「ゲオのスウェット 658円」の衝撃 ペラペラなのに、なぜ「週に1万着」も売れるのか

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2025年02月27日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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ゲオの店内はどうなっているの?

 「GEO(ゲオ)=レンタルショップ」といったイメージを持つ人は、どのくらいいるのだろうか。


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 「以前はよくDVDやCDを借りたなあ。映画はPCで見るし、音楽はスマホで聞くようになったし、いまは行かなくなったよ」「かつてのライバル『TSUTAYA』は、オシャレな書店を運営しているイメージがあるけど、ゲオって何を扱っているの?」などと思われた人も多いかもしれない。


 NetflixやSpotifyなどコンテンツの配信サービスが普及したことによって、ゲオのビジネスモデルは変わりつつある。売上高の構成比率を見ると、レンタル事業はどんどん縮小していて、この10年で3分の1に。一方、古着などを扱う「セカンドストリート」や中古スマホ事業は伸びていて、急速に拡大している。


 ゲオは、もはやレンタルショップではない――。と言い切れるわけだが、店内でアパレルを扱っていることをご存じだろうか。半纏(はんてん)、パーカー、ボクサーパンツなどが並んでいて、その中で注目を集めているアイテムがある。「あったかスウェットセットアップ」(以下、スウェット)だ。


 2024年10月に発売したところ、週1万着ペースで売れている。2月中旬に25万着を突破し、3月には30万着の大台に乗りそうだという。


 このスウェットについて、ゲオは次のように説明している。「ふんわりとした優しい肌触りと抜群の着心地を実現。軽量で厚すぎないため、ルームウェアとしても普段着としても使えます。また、ベーシックなデザインなので、さまざまなコーディネートに合わせやすいのも魅力」としているが、最大のウリはなんといっても「価格」である。


 上下のセットで「1098円」。「さまざまな商品が値上げしているのに、スウェットが1100円ほど? しかも上下で?」と驚かれたかもしれないが、実は春が近づいていることもあって、現在は値下げをしている。メンズは768円、レディースは658円だ。


●「低価格」にこだわる理由


 スウェットの上下が1098円――。ちょっと信じられない価格だが、ゲオはどのような方針で売価を決めているのか。素材を安く仕入れたので、「じゃあ、1098円で」なのか。それとも「価格は1098円で」と決めてから、素材を仕入れるのか。答えは、後者である。


 商品を開発するにあたって、さまざまなコストを見直した。例えば、メーカーや商社などを通さずに、工場から直接仕入れることで、利益がでるように工夫を凝らした。このほかにも、物流コストを改善したり、保管コストを抑えたり、人件費を精査したり。「ここも見直して、あそこも見直して」といった具合に、何度も改善を重ねて、ようやく商品が完成した。


 で、次に何をしたのか。「大量生産→全店で販売」といった流れではなく、まずはテスト販売である。10店舗ほどで販売して、お客の反応はどうなのか、売り上げはどうなのか、改善すべきはどこなのか、といったことを検証するという。


 スウェットの場合、2022年と2023年にテスト販売を実施。「もう少し暖かく感じられるほうがいいよ」といった声があったので、「裏起毛」の素材を使うことに。2023年には3万着を販売したところ、あっという間に完売。この結果をもとに試算したところ、「ワンシーズンで30万着は売れるはず」といった見通しが立ったので、その数を生産した。そして、冒頭で紹介したように、現在は30万着に迫る売れ行きなのだ。


 それにしても、なぜゲオは低価格にこだわるのか。スウェットの試作品を目の前にしたとき、社内からはこんな言葉が飛び交ったという。「生地がペラペラじゃないか。こんな商品が売れるのか」と。


 開発を担当した松岡良房さんも、ペラペラなことはよく理解している。価格を2000円にすれば、違う素材を使うこともできる。それを使えば「ペラペラ」とは言われなかったはずだ。


