中谷潤人は「成長が加速している」元ヘビー級王者が語るセンスの高さと、井上尚弥との夢の一戦

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2025年02月27日 10:01  webスポルティーバ

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【何もできなかった挑戦者に同情「仕方ないさ」】

「ジュント、いい試合だったな! 全勝同士の対戦といっても、チャレンジャーとは大きな差があった。格が違うよ」

 28勝無敗(18KO)のメキシコ人挑戦者も、中谷潤人にかかればひとたまりもなかった。WBCバンタム級チャンピオンが3ラウンドでダビド・クエジャールをKOした5時間後、ペンシルバニア州ベンサレムの2LDKアパートで、中学2年生の娘と暮らす元世界ヘビー級チャンピオン、ティム・ウィザスプーン(67)は興奮気味に語った。

「クエジャールは、リングに上がった時点でナーバスになっていた。表情が硬かったよ。ゴングが鳴ってからの動きもだ。世界タイトル初挑戦だから無理もない。サウスポー対策はしただろうが、ジュントほどのチャンプの攻略法などそう簡単に見つからないから、パンチをかわせなかった。オープニングベルから、ペースを奪われたね。

 一方、ジュントはリラックスして挑戦者を迎え撃った。自信満々だったな。試合開始直後から、バンバン左ストレートを打って相手を威嚇した。距離とタイミングを計っていたね。挑戦者は恐怖心でいっぱいだった筈だ。『これを喰らったらマズい』と心理的に追い詰められていった。俺が見る限り、クエジャールはディフェンス力がかなり低い。あれで無敗っていうのがちょっと信じられないね。彼の戦績は、優秀なマネージャーがついているからこそだ。ジュントは1ラウンドを戦ってみて、『ノックアウトは時間の問題だ』と感じていただろう」

 2023年5月のファイトで中谷がアンドリュー・モロニーを最終ラウンドに仕留め、WBOスーパーフライ級王座に就いたあたりから、ウィザスプーンはこの日本人チャンピオンに注目している。無論、井上尚弥にも高い関心を示す。

「2ラウンドに入ると実力に加え、世界タイトル9戦目と1戦目という隔たりが顕著になった。ジュントはストレートを顔面にだけじゃなく、胸、腹、と見舞うようになった。攻撃のバリエーションが増した。

 挑戦者は怯えてしまって、動きが単調になったね。戦いようがなかったんだな。コーナーにいたセコンド陣が、いったい、どういうメニューで準備させたのか疑問に思ったよ。ポジショニングが悪く、ジュントが打ちやすいスタンスしか取れなかった。もっとリングを回るとか、ダッキングしながら距離を詰めるとか、考えなかったのかな......。

 ジュントは目がいい。チャレンジャーを物すごく冷静に観察していた。無敗の挑戦者といっても、すぐに『ディフェンスが穴だらけだ』と気づいたはずだ」

 ウィザスプーンは、挑戦者に同情するように言葉を続けた。

「クエジャールがジュントに挑むのは、早過ぎたよ。あと3、4戦して、世界タイトルマッチに絡めるレベルになってからリングに上がるべきだった。何も出来なかったな。メキシコから敵地である日本に行き、これだけ強いチャンピオンと拳を交えるんだぜ。並の挑戦者じゃ太刀打ちできっこない。仕方ないさ。

 ボクサーっていうのは、正しい練習を積み重ねた者だけが成功する。クエジャール陣営に確かな知識を持っている人間がいるとは、とても思えない。ボクシングの完成度が実に低い。ジュントの左ストレートの餌食になるのを、黙って見ていただけさ」

【自らの経験を踏まえて説くディフェンスの大切さ】

 ウィザスプーンは、クエジャール戦に向けて中谷がこなした211ラウンドのスパーリングのうち、1月27日にLAで行った8ラウンドの映像を目にしている。試合前、以下のように話していた。

