J_News_photo - stock.adobe.com 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
今回取り上げるのは、資生堂。2024年12月期の最終赤字が108億円となりました。日本やヨーロッパは堅調な一方、注力エリアである中国、米州が回復しきることができません。ヘアケアブランド「TSUBAKI」の売却も誤算が続いているように見えます。
◆買収したスキンケアブランドが苦戦
コア営業利益は8.7%の減益。コア営業利益とは、営業利益から構造改革に必要な費用や減損損失を除いたもので、本質的な稼ぎを示すもの。資生堂は2023年12月期もコア営業利益が2割減となっており、2期連続で減少したことになります。
利益面で重荷となったのが米州事業。コア営業利益は2億円となり、98%もの減益となったのです。売上高は7.5%増の1185億円となったものの、これは買収したスキンケアブランド「Dr. Dennis Gross Skincare」などによる押し上げ効果が働いたため。それを除外すると、7.0%の減収でした。
資生堂は2019年に「Drunk Elephant」を買収しています。2013年にティファニー・マスターソン氏が独学で成分や処方を学んで立ち上げたブランドで、肌の刺激になりにくい設計がされているというもの。SNSでユーザーと積極的に情報を交換し、口コミでその評判が広がりました。
しかし、このブランドの売上が伸びません。2024年12月期は30%もの減収でした。2024年10-12月の売上に至っては、60%もの減収となっています。ターゲットを絞り切れず、プロモーションが欠如していたことなどが背景にあるといいます。今後はブランドマーケティングの強化、ターゲットの明確化を進め、立て直しを図ります。
◆いずれは巨額損失を出す可能性も
さて、「Drunk Elephant」をおよそ900億円で取得したわけですが、巨額ののれんが生じた可能性があります。のれんとは、買収した会社の純資産と買収額の差額のこと。無形固定資産として計上する決まりです。
資生堂のようにIFRSという国際会計基準を採用している場合、定期的に減損テストを行う決まりです。減損テストは、計画していた収益性が得られているかどうかを検証するもの。仮に下回っていた場合、のれんの価値を下方修正し、損失として計上しなければなりません。
資生堂はエリアを一つの単位として検証する方式を採用していますが、「Drunk Elephant」の大幅な減収が続けば、将来的に思いがけない巨額損失を出すことにもなりかねません。
◆痛かった「中国事業停滞」
売上においては、中国事業が出遅れています。0.8%の増収。現地通貨ベースでは5.3%の減収でした。資生堂にとって、中国事業は売上高全体の1/4を占めており、日本に次ぐ主力事業。ここの停滞は会社の成長に大きく影響します。
かつて資生堂などの日本の化粧品は、中国において安心・安全という絶対的な地位とブランドを確立し、人気を博しました。しかし、2021年に中国政府が国内の化粧品における規制緩和を行ったことで、安価なブランドが次々と登場。中国の景気停滞を相まって、格安ブランドの人気が高まりました。高級志向の資生堂がシェアを失っていったのです。
2025年12月期においても、中国事業は1%程度の減収を見込んでいます。資生堂には価格面で対抗できるブランドがなく、反転攻勢に出る武器が欠けています。また、構造改革を実施して一部の店舗や事務所の閉鎖も進めました。
資生堂は中国マーケットにおいて、規模を追わない姿勢を鮮明に打ち出しています。事実、中国事業のコア営業利益は122億円であり、1.8倍近くに急拡大しています。資生堂は2017年12月期に売上高は1兆円を超えて大躍進を続けていました。それを支えていたのが、中国事業の好調。現在はその影がなく、成長に向けたエンジンが欠けている印象を受けます。
◆ファイントゥデイの持株は安値で手放した?
「TSUBAKI」の売却も上手く行っているように見えません。
資生堂は2021年にパーソナルケア事業を投資ファンドのCVCキャピタルパートナーズに1600億円で売却しました。大再編を行ったのは、コア事業に経営資源を集中させるため。賛否両論あるものの、このM&Aはコロナ禍で商環境が激変する中で、選択と集中を進めるために必要なものだったと見ることができます。
ただし、資生堂は売却後も継続的に一部の株式を保有し、投資ファンドと共同で事業運営を行っていました。後にこの会社はファイントゥデイという社名に改めます。資生堂はファイントゥデイの持株20%を2024年6月末に売却。128億円の売却益を出しています。すなわち、100%の価値を650億円程度と判断していることになります。
ファイントゥデイは上場準備に入り、2024年に公開直前まで行って中止になった経緯があります。その際の想定価格は2150円。この価格に基づく時価総額の試算値は2194億円です。
この持株の売却については、2024年11月の決算説明会で機関投資家からつっこみを入れられ、チーフファイナンシャルオフィサーの廣藤綾子氏は「今後キャッシュ重視の財務ガバナンスに切り替えていきたいという思いを私自身は持っています」とコメントしました。
資生堂が持株を売却した相手はCVCキャピタルパートナーズですが、投資ファンドとの交渉が有利に進まなかった跡も見て取れます。
今期は米州で10%台の増収を計画しています。「Drunk Elephant」ブランドを立て直し、大幅増に導くことができるのか。ここが今期一番のポイントとなるでしょう。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界