 にもかかわらず、なぜ1098円にこだわって、社内から疑問の声がでてくる商品を開発したのか。「アパレル市場において、ゲオは後発組なので、競合他社と同じことをやっても勝負にはなりません。だから『1098円』という価格を変えるつもりは、全くなかったですね」(松岡さん)


●「テレビ」を中心に商品開発


 ゲオがアパレルに参入したのは、2022年である。右も左も上も下もよく分からない中で、グローバル展開をしている会社と“がっぷり四つ”に組んで戦っても、結果は見えている。


 業界のトップランナーは高機能の素材を開発しているし、多くの人に好まれるデザイン力もあるし、データを分析する人材もそろっているし、国内外でブランド力があるし。なにからなにまで圧倒的な差があるなかで、突破口はどこにあるのか。そう考えた末に、たどり着いた答えが「価格」だったわけだ。


 ゲオのアパレル戦略でユニークな点は、ルームウェアに特化していることである。「スウェットは家で着てもらって、外出するときは近所のコンビニまで」といった具合に、コンセプトが明確なのだ。


 「スウェットはペラペラなので、風が強い日に外出すると、隙間から風がビュービュー入ってくるんですよね。ですので家の中であれば問題はないですが、外出するときにはワンマイル程度にしていただければ」(松岡さん)


 アパレルのキャッチコピーを見ると、次のような言葉をよく目にする。「家でも外でも、オシャレでカッコよく」――。だが、しかし。ゲオの担当者からは「ペラペラ」とか「風がビュービュー」といった表現が出てくる。こうした言葉が使われるのは、単に「謙遜」や「自虐」によるものではなく、「テレビ」が大きくかかわっているようだ。


 このような話をすると、ピンときた人もいるかもしれないが、ゲオの店内にはDVDやCDが並んでいる。テレビやイヤフォンもあるし、マクラもある。そうした商品が並んでいる中で、スウェットを見た消費者は、このように感じるかもしれない。「映画やドラマを見るときに、この服を着るといいかも。家でゴロゴロしたいときにピッタリだ」と。


●“ついで買い”が目立つ


 では、スウェットはどのような人たちが購入しているのか。「広告を見て買った」「クチコミで知って購入した」といった人もいるが、店内でDVDを借りたときに「あれ、スウェットを売ってるんだ。映画を見るときに、ちょうどいいかも」などと考える人が多いようである。いわゆる“ついで買い”が目立つそうだ。


 先ほどから「ペラペラ」という言葉を何度も使っているが、購入者はこの“薄さ”を好意的に受け止めているようである。家でゴロンとするときに、しっかりとした素材だと動きにくいと感じる人もいる。家だから柔らかい素材のほうが動きやすいし、リラックスできる。そのため、「あえてペラペラのほうがいい」といったニーズがあるようだ。


 このようにスウェットは順調に売れているわけだが、課題もある。認知度だ。


 冒頭で紹介したように、「ゲオ=レンタル店」といったイメージが強いので、アパレルを扱っていることを知らない人も多い。もちろん、DVDやCDを頻繁に借りる人からは「そんなことは知ってるよ」といった声が飛んできそうだが、店内に入らない人にとっては知らない世界である。そうした人たちに知ってもらうためにも、今後はPR力が問われそうだ。


 いずれにしても、ゲオの店内は今後もどんどん変わっていきそうである。広報担当者に聞いても「自分たちも未来を予測することが難しくて。どんな店になっているでしょうね」と苦笑いしていた。


 5年後、10年後には、こんな商品が並んでいるかもしれない。


 簡単につくれて、映画館の気分が味わえる「ミニポップコーンメーカー」(2999円)。長時間ゴロンとしても疲れにくい「ソファ」(3888円)。ホラー映画を見るとき、恐怖感が増す「間接照明」(1499円)。いずれも、テレビを中心に半径3メートル以内で使えるモノばかり。もちろん「低価格」だ。


(土肥義則)



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