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Jリーグが開幕して2節を終えた。清水エスパルス、湘南ベルマーレが連勝で首位を争っているのは波乱含みのスタートと言えるか。もっとも、各チームの力は拮抗し、そこまでの驚きはない。アビスパ福岡、東京ヴェルディは連敗で下位に沈んでいるが、巻き返しも十分にある。
「勝敗は兵家の常」
有名な故事にあるように、勝ち負けはどちらにでも転ぶ。大事なのは勝ち筋を定めること、つまり、"勝利の構造"である。そこで不具合があれば、たとえ勝利を拾っても、必然で勝つことができない。やがて、チームに暗い影を落とす。
今回は3−4−2−1というシステムにおける1トップ2シャドーの編成を切り取ることで"必然"を探る。
1トップ2シャドーは、ストライカーと影のように動くふたりのアタッカーが、攻撃を活性化するシステム。この形は「敵ラインを破れるか」がカギになる。たとえば、ひとりがボールを受けに下がって展開し、その裏を他の選手が狙い、相手ラインをブレイクする。コンビネーションの妙だ。
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今シーズンは、J1クラブの半数が3−4−2−1を使っている。森保一監督が2026年ワールドカップアジア最終予選でも用いたことも契機になったか―――。
2月22日、FC東京は本拠地でFC町田ゼルビアに0−1と敗れている。開幕戦はアウエーで横浜FCを1−0で下した。しかし勝敗は逆になっても、中身はさほど変わっていない。
1トップ2シャドーは、この日も空回りを起こしていた。
FC東京は前線を形成するトップのマルセロ・ヒアン、シャドーの仲川輝人、俵積田晃太と、いずれも「縦」を持ち味としている。ライン間でボールを受け、相手を引き連れて展開、撹乱するようなプレーを得意としていない。町田戦も、ヒアンは何度もボールロストを繰り返し、仲川は下がる角度やタイミングが味方と合わず、俵積田に適性があると見えるのはサイドだった。
手詰まりは当然だった。
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一方、町田も1トップ2シャドーだったが、そのよい関係性が透けて見えた。たとえばトップのオ・セフンが相手をガードしながらボールを受ける姿勢でスルー。裏に走ったシャドーの西村拓真がミドルシュートを放つ。単純なハイボールや裏へのパスなどバックラインとの呼吸があったし、相馬勇紀のカットインからのクロスなど、パターンがあった。
【町田とFC東京の「差」とは】
FC東京も町田も同じように受け身的なサッカーで、スペクタクル性には乏しかったと言える。しかし、"選手の性質がポジションに適応し、トレーニングで鍛えられているか"の差が出た。チームとしてのデザインの問題だ。
FC東京は、ほとんど有効な縦パスをつけられなかった。マンマークに近いプレスにはめられてしまい、GKへのバックパスも多く、やり直しても元の木阿弥に。インターセプトの危険も増えた。また、左利きがいないのも致命的で、右利きが並ぶと自然にパスは左巻きになるが、左ウイングバックも左利きではない。タッチラインをギリギリまで使えないのだ。
一方で町田は前半終了間際、相馬が中に入って相手をピン止めし、中山雄太が左で幅を取り、ボランチが縦を走ったところに左足でタッチラインを沿うパスを通した。この折り返しへのボレーはゴールにはならなかったが、道筋を作っていた。そして決勝点は、左サイドの中山が間髪入れずに入れたクロスを、西村が背後から飛び出して決めた。
1トップ2シャドーを冠するシステムは、"相手にラインを越えさせず、相手のラインを崩せるか"が眼目になる。その点、中盤もバックラインも同じことだ。FC東京の失点シーンでは、ボランチの小泉慶が敵センターバックに一発でかわされ、ラインを破られたことによって守備が無力化されていた。攻撃だけでなく、守備でも破綻があった。
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システム運用の点では、1トップ2シャドーで際立ったスタートを切ったのが柏レイソルだろう。
新たに就任したリカルド・ロドリゲス監督は、昨シーズンまでの凡庸な戦いを改善。選手の性質を見抜き、立ち位置から改善し、ポゼッションを攻守に有効に使っている。シャドーの小泉佳穂はライン間を漂い、テンポを作れる。センターバックも左利きを入れ、積極的に縦へ。左ウイングバックはジエゴがパワーで圧倒、チームを旋回させられる。川崎フロンターレ戦は1−1と引き分けだったが、"指揮官によってチームの戦いが変化する"象徴だ。
1トップ2シャドーの成熟度が一番高いのは、ミヒャエル・スキッベ監督のサンフレッチェ広島だろう。
前線の3人が攻守で主導権を握る。トルガイ・アルスランは垂涎の技術でプレーメイクし、加藤陸次樹がキープ力でボールを前進させ、ジャーメイン良はポストプレー。横浜F・マリノス戦(広島が1−0で勝利)でも、田中聡からの縦パスをジャーメインが受け、アルスランに落とし、裏に走っていた田中にスルーパスが出て、シュートまでいった一連の動きは美しかった。ゴールの絵が見えるチームだ。
システムに万能はない。だからこそ、選手の性質がポジションに適応しているかが問われる。それをトレーニングで鍛え、試合で成果を上げることで、ようやく必然は生まれる。選手のキャラクターと合っていない戦い方は、不毛の地を耕すようなものだ。
「勝敗は兵家の常」
勝ち負けの外に、戦いの本質はある。