用が禁止・規制されている。一方、日本では現在も「評価中」とされ、コメの栽培にも使われている。


 つまり、もしコメを世界に売っていこうとしても、国によってはこれがネックになってしまうのだ。


 「そんなもんさっさと禁止にすりゃいいだろ」と思うだろうが、現実はそう単純ではない。国内ではネオニコチノイド系農薬は幅広い害虫に効果があって、しかも安全性も高いということで農家の生産性向上に役立っている現実もある。しかも、そんな規制強化をされたら「損」をする人たちがたくさんいるからだ。


 その代表がJAと農薬メーカーだ。


 JA全農のWebサイト内にある「農薬事業」のページを見ると、全農は農薬メーカーと「共同開発」「技術・情報品質管理」をしながら、農薬を仕入れて、全国のJAに流通させている。つまり、農薬ビジネスのプレーヤーだ。


 例えば、ネオニコチノイド系農薬として知られる「ダントツ粒剤」「ベストガード」を製造販売している協友アグリという会社がある。ここは2004年に住友化学とJA全農が事業提携によって設立された会社だ。


 こういう農薬プレーヤーからすれば、面倒な国際ルールを押し付けられるコメの輸出など「百害あって一利なし」かもしれない。


●「日本人の命を守る」ために


 このように日本のコメを世界に輸出するのには、まだまだ超えなくてはいけないハードルが山ほどある。


 しかし、今の日本は難しいから「諦めましょう」などといえる状況ではない。食料自給率38%の国で何か有事や災害があったら、需要ギリギリの生産量しかない日本ではすさまじい食糧不足になる。


 日本人の中には「お金を払えば他国が食料を提供してくれる」と信じている人もいるかもしれないが、実際に世界的な食料価格高騰などが起きれば、みな自国民を守る。中国や米国に食料でも依存する日本人は飢えるしかない。


 「日本人の命を守る」ためにも、農業を家業から産業に成長させて、コメの増産・輸出化に舵(かじ)を切っていくべきではないのか。


(窪田順生)



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  • 御覧の通り、こういう記事を書いたり「○○が悪い」と本を出版したりする連中が一番儲けている。「わくちんはどくだ!」と同じ構図。
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