「時折、ジュントがガードを下げてパートナーを誘うシーンがある。これは、あくまでもスパーリングだからやっているんだろう。本番では、ガードを上げなきゃダメだ。試合だろうが練習中だろうがディフェンスを疎かにしてはいけない。絶対にだ」

 1984年にWBC、1986年にWBAヘビー級王座に就いたウィザスプーンは、44歳にしてIBF9位にランクされた男である。現役選手としての最盛期にプロモーターのドン・キングによるピンハネに泣いたウィザスプーンは、競技に集中出来なかった。メディアに発表されたファイトマネーの9割を搾取されたこともある。

 キングを相手取り、法廷闘争を仕掛けた際には、空の薬莢と共に脅迫状を送りつけられる経験までしている。結局、当時の日本円で1億ほどの和解金を得るが、すべてを蕩尽(とうじん)し、再びリングに戻った。ボクシングでしか、金の作り方を知らなかったからだ。そして45歳まで現役を続けた。

"男手ひとつ"で4人の子どもを世話していたウィザスプーンは、晩年、ろくに練習もせずに試合に出場した。それでも世界十傑に名を連ねられたのは、"打たせない技術"を身につけていたからだ。だからこそ、どんなファイターに対してもディフェンスの重要性を説く。

「今回のジュントは、流石に世界タイトルの防衛戦だからガードを下げるようなことはしなかった。終始、彼の距離で戦っていたね。3ラウンドに入るとチャンピオンは前に出た。クエジャールのダメージを見て、『このラウンドで仕留める!』と決めてギアを上げたんだろう。ノックアウトに結びつく"この時"を作りにいったんだ。1、2ラウンドやってみて、クエジャールにはストレートが効くと感じ、ますます自信を深めたんだろう。

 接近戦でのジュントは肘を折ったり、両方の肩を大きく内側に動かして挑戦者のパンチを殺しているね。非常にうまい。まぁ、この相手なら、ジュントがその気になればファーストラウンドで試合を終わらせることも可能だったと俺は思う」

【井上尚弥とは「戦うことになるさ」】

 そして、迎えた第3ラウンド。中谷はストレートをぶち込む距離を計りながら、リングを支配する。クエジャールが接近戦に活路を見出そうとしても、挑戦者のパンチをブロックした。

「ジュントはわかっていたんだよ。ノックアウトで終わらせる術を。2年近くジュントのファイトを見てきたが、成長が加速している。どんどんシャープになっている。結果的に1、2ラウンドはジュントにとって、ウォーミングアップだったんだろうな」

 同ラウンド2分28秒、中谷は左ボディアッパー、右ボディアッパーをヒットし、クエジャールの動きを止める。間髪を入れずに、ジャブからボディへの左ストレート、顔面へのワンツーで挑戦者を沈めた。「プロデビュー以来、ダウン経験ゼロ」が売りのクエジャールだったが、もはや成す術がなかった。虚な目をして起き上がったが、さらに中谷の左フックを浴び、腰からキャンバスに崩れ落ちた。

「見事な仕留め方だ。速いよ。ジュントは、この爆発力をどこで出すか組み立てていたんだ。顔面、ボディと打ち分けているところにセンスを感じる。

 世界チャンピオンにも、いろんなレベルがある。ごく一部の人間がアーティストの域に達する。モハメド・アリ、マイク・タイソン、マービン・ハグラーなんかがそうだ。残念ながら俺はそこまではいけなかった......。でも、ジュントは到達している。ナオヤ・イノウエもだ。まぁ、ひとつしか変わらない階級で2人のジャパニーズが連戦連勝しながら複数階級を制しているんだから、戦うことになるさ。

 両者がぶつかった時、明暗を分けるのはディフェンス力だ。先にクリーンヒットしたほうが勝つと俺は見る。KO決着になるんじゃないか。アメリカのボクシングファンも胸を踊らせるメガ・ファイトだ。俺もワクワクするよ」

 WBCバンタム級王者の今年の目標は「ケガなく、理想高く突き進む!」。モンスターを猛追しながら、中谷潤人の挑戦は続く。

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